18
恐ろしい力を誇ったリザードマンはこちらに向けて動き出す直前だったようで、頭部を炭にして倒れ込んできたので、咄嗟に飛び退いた。
ズサァと湿った土を巻き込み足元まで滑ってきた。未だにぷすぷすと煙が異臭と共に空気中に霧散する。その臭いに耐えられなくなりアルフォンの元へ向かうと口から真っ赤な川ができ水たまりができている。
「アルフォン! 大丈夫か!」
アルフォンにもしも何かあればと渡されていた薄い赤のポーションを開封しアルフォンの傷口にかけるが、効き目がほとんどないようで預かったポーション全てを振り撒いた。こんな状態の時に医療の知識があれば、まず脈を取るなどの適切な処置ができるのであろうが、自身にはそのような知識は一切なく、命のやり取りをした直後であったこともあり、そこまで気が回らなかった。
声を掛けても肩を揺すっても反応がないのでミリーの方へ向かう。そこには横腹が抉り取られたようにひしゃげ、肋骨が剥き出しとなり、首も変な方向へ曲がってしまっている。唯一の救いは即死だったようで呆気に取られた表情をしていたことだろうか。
その様子を一瞥し、キュレルの元へ向かうことにした。
「大丈夫か?」
「……みんな、死んじゃったね」
キュレルは涙を堪えて鼻声で言葉を紡ぐ。
「いつも引っ張ってくれたアルフォンも、気配り上手なミリーも……死んじゃったよぉ」
ついに堪えていた涙が溢れ出る。なんて言葉をかけたらいいかわからなかったが、胸を貸し泣き止むまでじっと見守ることにした。
「……ありがとう、もう大丈夫」
キュレルは真っ赤になった目を擦りながら顔を上げた。まだ目端には涙が残っていたので優しく拭ってやる。その時、これまで深く被っていたフードが指に引っかかったようで脱げてしまった。
そこには黒目黒髪のいかにも日本人の女の子がいた。アルフォンのように腰まで届きそうな髪を先端と真ん中あたりで結ばれている。これまで彫りの深い顔の人がほとんどであったが、彼女はそれほど濃くなく、現世基準だと美少女と言っても過言ではない容姿をしている。
素顔に面食らっていると、キュレルはフードが脱げていることに気づき、深く被り直した。
「どうしてフードを被ってるんだ?」
「この国の人は私みたいな平べったい顔の人は嫌いみたいで……賢者様にも嫌われたら、もう……」
再び泣きそうになるキュレルを抱きしめ、可愛いじゃないか、嫌いになんてなるものかと声を掛け泣き止んでもらおうとするも、失敗に終わり、また泣き止むまで待つのだった。