偏差値?3 タルタロス 半魔の女 前編
ここは、獄長室。
「あの、タルタロスさま?」
「なんだい?フェンリル。」
タルタロスはペンを置き、フェンリルと呼んだ男の方を向く。
「あまり、タルタロスからお出掛けにならないでほしいのですが……」
「ほーう…君はぼくの楽しみを奪うつもりかい?」
「いえ、そういうつもりでは……」
タルタロスににらまれ、フェンリルは慌てて言い訳を考えた。
このフェンリルという男は副監獄長で、タルタロスの補佐をしている。狼耳の長身イケメンである。
「ごめんごめん、そんな脅すつもりはないよ。悪いとは思ってるよ、ぼくがいない間君に仕事を任せっぱなしだからね。」
「それは別に構いませんが、知りませんか?最近のニュースで……」
「ニュース?ああ、最近見てないなぁ面白いことがないからねぇ…」
否、アニメしかみていない。
「今やっているかな………ありました、これです。」
「TRTRSニュースです。60年前、地獄と冥界から脱走した悪魔134人のうち、11人が一昨日現世で死体で見つかりました。悪魔は通常現世では死亡せず、死因は現在閻魔庁が調査中です。犯人はまだ見つかっておりません……次のニュースです。先日タルタロス様が逮捕した悪魔が……プッ」
「おい!何で切った!ぼくについてのニュースを!」
「そんなことより今現世では大変なことが起きています。」
「そうみたいだね……」
「あとですね……」
フェンリルはチャンネルを変えた。
「……10年前、同族殺しの罪で追われた悪魔ヘスケイルが現世に現れたことがわかりました。閻魔庁は悪魔死亡事件と関係があるとみて行方を追っています…」
「ほぉ、あいつが?」
「そうなんです。今現世では何が起きるかわかりません。いくらタルタロスが強くても現世にいくのは危険です」
「何いってるんだ!!ぼくたちはあいつらを捕まえる側じゃないか!逃げてどうする。それに被害があったのは悪魔だ。ぼくは悪魔じゃない、平気だ。」
「いえ、でも……」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。……ああこんな時間か。すまないね、仕事は頼んだよ!」
「……いってらっしゃいませ」
タルタロスは獄長室のドアを開け、パタンと閉めた。
「今日も月がきれいだ。冥界とは大違いだね」
少女が歩いているのはもう地獄ではない。
ここはソウタ達がいる国の国境付近、スレトランド辺境伯爵領である。
「おや?ちょっとした都市があるようだ。」
少し遠くにチラチラと灯りが見える。
「行ってみようかな。」
その都市は壁に囲まれていた。
国境付近なので侵入者が入ってこないよう壁でガードしているのだ。
「えーと門番は……いた」
かがり火をたき、二人の門番が槍を持って立っている。
「こんばんは、中に入れてくれないかな?」
「誰だ!こんな夜遅くに!」
門番は警戒し槍を構える。
「めんどくさいなぁ。いいから通してよ!」
両手から鎖をジャッと出し、門番の頭を叩いた。
「?……どうぞお通りください」
二人は疑問に思いながらタルタロスを通した。
「ありがとう♪」
(ぼくが不審者だという認識を奪ったよ)
町は暗かったが(深夜なので)いくつかの家には明かりがついていた。
「ここに来るのははじめてだ。どんな町かなぁ?」
タルタロスは町の通りをすたすたと歩いていく。
「ああ!止めて!」
闇夜に女性の声が響きわたる。
そのあとに数人の男の怒鳴る声が聞こえた。
「ったく…真夜中に何やってるんだ?」
何をしているのかという質問はタルタロスに対してもブーメランになっていた。
声のした方に走っていく。
そこは裏路地でランプの明かりが見えた。一人の若い女性が数人の男に襲われているようだった。
「やめないか!」
タルタロスがさけんだ。
男は4人で、一斉にこちらを向いた。
「んだぁ?このガキは?あっちいってろ、お前にゃ関係ねぇ」
「このぼくをガキだって?」
そういうやいなや、鎖を投げつける。
鎖は絡めとり、男4人をまとめて縛り上げる。
「なっんだ…?こい…つ…?」
ギリギリと鎖でキツく締められ、うめき声をあげる。
そのまま持ち上げ後ろに振り落とす。
「「「「うぐあっ!!」」」」
思いっきり地面に叩きつける。ボキボキと音がした。
女性は呆気にとられていた。
「す、すごい…」
「はやく失せろ!」
鎖を緩め、男達を解放すると、少しうめきながら4人は散っていった…
「さてと、大丈夫かい?」
女性の元へ駆け寄った。
「だ、大丈夫よ。でも子供がこんな……」
「子供じゃないよ!!これでもぼくは大人さ!レディーだよ!」
「え!ごめんなさい、私はイザベラ。助けてくれてありがとう」
「ぼくはタルタロス。なんで男共に襲われていたんだい?」
「それは……」
イザベラは口ごもってしまった。何か言えない事情があるのだろうか?
