09
工房のドアを開けた時激しい熱風が頬を叩き思わず目を瞑る。
目を開けると紫に近い赤茶色の髪を束ねた女性が頭を抱えていた。
さらしを巻いてなおその大きさを主張している。
「すみません、ギルドの依頼を受けて来たんですけど……」
「……あ、ああ、そうか。火の魔法は使えるんだよな?」
女性は目の下に色の濃いくまを作っており持ち前の美貌を半減させている。
さらに相当気が滅入っているのだろうか悲壮感も漂っている。
「ええ、一度も使ったことはありませんが登録した時に魔計測の水晶では赤が出ましたので使えるはずです」
「……そうか、まあ、魔法なんてのは想像力さえあれば魔力がある限り使えるからそんな気張らなくていいから」
女性は明らかに期待はずれと言わんばかりに落胆した様子だ。
「とりあえずいまから案内するからそこに火を付けてくれ__そういえば自己紹介していなかったなうちはカレンだ、よろしく」
「カケルだ、こちらこそよろしく。火力はどれぐらいにすればいいんだ?」
「あんたの想像できる最高火力でいいよ」
カレンは面倒くさそうに投げやりに言う。
ギルドでは火の賢者だとよいしょされていたので、自身はイラつきを覚えた。
その鬱憤を晴らし、あっと言わせるためにマグマを想像して魔法を使おうと心に決めた。
「さあ、ここに頼むよ」
小さな炉を指す。
その手前には鉄製の金床とハンマーが置かれている。
それを跨いで炉に向かい片手を突き出す。
だいぶ昔にTVでみたマグマ特集を思い出し強く念じる。
「……ファイア」
するとそこの方からグツグツといいながら炉の中がドロドロした液体で満たされ出す。
それと同時に後ろから笑いを噛み殺すような声が聞こえてきた。
「それはファイアじゃないよ。それにしてもあんた魔法の基礎的なものも知らないのかい?そんな熱を帯びた粘土のようなものを出して火の魔法が使えるだなんて法螺を吹くなんてね」
やれやれと言った様子で出ていこうとする。
「ほんとに熱いだけの粘土か使ってみてから言ってもらいたいね」
売り言葉に買い言葉といった様子で、ピリピリとした空気が場を包む。
「ほぅ、ならそれが使い物になければギルドの方に苦情でも入れようかね。もし使えるようならあんたのために何でも打ってやるよ」
カレンは入口近くのタンスの中からダイアモンドのような石を持って壁に掛けてあるエプロンやハサミといった鍛冶に必要なものを持って来た。