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1:ある日空から

初投稿です。よろしくお願いします。


 ~オウラ王国北西部 ボルナ樹海~


 静かな森の中、木々の間から漏れる日差しを受けて白刃が煌めいた。鋭い刃の先端が木の幹に突き刺さり、その樹皮をえぐる。


 なんて言い方をすると物々しいけど、要するに採取用のナイフで木の表面に傷を付けただけだ。その動作を何度か続けると、樹皮を破った内側から樹液が溢れてきた。

 私は急いでガラスの保存容器を取り出してその樹液を採取する。あまり良質なガラスではないから少し濁っていて透明度も低いけど、八分目ぐらいまで溜まった樹液はほんのりと光を発しているのが分かる。


「ごめんね、少しだけもらっていくね」


 そう言いながら傷付けた木の表面を撫でる。そんなことをせずとも、回復力の高いマクワクの木のことだから、すぐに元通りに回復するのは分かってるんだけど。

 今日の目的を一つ達成した私は、意気揚々と保存容器に栓をして鞄の中にしまい込む。


「さて、と……次は……」


 保存容器の代わりにメモ書きをした紙を取り出して独り言を呟く。今日の目的は半分ほど達成してるけど、まだまだやりたいことは多い。

 ここボルナ樹海は滅多なことでは人が立ち入ることがないので、手付かずの自然素材だったり、未研究の動植物だったりが数多く存在する。研究者にとっては正に楽園!溢れ出る好奇心がとどまるところを知らない!


 自称結構博識な私をして初めて見るものもたくさんある。例えばさっきのマクワクの木なんかはこの森にしか生息していない、とても強い回復能力を持っている木で、樹液からポーションが作れる可能性が高い。一般的なポーションより質が高くて、調合も簡単なポーションができれば嬉しい。

それ以外にも、地面を移動する種子とか、空を飛ぶ蜘蛛とか、あとは……


「ん……?」


 遠くから何だか不穏な音と、何かが急接近するような気配を感じて、ふと顔を上げる。


 ここは樹木の密集率が高くてあまり空は見えないけど、たまたま今いる場所は少し開けているので、遠くの山脈の上にあるお城が見えている。

 お城はともかく、問題は上空。何だか黒っぽいものがすごい速さで移動している。鳥かな?なんて思っていると、その物体は徐々に高度を下げてこっちに向かってきた。


……こっちに!?


 あわわわわ、どうしよう、逃げる?防ぐ?でもあれなに?……あ、でも微妙にずれてるかな?


 どごーん!


 文字で表すと情けない感じだけど、派手な音を発して飛来した何かが地面に衝突した。私が立っていた少し先だが、衝撃波と土埃が巻き上がり、思わず顔を覆う。


「うえ、ぺっ、な、なんなのよ~……」


 少し口に入った土埃を吐き出して、汚れた服を払う。


 鳥?隕石?もしかして、神様が天界から落っこちてきた!?


 色んな推測をしながら、恐る恐る落ちてきたものの方に近づく。地面に大きなクレーターができており、その中心に黒っぽい何かがある。

 距離が近付いたことと、土埃が収まってきたことで、何となくその輪郭が分かってきた。


 あれは、そう、人だ。もっと言うと、男の子?な~んだ、男の子か……


「って、ええええ!!お、おや、おやかたっ!空から男の子がっ!!!??」


 動揺のあまり思わず意味が分からないことを喚いてしまったけど、一体どうやったら人がこんな勢いで空から降ってくるの!?


 この世界では不思議なことはたくさんあるけど、それでも人が何もない空から落ちてくるなんてことは聞いたことがない。もしかして、本当に神様的な何かなのかな?

 ドジな神様が天界で足を滑らせて落下する。そんな姿を思い浮かべるとちょっと面白くなってくる。神様が足を滑らすって、そんな、残念神様、ぷぷっ。


 ふう、現実逃避はこれぐらいにしよう。とにかく人なんだったら安否確認と救護をしなきゃだよね!

 とは言っても、あの衝撃じゃたぶん生きてないかな……


 更に近付いて、小さなクレーターの真ん中で地面にめり込んでいる男の子の前で屈み込む。

 余りにもズタボロだから分かりづらいけど、この国では見慣れない衣服を着ている。ただ、原型をとどめてないぐらい破けていて、そこかしこから地肌が見えている。


 その肌にしても至るところから出血していて、顔なんて半分ぐらい流血で真っ赤になってる。手とか足とかもちょっと曲がっちゃいけない方向に曲がってるし。


 うん、つまり一言でいうと、手遅れ感が半端じゃない!


