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鍛冶の準備が整ったようで、炉の中へダイアモンドのような石をやっとこ鋏を器用に使い、炉に入れていく。
それから数分だった頃だろうか石が赤みを帯びていく。
その様子にカレンは驚きと興奮を感じているようで__終わるまで外に出てろ、と一言呟き炉の中を集中した面持ちで見つめる。
はぁ、と一つため息をついて言われた通り工房を後にした。
間もなくカンカンと鉄を叩くような音が数時間鳴り続けた。
工房から出ると特にやることもないので街中をぶらぶらと歩き回り、今後行く機会があるだろうと思われる武器屋や道具屋、雑貨屋の位置を把握した。
それでも時間がまだありそうだったため道中見つけた本屋で、この世界の歴史について目を通した。
この世界は遥か昔に魔王によって魔族と呼ばれる存在が支配し、全ての動植物や精霊に至るまで蹂躙されていた。
しかし、暗黒の時代からこうして脱却出来たのは初代勇者杏子の存在であった。
彼女は運命神と呼ばれる存在によってこことは違う世界から召喚されたようで、その当時では考えられないような強さを誇り単騎で魔族の大半を倒し遂には魔王まで討ち取ったというのだ。
これだけで充分すごいのだが自身の能力を他人に分け与えることが出来たらしく暗黒時代以降その力で繁栄したらしい。
数年後英雄として崇められるようになってから忽然と姿を消した。
と同時に荒廃した土地等の例外なく緑が戻り、これ以降に生まれた子供には英雄杏子とまではいかないがこれまででは考えられないような力を身につけて生まれだしたらしい。
それから数十年後に魔法使いが誕生し生活環境が改善し各地で人々がコミュニティを形成しだす。
それが何代も続き形を変え性質を変えその風土に根付いた国家という形となって今に至る。
国家は英雄が誕生した聖地と言われるキナコ邸宅跡を中心に、東にヤラカ国、西にタザニア国、南にソレーユ帝国、北にカルタ王国がある。
名称から分かるように杏子は日本人だったことが伺える。
また、英雄杏子は生前カルタ王国のさらに北にある魔族が住む山に足繁く通い、退治していたらしい。
その際、住居や食事等の面でサポートしていたことから、懇意にしていたことが国の名称となって現れている。
異世界からの召喚はこれっきりのようで記載されている書物は見当たらなかった。ちなみに今滞在しているラームの街はヤラカ国に含まれている。
空に赤みが差して来ているのを見て手に取っていた書物を元の場所に戻し鍛冶工房へと向かった。