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15:交易都市ハルメリ

「ふふ、ふへへ……」


 セリスはにまにまと笑いながら自分の両手を見ていた。


「うふふ……これなら、ユーゴーにだって……」


 自らの内から湧き上がる力に陶酔する。今まで感じたことがないほどの強大なパワー。自分がそれを獲得したことが分かると、自然と笑みがこぼれてくる。


 周囲の騎士たちがざわざわしている。


「おい、見たかさっきの連続短縮詠唱……」

「ああ……何十回発動したのか数え切れなかった」

「俺だったら10回も使ったら魔力切れで干からびるぜ……」

「しかも戦闘中でもないのに、ただの無駄遣いでこんなに……」

「さすがはサイルーンの盾の乙女……」


 そう、先ほどマッキナーから『プラス』系の強化魔法は重ね掛けができる、という新事実を聞いて、セリスはさっそく『ハイ・パワープラス』を重ね掛けしまくった。しかもその上で『ハイ・パワーブースト』を唱えて更に全身を強化している。


 それだけに留まらず、『ハイ・プロテクションプラス』と『ハイ・プロテクションブースト』で防御力まで上げまくり、力に酔った今のセリスが出来上がったわけだ。


「ユーゴー!よくも今まで私の身体を弄んでくれたわね!」

「師匠、その言い方だと誤解を招きますよ?」


 セリスが高らかに言った言葉に、ユーゴーがにっこりと笑いながら指摘する。

 騎士たちがさっきよりもざわざわし始め、マッキナーは頬を赤らめてセリスから視線をそらしているが、上機嫌なセリスは気付いていない。


「もうユーゴーにも負ける気がしない!今度は私がいじめてやるんだから!」

「いやぁ、さすが師匠です!器が小さい。そうだ、せっかくなのでどれぐらい身体能力が向上したか、その場でジャンプしてみてください」

「いいよ!すっごい跳べそう!」


 ユーゴーに乗せられて、セリスはその場で膝を屈め、両手で反動を付けて跳び上がった。途端に3メートル近く上空まで到達する。


「え……高っ!こわっ!……きゃああああ!!」


 だが、自分がかつて体験したことがないほどジャンプしたせいで、セリスは空中で慌てふためき、落下時に体がぐるぐる回ってしまった。顔面から綺麗に着地したセリスは、地面に倒れ込み、ぷるぷると震えている。


「な、なぜ……」

「身体能力が向上することと、運動神経は関係ないみたいですねぇ、師匠」


 地面に倒れ込むセリスをにやにやしながら見下ろし、ユーゴーが告げる。

 そう、どんなにパワーが上昇しようと、セリスがどんくさいことに変わりはない。急に運動ができるようになるわけではないのだ。


「うぅ……で、でも!ユーゴーを投げることぐらいなら……っ!」


 ばっと顔を上げ、セリスはこないだ投げ飛ばされた恨みを晴らすべく、ユーゴーに掴みかかる。両手でユーゴーの腕を掴み、そのまま力任せに放り投げようとした。


「う、う~ん、う、動かない……な、なんでよっ!」


 だが、セリスがどんなに力を込めても、ユーゴーの腕はびくともしない。逆に、ユーゴーが優雅な動きで腕を振ると、捕まっていたセリスの方が上空に投げ出された。


「あああぁぁぁぁぁ~~~……・」


 夜営地に隣接する林の中に向かって飛ばされたセリスの声が遠ざかっていく。


「さて、マッキナー殿!とても良い事を教えてくださりありがとうございます!」

「え、いえ!あの、大丈夫なんでしょうか」

「師匠は時々ああやって空を飛ぶのが趣味でして」

「そ、そうなんですか」

「それより、強化魔法について他にも教えてください!」


 マッキナーの説明によると、『プラス』系の重ね掛けには一応上限があるらしい。その上限は個人差があるらしい。だが、『プラス』系は『ブースト』系より魔力消費が激しいため、自分の上限まで重ね掛けする前に、魔力の方が限界に来る場合が多いのだとか。

 恐らく、先ほどのセリスはその上限まで重ね掛けを実行したのだろう、とユーゴーは推測した。


 結局、最大値まで上げたところでユーゴーの足元にも及ばなかったわけだが……


 ちなみに『ブースト』系の強化魔法は、その上位魔法として『アクセレート』系があり、最上位として『リミットブレーク』系が存在する。最上位にもなると、元の状態の2倍程度まで能力が向上するのだと言う。


「ユーゴーのバカ……ユーゴーのバカ……」


 しばらくすると、呪詛のように繰り返しそう呟きながら、セリスがとぼとぼ歩いて帰ってきた。

 セリスは身体強化系の魔法はそれほど得意ではなく、『アクセレート』系までしか使用できない。


 当然、ユーゴーにかけることもできる。だが、ユーゴーが妙なこだわりを見せて、自分が覚えるまではかけなくて良いと言っているため、これまで戦闘時にユーゴーに対して使うことはなかったのだ。