「言いたくないなら言わなくていいよ、といいたいけどほっとけないね。教えてくれないかな?困っているなら助けるよ。」
「うう……そこまで言うなら…うちに来てください。そこでお話しします」
イザベラの家はボロボロのアパートだった。
「こちらです。汚いですがどうぞ。」
ドアがギィギィ軋みながら開いた。
中は少し狭いが、置いてあるものが少ないのでそこまで感じなかった。
「明かりをつけよう。ライト!そして……」
タルタロスは手のひらから光の玉を出し、宙に浮かせると、鎖を部屋中に張り巡らした。鎖は壁にピタッとくっついた。
「ま、魔法?」
「?…そうだよ?何かおかしいかい?」
「いえ、ここら辺の人間は魔法が使えないんです。なので驚いちゃって……その鎖は?ひとりでに動きましたが…」
「ああ、この鎖は[グレイプニル]といって特別な鎖さ。何か奪う性質があってね、いまこの部屋から外に音が漏れないようにしているよ。」
「そんな不思議な鎖が…!」
「これで何をしゃべっても大丈夫。教えてくれないかな?」
「はい、実は………」
イザベラの話はこうだった。
彼女が「悪魔」だから襲われたのだそうだ。
彼女は60歳、しかしどうみても見た目は小綺麗にしている美しい20代後半、とても若く見えるのだ。
それで彼女は町の者たちから忌み嫌われ、「悪魔」と呼ばれているのだ。
今は掃除の仕事をして細々と暮らしている。さっきは男達の憂さ晴らしで襲われたのだ。
「悪魔、ね……」
タルタロスはじっとイザベラの顔を覗き込んだ。
「何を……?」
「ちょっと動かないでもらえるかな?」
「は、はい…」
タルタロスの目が赤く光った。
「………うん。君は本当に悪魔だね。」
「それは魔眼、やっぱり……」
「でも半分人間だ。君のお母さんかお父さん、どちらかが悪魔だろう。」
「やはりそうでしたか……」
「心当たりは?」
「恐らく、父です。私の母は20年前に老衰で亡くなりました。父は私が生まれてからいませんでした。母は父は旅をしているといってました。とてもかっこよかったといってました。」
「ふーん。怪しいね。君のお父さんは十中八九悪魔だろう。ところで、君はなんで[悪魔]と呼ばれているのにここにいるんだ?追放されたり殺されたりしなかったのか?」
「それは……私がここの領主【妾】だからです。」
「えぇ!?」
確かにイザベラは美人だ。だがいくら美人でも「悪魔」と呼ばれている女を【妾】にするだろうか?
「ここの領主様は大層美人好きなのですが、奥様がとても嫉妬深い方でして……妾を許されないのです。」
「ほうほう……」
「そこで領主様はとても秘密に、私のところに通ってくるのです。噂が流れても、まさか、このような女を【妾】にするはずがない。そう思われるようにです」
「…なるほど、君は領主は好きかい?」
「嫌い、ではないですが好きでもありません。私がここにいるのは母のためですし、嫌われていますが正直この街にいるために【妾】になっているようなものです。」
「母のため、か……」
母のため。イザベラは母を弔うためにここに住んでいるのだ。
しかし、領主がイザベラに飽きたり、領主が死んだあと、イザベラはここを追い出されるだろう。
「よし、イザベラ、この町を出よう!」
「えっ?」
「この町を出るんだ。」
「え?でも母の墓が……」
「お母さんはこっちにいる。」
「?こっち?」
「君をお母さんと暮らせるようにしよう。実はぼくは冥界の管理者なんだ。普段は冥界にいる。」
「???」
「君のお母さんはいわゆる[あの世]にいるから何とかして連れてこよう。そして君には冥界で働いてもらいたい」
「??!?!!?*!∂∀∂!??」
「あれ?混乱させちゃったかな?」
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「へぇ~タルタロスさんは冥界の長で、趣味の散歩でここに来たと。」
「そうそう。で、どうかな?来てくれないかな?別に死なないから大丈夫だよ?」
「うう…ちょっと怖いです。でもなんで私が?」
「一応こっちのルールで悪魔は現世にいてはいけないんだ。人を惑わすから悪いことをさせないってことさ。」
「私は人を惑わすような悪いことはしていませんよ!」
「わかっているよ。だけど、ルールはルールだ。君は半分悪魔、半魔なんだ。こっちに来てくれないか?大丈夫、お母さんと一緒に暮らせるようにするからさ」
「母と暮らせるのは嬉しいですが、領主様がどう思うか……私を大層気に入っていらっしゃったので急にいなくなったら悲しまれるでしょう。それに優しくしてくださった方々にもお礼をしにいかないと………」
「そうだね………わかった。領主にはぼくが伝えにいこう。君は今まで通り生活しておいてくれ。明日の夜迎えに来るよ。」
「! ありがとうございます!」
タルタロスは少しお金を残してイザベラと別れた。
「さて、どうするか……」
タルタロスはうまく領主を納得させる方法を考えていた。
単純に連れ去ればいいと思ったが悪いことをした気分なのでやめた。
正直に訪問しても屋敷に入れてくれるわけがない。
手紙で伝えたとしても、夫人にバレてしまうかもしれない。
おそらく直接伝えるのがいいだろう
「明日乗り込むか。」
タルタロスには荒っぽいやり方しか思い付かなかった。
後編に続く。





