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8:ハーテア先生の魔法講座その3


 それからしばらくユーゴーは色々な魔力操作を練習していた。ゆっくり循環させたり、一部に集めたり、全身に均等にしたり、といった具合だ。

 結局ほんの数十分足らずでほとんど自在に操れるようになったため、魔法習得までの時間は大幅に短縮されたと言える。


「ところで、魔力の量ってのは人それぞれ決まってるのか?」


 ユーゴーの疑問に、セリスは曖昧に首を傾げた。


「う~ん、決まっているとも言えるけど、決まっていないとも言えるかな」

「つまり?」

「うん、つまり、生まれ持って決まる部分と、努力で伸びる部分があるの。通説としては、最大値は生まれながらに決まっていて、実際の魔力容量は努力で伸びる、って言われてるよ」


 魔力を溜める器の大きさは決まっているが、そこに溜まっている魔力量は努力で増やせる、というのがアールスでの一般的な魔力量に対する理解だ。

 ただ、自分の限界値まで魔力量を増やした魔法使いが何かのきっかけで最大値を増やすことができた、という例もあるため、セリスは実はその通説には否定的だ。そのきっかけが何だったかについては語られていないような、眉唾な話ではあるが。


「俺がどれくらいの魔力を持っているか、調べる方法はないのか?」

「そういう魔道具もあるらしいけど、私は持ってないんだ、ごめんね」

「いや、気にしなくていい。それより、魔道具?」

「ああ、そっか、知らないよね」


 セリスは魔道具について説明する。要するに魔法を付与した道具一般のことだ。


 便利なものから用途不明のものまで存在する。例えば『照石』と呼ばれる広く普及した魔道具があるが、これは軽く衝撃を与えると光る、というシンプルなもので、照明や洞窟の探索などに使われている。『方位針』という常に北を指す魔道具などというものもある。


一方で、『ただ一定時間回り続けるコマ』や『落とした高さと同じところまで弾む球』など、なんの目的で作られたのは不明なものも多数存在する。


 魔道具はほとんどそれを作る専門の職人の手で作られるが、世の中には魔道具の発明家なるものも存在するので、存在意義の分からないものが次々に生み出されたかと思うと、稀に世の中を変えるようなものが生み出されることもあるのだ。


「で、そんな魔道具の中に『鑑定鏡』っていうのがあって、人の色んな情報を視覚的に見ることができるんだって」

「なるほど。セリスは使ったことはないのか?」

「ないない。一般人が持てるようなものじゃなくて、貴族王族とかしか持ってないような貴重品だよ」


 第一、別に鑑定したところで自分が強くなるわけでも、魔力量が増えるわけでもないのだ。自分の実力は自分が一番よく知っているのだし、それをあえて目視でチェックしようというのは、もはや趣味の領域だろう。とセリスは思う。