 でも、信じられないことに、男の子は生きていた。僅かに胸が上下していて、呼吸していると分かる。なんていうか……あんな高さから落ちてきて、しかもこんな状態で生きてるって、頑丈すぎるでしょこの子。

 とにかく、生きてるなら早く治療してあげなきゃ!


 私が男の子に手を触れようとしたのとほぼ同時に、小さな呻き声を上げて男の子が薄っすらと目を開いた。生きてるどころが意識があるなんて、本当にどんだけ頑丈なの!


「ぐっ……あ、あんたは……」

「喋らないで。今、治してあげるからね」


 男の子の瞳は珍しく黒に近い茶色で、髪もまた珍しいことに黒髪だ。服もそうだし、どこの国の人なんだろう。とても頑丈そうには見えない細身の体を無理矢理動かそうとするように身じろぎした。

 その肩をそっと押さえる。


「動いちゃダメだよ。大人しくしてて」

「め、がみ、かなんかか……?きれい、だな……」


 え!なになに!?女神?綺麗?きゃー!ナンパ?これってナンパ?


 そりゃあ、肌つやも良い自信もあるし、街とかではたまに声かけられたりすることもあるけど、こんな死にかけの人にナンパされたのなんて初めて!まいっちゃうなー!


 そんなことを考えながらもじもじしていると、男の子が少し上げていた手をパタリと落として、意識を失ってしまった。


 あああ、まずいまずい、ふざけてる場合じゃなかった。死んじゃうよ、これ。


『癒しよ。理より出でて彼のものに祝福を』

「ヒール」


 とりあえず一番出血が多くて致命傷になり兼ねない頭部に治癒魔法ヒールをかける。かざした手から青白い光が発生して、男の子の頭を包み込む。


 バサッ……バサッ……


 徐々に傷が塞がっていき、出血も止まった。これでひとまず大丈夫かな?他の場所も一つずつ治していこう。


 バサッバサッバサッ!


 それにしても、さっきからバサバサうるさいな。時々大きな影が差して患部が見辛いし。私の治療を邪魔するのは誰よ!

ふと顔を上げると、本日二つ目の飛行物体が上空から近付いてきた。正確には、二つ目から四つ目までかな。


「え、デスクロウ?なんでこんなところに……」


 人よりも大きな体を持ったカラスが三羽、数メートル上空を旋回していた。デスクロウ。鋭い嘴と、湾曲した爪を持ち、風を操るクラスBの凶悪な魔物だ。

クラスBの魔物自体はこの森にもたくさんいる。だけど、デスクロウはそもそも生息域がまったく違う。本来このボルナ樹海にいるはずのない魔物だ。


 まさか、迷子?


 もちろんそんなことはないだろうと思っていたが、デスクロウたちの視線を見て、やはりそんなことはないようだと悟った。

 三羽ともが空から男の子を見ているのだ。


これは明らかにこの人を狙っているよね……


魔物は基本的に自由気ままに生きる生き物である。そのほとんどが人を襲う習性があるのは事実だが、特定の誰かを狙ってきたりはせず、人と見れば手あたり次第というのが普通だ。

もちろん仲間意識の強い種類なら仲間を殺した相手を狙うこともあるし、縄張りに侵入してきた人間を襲ってくる、ということならあり得る。


 だけどデスクロウはそのどちらの特性も持っていなかったと記憶している。それにも関わらず、ここには二人の人間がいるのに、デスクロウは確実に『男の子だけ』を狙っている。


考えられるのは『使役』か『従属』。前者は何らかの制約によって魔物を従わせる方法で、後者は魔物自身が自分より強大なものに従うことを指す。どちらにしても、何者かの命令でこの男の子を追ってきた、と見るのが正しいようだ。


呑気に分析をしていたら、デスクロウの内一羽が地上に降りた。鳥類特有の感情の伺えない目で男の子を見ながら、二本の足で跳ねるようにこちらに近付いてくる。


私は即座に立ち上がって男の子とデスクロウの間を塞ぐ位置に移動した。デスクロウがようやく私を認識したかのように、私を見て首を傾げている。その姿だけ見たらちょっと可愛いんだけどね……


「う~ん……困ったなぁ……大人しく帰ってはくれないよね?」


「クアアアアァァァァ!」


 私の懇願を無視するように、地上に降りていたデスクロウが奇声を発して再び飛び上がった。他の二羽も旋回しながら威嚇するように鳴き始める。


「だよねぇ……」


 私が諦めて身構えると、一羽のデスクロウが鋭い爪をこちらに向けて急降下してきた。



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