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工房の周辺は出ていく前と打って変わり足音以外の音がない。
もう少しで日が沈むこともありこのあたりを行き交う人は疎らだ。
ぶらぶらと歩き回っている時に聞いた話だとこの時間帯になると多くの人は露店が立ち並ぶ大通りか住宅街で開かれる夕市に行くみたいだ。
工房のドアを開けると外に比べて一段と静寂に満ちていた。
テーブルの上に布で巻いた何かを真剣な眼差しで見つめるカレンの姿があった。
「……これまでどれだけやっても変形させることすら出来なかった鉱石が、あんたの付けた炉のおかげでようやく完成させることが出来た。……ありがとう、それとあんたの魔法を馬鹿にして悪かった」
消え入りそうな声でカレンは言葉を紡ぐ。
そして16と書かれた手のひらサイズの木の札をテーブルを滑らせてこちらに渡してきた。
「それを持っていけばギルドから報酬が貰えるから__あと作ってほしいものがあれば材料さえ揃えたら一つだけタダで作ってやる」
それだけ言うとカレンは布で巻いた物を持って工房の奥へと行った。
その後ろ姿に文句の一つでも言おうとしたが止めた。
今後何か作ってもらう時に断られたら困るのといまの彼女は話をしている暇はなさそうだったからだ。
完了印と思わしき物も受け取ったことでここに用はないので、踵を返しギルドへと向かった。
「そこで言ってやったんだ__「姉ちゃん!こっちにもおかわ__「今日もおつかれ!」」」
朝来た時に比べかなりの人がおりそれぞれが話しているので騒音に近い音が絶え間なく聞こえる。
軽い目眩を感じたが眉間を軽く押しギルドの受付に向かう。
そこには長蛇の列ができ「早く除け!」「食事の誘いなんざしてんじゃねえ!」等と野次が飛び交っている。
唯一の男性職員だろうか端の列は混んでおらずそこに向かう。
近くまで来るとギルドで立ちつくしていた時に声を掛けてきた学者の男性だった。
「こんばんは、こんなに早く会えるとは思っていませんでした。依頼の報告ですか?」
こちらに気づいたようだ。ええ、と答え貰った木の札を提示した。
「16と言うと……ドゥーム工房のカレンさんの依頼ですね。さすが火の賢者と言われるだけはありますね。あの依頼5年程前から誰も成功できなくてお手上げだったんですよ。__これが依頼達成報酬です。」
男性は嬉しそうに終始笑みを浮かべている。
差し出された依頼報酬の袋を開けると、金貨が10枚程入っている。これで当分の間はなんとかなると思い安堵のため息をついた。
「今は仕事中なのでまた今度食事をご一緒できる時にでもどうやって達成したか教えて頂けませんか?」
「炉に火を付けただけですよ。別に特別なことはしていませんよ」
それでは、と受付から離れギルドを後にする。
そのまま昨日と同じ宿で金貨で支払いをすると10日間分のようだったので、連泊をお願いして明日に備えて支度を済ませるとすぐに夢の中へ落ちていった。