「さて、じゃあいよいよ魔法を使ってみよう!魔力操作がすぐにできるようになっちゃったから、もう簡易魔法ぐらいならすぐにできるよ!」


 簡易魔法で必要なことは魔力操作と属性への適性だけだ。あとは発現させたい属性のイメージをしっかり持っていればいい。


「一応聞くけど、ユーゴーのいた世界にも火とか水とか土はあるんだよね……?」

「……なんだと思ってるんだ。そりゃあ当然あるぞ」

「だ、だよね!魔力も理もないっていうから不安になっちゃった!じゃあ、五大属性はそれぞれ具体的に頭の中でイメージできる?」

「ああ、できると思う」

「じゃあ、魔力を指先に集めて、それをイメージしながら体の外に出してみて」


 セリスがそう言うと、ユーゴーは頷いて指先に魔力を集中させ始めた。

 そして……


≪数十分後≫


「そ、そんな……なんで……」


 セリスは驚愕していた。


「さあな。まあそういうものと思うしかないだろ」


 ユーゴーはやや憮然としている。


「こんなの初めて見たよ……」


 セリスは天を仰ぎ、大きな溜息をついた。


「五大属性全部に適性がないってどういうこと!?」


 天に召します何者様かに不満をぶつける様にセリスが叫んだ。ユーゴーが肩をすくめる。


 そう、あろうことか、ユーゴーには五大属性全てに適性がないのだ。苦手というレベルではない。全くない。

 火を灯そうとしても、水を出そうとしても、気の抜けたような魔力がわずかに指先に揺らぐだけで、何も起こらなかったのだ。


 イメージが具体的じゃないのでは、ということで、実際に水を触りながら水魔法をやってみたりもしたが、ことごとく不発だった。


「仕方ないだろ。できないものはできない」

「なんであんまりショック受けてないの!?」

「自分は何ができないのか、ということを知るのは前進だろ。何ができるのかを見つけることと価値は同じだ」


 魔法に興味津々だった割にユーゴーはドライだ。だが、言っていることはもっともなので、セリスは感心したようにユーゴーを見つめる。


「何だかかっこいいこと言うね……でも、魔法を教えてる先生としてはショックが大きいよ!」

「相性の問題なら、セリスがどうこうできるものではないだろ」

「そうだけど……まさか外発魔法の適性までないなんて……」


 魔法は大きく分けると『外発魔法』と『内発魔法』に分かれる。要するに、自分の体の『外』で発現する魔法と、自分の体の『中』で発現する魔法、ということだ。

 ユーゴーは自分の内部で魔力を操作することには天才的なセンスを発揮したが、魔力が外に出た途端、全く操作できなくなってしまった。


 圧倒的なまでに、魔力の外部操作の才能がない。


 魔法は9割が外発魔法だと言っても良いので、これはもはや「魔法の才能がない」と言っても過言ではない。

 とはいえ、内部の魔力操作がこれだけ得意なのであれば、内発魔法のスペシャリストになり得る才能はある、ということだ。


「それで、内発魔法か?それはどんなのがあるんだ?」

「……うぅ……こんな人初めて見た……」

「おい……」


 あまりのショックに放心状態になっているセリスに向かって、ユーゴーはおもむろに手を伸ばすと、その額に向かって指を弾いた。


「ゅばっ!?」

「しっかりしろ」

「び、びっくりしたぁ」


 日本人の伝統技、『でこぴん』を食らってセリスは我に返った。ユーゴーはそれを見て改めて尋ねる。


「で、内発魔法にはどんなものがある?」

「あ、えっとね、さっき話した強化魔法には内発のものが多いよ」

「ああ、自分の身体能力の強化とかだな」


 内発魔法の代表格と言えば強化魔法だと言える。一口に身体強化と言っても、身体の持つ様々な要素を強化できるので、その種類はかなり細かい。『身体のすべてを強化する』という魔法もあるが、それは最上級魔法に分類されている。

 対となる弱化魔法も内発させることはできるが、好き好んで自分のもっている要素を弱体化させたがる人は少ないので、外発させて敵対者に使うのが一般的だ。


「治癒魔法はどうなんだ?」

「治癒魔法は実は全部外発なの。自分に対して使う場合も、一度外に出した魔力を使う必要があるんだよ」

「そうすると、俺の持ち札は強化と弱化だけ、か」

「他にも『精神魔法』っていうのもあるけど、これもあんまり自分の内部で使う魔法じゃないし……五大属性は適性がないから内発でも使えないし……」


 セリスは今まで五大属性のどれにも適性がない人間を見たことがなかった。属性との相性は、生まれ育った環境に左右されると言われており、海の近くで育つと水魔法の適性が高かったりする。


 それはつまり、アールスで生れ、アールスで育った場合、それらの属性を内包する魔力に囲まれて育った、ということであり、それが「各属性への適性」として現れるわけだ。

 逆に魔力のない世界で育ったユーゴーにはその適性が身に付かなかった、ということなのだろうか、とセリスは推察する。


「強化魔法には簡易魔法はないのか?」

「あ、一応あるよ。一応……」

「どうやるんだ?」

「さっきユーゴーがやってたみたいに、魔力を体の中で循環させるだけ」

「そうなのか?特になにも起きなかったが、どういう効果がある?」

「えっと……ほんの気持ちだけ、気分がよくなる」


 言い辛そうに、セリスはそう説明した。


「……」

「あっ、でも、寝起きとかにやると目覚めがすっきりするよ!あと、普段からやってるとちょっと肌つやがよくなったり!」


 セリスが必死のフォローをするが、ユーゴーはますます微妙な表情をしている。

 だが、ふと気付いたようにユーゴーの表情が変わった。


「む、つまり循環器系に好影響を与えているのか……?」

「ジュンカンキケー?」

「ああ、平たく言うと血の流れだな」

「あー、そうだね、体の活動をちょっと活発にする、みたいに言われてるよ」


 一種の健康法みたいなものだが、ユーゴーはとりあえず納得したようだった。


「それで、強化魔法はどうやって覚えればいい?」

「強化魔法は五大属性に比べるとコツを掴むのが難しいんだよ」

「そうなのか?」

「うん。例えば、水をイメージするのは簡単だけど、『視力』とか『筋力』をイメージするのって具体性がないでしょ?」


 五大属性に比べると、強化や弱化の魔法を使える人の数は大幅に少なくなるが、その理由がここにあると言える。つまり、『魔力をどう変換するか』というイメージが掴み辛いのだ。

 それと失敗した場合、自分の体に直接影響がでるので慎重になる必要がある。下手なことをすると体の一部が膨張したり、悪いと破裂したりすることもある。


「一番分かり安いのは握力だっていうから、まずはそこからかな。拳を握ったときの『力』に魔力を近付けるイメージを訓練してみて」

「分かった」


 この宿題を持って、本日の魔法講座は終わりを告げたのであった



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