23:『アゾット』
「ユーゴー、早く!フーゲルトさんのところに行こう!」
「うるさいぞ。なんでセリスが俺よりはしゃいでるんだ」
「だって楽しみじゃない!」
私は早く完成したガントレットを見たいのでユーゴーを急かしていた。
ちなみに、ユーゴーの武器が完成するまでの3日間はハルメリ観光を満喫した。ユーゴーもかなり楽しんでたみたいだった。
なにしろユーゴーにとってはこっちの世界で初めての大都市だ。知的好奇心が強いユーゴーは街のあちこちで色んな疑問をぶつけてきた。
文化や風習のことや、食物のこと、建築や衣服、売られている様々な物についてなど、ユーゴーの興味の幅はとてつもなく広い。
まあもちろん、いくら博識な私だってなんでも知ってるわけじゃないから答えられない疑問もあった。そういう時は知ってそうな人を見つけて話しかけに行くユーゴーは凄い!
私なんて人見知りしちゃって知らない人にあんなに話しかけられない。伊達に一人ぼっちが長かったわけじゃない!言ってて悲しくなってきた……
ともかく観光している間に3日間をまるっと消化した私たちは、4日目の朝からフーゲルトさんのところへ行って武器を受け取り、そのあとギルドで記念すべき初依頼を受ける予定だ。
「こんにちはー」
「おう!さっそく来たな!」
フーゲルトさんの工房に顔を出して挨拶をすると、相変わらずの大声でフーゲルトさんが返事をした。
「できてるか?」
「あったりめーよ!座って待ってろ!」
ユーゴーの問いかけに胸を張ってそう答えると、フーゲルトさんは別の部屋に引っ込んでいった。私たちは言われた通り、作業台の前に置いてあった椅子に腰掛ける。
すぐに戻ってきたフーゲルトさんが大きな木箱を作業台の上に置いた。
「自惚れのつもりはねーが、俺の作品の中でも相当な逸品だぜ!」
そう言うと箱の蓋を開く。中には4つの黒い金属のブレスレットが入っていた。ブレスレットと言っても幅がかなり広く、リストガードのような見た目だ。
4つあるのは腕用と脚用となっているからだ。それぞれ幅が10センチぐらいで、植物の蔦のような紋様が刻まれていて装飾品のように見える。
ガントレットを注文したのにこれ腕輪じゃん!って人によっては怒り出しそうだけど、これでいいのだ。
「うわー!綺麗だね!」
「中々凝ってるな」
私はアクセサリーとして普段から付けていても違和感のないデザインに思わず感嘆の声をあげた。ユーゴーも気に入ってるみたいだし、さすがフーゲルトさん!
「ガハハハ!そうだろう!まだまだこんなもんじゃないぜ!とりあえず付けてみろ!使い方を教えてやる!」
ユーゴーが言われるまま両手足にブレスレットのようなそれを装着する。なんだか悔しいけどよく似合っている。普段から暗めの色の服を着ているので、黒いブレスレットは違和感なく馴染むし、何よりユーゴーの黒髪に合っている。
「サイズもぴったりだな」
「きつかったり緩かったりしねーか!?これが『ベースモード』だからな、ここで合ってねーと話にならん!」
そう、ガントレットを注文してブレスレットが出来た理由はそれだ。ヒヒイロカネはとっても便利な金属で、使用者の魔力に応じて形態変化するのだ。つまり、腕に装着したものは形態変化でガントレットに、足に装着したものはソルレットに変化する。
ちなみに形態変化するくせに『不変の金属』と言われる理由も、実はその形態変化にある。別に謎かけじゃないよ!
形状を記憶していて、多少欠けたり折れたりしても形態変化の時に他の部分がその欠損を補完して元の形に戻るというわけ。
「それでこれが余りだな!報酬分は差し引いたが、これだけありゃあ余裕で欠損も元通りだ!」
フーゲルトさんがどん!と作業台に残りのヒヒイロカネを出した。大体半分ぐらいのサイズになっているけど、もちろん誤魔化されたりはしないと信じているので、そのまま空間袋にしまい込む。
ちなみに、今フーゲルトさんが言っていたのは、ヒヒイロカネの武具は多少の欠損は形態変化で元に戻るものの、度々欠損が出たり、大きく欠損してしまうと段々と薄く、脆くなってしまう。そういう時に原石に触れた状態で形態変化させるとあら不思議!それを取り込んでまた元通りになる、という優れものなのだ。
まあ、とは言ってもそもそもヒヒイロカネ自体が最高峰の硬さを持つ金属だから、欠けること自体ほとんどあり得ないんだけど。
「こいつは体内の魔力の動かし方でモードを変更する!パターンを教えるから覚えておけよ!」
「ああ、頼む」
それからユーゴーは熱心にフーゲルトさんから武器の扱い方を習った。いくつかあるモード変化を一通り試して(中には物騒なのもあったけど)、おおよそ使い方を把握したみたいだ。
「ああ、それとな、モードは一つ余剰がある!実際に使ってみて何か欲しい機能があったら付けてやる!」
「ほう、なるほどな。あえて一つ空けておくなんて、いい仕事だな」
「使ってみなきゃ分からねぇことはあるからな!なんならモードの書き換えもしてやるぜ!」
さすがフーゲルトさん!アフターケアもばっちりだ。後で自由に設定できる余剰を作るなんて、なんとも憎い演出だ。