 それから、マッキナーに強化魔法についてあれこれと聞いている内に夜も更け、その日は交代で見張りをしながら眠りについたのであった。



********************


「ハーテア殿、ハギリ殿、見えてきましたよ。あれが我々が駐屯している街、交易都市ハルメリです」


 マッキナーがそう言って指した方向を二人が見ると、遠くにその街の全容が見えていた。


 それは山というに少し小さい、大きな円形の丘の斜面を埋め尽くすように作られた街で、ちょうど丘の頂上辺りには城が建っている。

 頂上の城を囲むように様々な建物が整然と並んでおり、丘を下りきった辺りの平地には丘の周囲を取り囲む城壁が作られていた。魔物の跋扈するこのアールスにおいて、大きな都市には城壁は必須だ。


 そうすることで、人の居住スペースは当然限られてくるわけだが、安全には代えられない。あまりにも人口が増える場合は城壁の増設が成されるわけで、実際ハルメリにも丘の途中と、丘の外側とに二重の城壁が作られているのが見えた。


「ハルメリは初めてきたけど、大きな街だね!」

「ああ。人が多そうだ」

「ハルメリはカテルナナ山脈とマールドー山脈が近いので、それぞれから取れる鉱石や素材の交易で栄える街です。商人たちが逞しいので活気がありますよ」


 マッキナーの説明通り、二つの山脈は資源の宝庫だ。通常では手に入らない鉱石などがどちらの山脈からも豊富に入手でき、その流通拠点となっているのがこのハルメリなのである。

 加えて、二つの魔王領が近いため、サイルーンを始めとした各防衛拠点への資材などもほとんどがこのハルメリから運輸されることになるため、まさに交易都市というわけだ。


 また、鉱石が豊富で、砦への資材搬入をする、となってくると必然的に鍛冶が盛んになる。ハルメリはオウラ王国で屈指の鍛冶の街でもあるのだ。


「ユーゴーの武器や防具が手に入るといいね!」

「そうだな。後は、冒険者ギルドか」


 これからこのアールスで旅の生活をするのであれば、冒険者ギルドへの登録は必要不可欠だ。ギルド登録しておけばどの街でも身分の証明が立つし、ギルドを通して情報収集や、金銭の預け入れ、素材の買い取りなどができるのはもちろん、依頼を受けることで金を稼ぐことができる。


 目下のところ、二人の旅の資金はセリスのへそくりから出ている。家は燃えてしまったが、アールスの通貨は硬貨なので、幸い金銭は無事だったのだ。

セリスは森で自給自足の生活をしていたとはいえ、ボルナ樹海で取れるレア素材を時々近隣の村や街で売っていたため、それなりに貯えはあった。


 つまり実質セリスがユーゴーを養っているわけだが、セリス本人は余り金に頓着がないので、ほとんど気にしていない。とはいえ、ユーゴーもいつまでもヒモ生活に甘んじるつもりはなく、早急に自分で稼げるようになるつもりだった。


「ハルメリには東西南北にそれぞれ4つの門があるんですよ。我々はあの北門から入ります。ちなみに、通常は入る前に検問があるのですが、ハーテア殿とハギリ殿は我々騎士団の客人として扱わせていただくので、煩わしい手続きは無用です」


 道すがら、マッキナーが色々と説明をしてくれている。既に城壁の近くまで来ており、壁上には所々に櫓が立てられており、見張りの兵士が詰めているのが見えた。また、等間隔でバリスタや大砲が設置されているのも見える。


 魔物は当然地上からだけでなく、空からくる場合もある。大きな街には大規模魔法陣で防御術式が展開されており、上空を魔法の防壁が守っているそうだが、それもそこまで強力ではないので多数の魔物が群がれば突破されてしまう。


「それは結界魔法なのか?」

「うん、たぶん世界で一番普及してる結界魔法じゃないかな。結界魔法は魔法陣の術式がほとんど判明してないんだけど、何千年も昔から都市を守るこの結界の魔法陣だけ、ずっと受け継がれてきてるんだって」


 都市の防衛結界についてセリスがそう説明する。なんでも、物理的なものではなく、魔物にのみ有効な特殊な退魔の結界なのだそうだ。結界を張りたい範囲を囲うように、対応する8つの魔法陣を展開するだけで、少ない魔力で効果を発揮する優れモノなんだとか。


 捕捉すると、セリスが自分の家の周りに張っていた結界はこれとは違う。あれはセリスが日々自分の魔法で維持していた、更に強力で物理的な防御能力のある結界だ。


「おお、中々でかいな」


 城壁の真下まで来ると、ユーゴーが感心したように声を漏らした。高さは10メートル強と、かのサイルーン砦に比べると半分もないが、それでもこの高さの壁が大きな丘をぐるりと取り囲んでいる、というのは中々驚異的だ。


 また、ハルメリはその地形的に、城壁の中は上向きの斜面になっている。つまり、仮に外から敵が攻めてきた場合、内側からは攻めやすく、外側からは攻めにくい構造になっているのである。城壁に加えて、高地の優位性がハルメリの防衛力を大きく引き上げていると言える。

 ただ、街の全てが坂、というのは住むのには少し不便そうだな、とユーゴーは思うのであった。


「街に入ったら一度領主の城に来ていただきたいので、我々に付いてきてくださいね。では、入りますよ」


 マッキナーは馬車から顔を出して二人にそう告げると、先行して城門を進んでいく。城門を守っている兵士たちが敬礼でそれを出迎えている中、セリスたちの馬車もその後に続いて交易都市ハルメリに入っていった。


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