「あと最後にこいつの名前だがな!『アゾット』と名付けた!」
「名前があるのか?」
「おうよ!傑作には名前を付けるのが俺の信条だ!」
「アゾットね……まあ悪くないか」
「かっこいいよ!」
フーゲルトさんは見た目はこんなだけどセンスがある!デザインも名前もとってもいいと思う。ユーゴーが嫌がらないのがその証拠だ。
「ああ、それとこれはオメーにだ!」
ユーゴーへの説明を終えると、フーゲルトさんは小さな巾着を私に投げて寄越した。突然投げられたので慌てて2、3回お手玉した結果、何とか落とさずに受け取れた。
巾着を開けると、ユーゴーと同じデザインの、白いブレスレットが入っていた。
「わあ!かわいい!」
「そいつもついでにヒヒイロカネで作った!形態変化は一つだけだ!オメー見たところ近接武器を持ってねーだろ!敵に接近されたらそいつを装着した腕を相手に向けて、腕の魔力を回転させろ!ああ、間違っても自分に向けるなよ!」
「はい!ありがとうございます!」
接近されても常時結界があるから大丈夫なんだけど、そんなことよりフーゲルトさんの気遣いと、ユーゴーとおそろいのブレスレットが嬉しい。こっちは幅が3センチぐらいで、本当に『ブレスレット』という感じだ。
「ねえねえ!おそろいだよ!」
「不本意」
私がはしゃいで右腕に付けたブレスレットを見せびらかすと、ユーゴーは無表情でそう返してきた。照れちゃっても~。
「それじゃあ、本当にありがとうございました」
「また何かあったら頼む」
「おうよ!メンテはもちろん、他に入り用があったらいつでも来いや!」
こうしてユーゴーの武器、『アゾット』を手に入れた私たちは、大満足で冒険者ギルドに向かった。今度はユーゴーの初めての依頼だ!
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フーゲルトさんの工房を出ると、私たちはその足で冒険者ギルドに向かった。ギルドは数日前に来た時に比べて人は少ないけど、それでもやっぱり賑わっている。
「どんな依頼がいいかな?」
「せっかくだからアゾットを試せるようなのがいいな」
そうなると魔物の討伐依頼とかかな?私たちは依頼ボードに張り出された依頼を一つずつチェックしていく。個人的にはどうしても個別依頼の方に目が行ってしまう。
だって困ってる人が出した依頼なら、人助けにもなるしやりがいがあるじゃない!
「あ、ユーゴー、これはどう?」
個別依頼の中に目を引いたものがあったので、ユーゴーにその依頼を示した。
「トレントの調査と討伐か……トレントってのは?」
「魔物化した木だよ。依頼もCランクだし、トレントは大抵何体かの集団でいるからちょうどいいんじゃない?」
「へえ、じゃあそれにするか」
依頼ボードから依頼書を剥がすと、それを受注カウンターに持っていく。受付のお姉さんに受注のためにギルドカードを提出し、問題なく受理されると、簡単にこの依頼の詳細を聞いた。
なんでもハルメリのほど近くにある森で、木こりたちが何度かトレントに襲われる事件があったそうだ。幸い死人が出るようなことはなかったみたいだけど、木こりたちは森にトレントが出たのではまともに仕事にならないと困り果てているそうだ。
そりゃあ切り倒そうとした木がトレントだったらたまらないよね。倒してしまえばただの木材みたいなものだけど、単体でクラスCの魔物じゃ、普通の木こりには手に負えない。
今回の依頼はトレントを探して討伐することと、発生原因の調査だ。トレントは魔力濃度が強い場所で木が変異して生まれるわけだけど、そもそもその森でトレントが出現したことは過去になかったそうだ。
そのため、木こりたちが出した討伐依頼に、ギルド側が追加で原因の調査依頼もくっつけている形で、成功すると依頼人とギルド、双方からの報酬が得られる。両方合わせた報酬が金貨10枚だ。
「10枚ってのはどうなんだ?」
「Cランクの依頼なら良い方じゃないかな」
トレントは普段から木に擬態しているので発見が難しいし、その上森の調査となると一日で終わらない可能性がとても高い。数日を森の中で過ごす必要が出てくる場合もある。そのための準備は冒険者側で負担するわけなので、そう考えると多少報酬が高くてもあんまりやりたがる人はいない。
だから結構高額なこの依頼が今まで残っていたのだろう。
「じゃあ、ユーゴーの初依頼、いざ行かん!」
「ああ。いや、その前にちょっと聞きたいんだが」
「ん?どしたの?」
早速出発しようと意気込んでいたのに、ユーゴーが待ったをかける。何やら考え込んだ風で、しばらくすると魔道具について私に尋ねてきた。
「――という魔道具はあったりするか?」
「うん、結構一般的なものだから、すぐ手に入ると思うよ?」
「そうか、じゃあそれを買ってから行こう」
「???うん、わかった」
なんでそんなものが必要なのかな。でもユーゴーのことだから何か考えがあってのことなんだろう。
その時私は全然気付いていなかった。私たちの後ろの壁の角から、ネコミミが見え隠れしていることに。




