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六戒:ロキ(1)

ロキの物語です。

最終的にマルチエンディングみたいになればと考えています。

 ロキ・リベルトウィッチ。推定年齢二十代後半。推定身長百八十前半。体系ガリガリ。無口。趣味トランプタワー。彼女の有無、いまだ不明。特徴は猫背。

 今のところわかりうる薄っぺらな情報はそんなところで、トランプタワーを作るところ以外見たことが無いのが現実。一番謎の人である。

 ここに来て、普通に動けない自分がいることに気づく、女性より走るのが遅いのは重症だと思った。

 魔法は当たり前なんだと気づかされた。ただいま勉強の真っ最中でありながら、頭は真っ白、いや、真っ黒で何がなんだかわからない状況にいる。

「動いた……」

 野生動物を監視するハンターのような呟きをもらし、トランプタワーを逸脱したトランプタウンを潜り抜けてくるロキを目で追う。中央の長いすと長いすの間を猫背で歩き、暇なことと外の寒さに嫌気をさしたレイの肩を叩く。

「ん? 」

 眠りを妨げられたことを少しだけ心外に思った後、何かに気づいたように跳ね起きるレイ。

 笑顔で背中を押し、この上の無い楽しいことをしようとする子供のような笑顔を浮かべ、レイは教会を後にする。

「セムさ〜ん。あれなんなんすか? 」

「ふふふ、秘密だよ」

「え〜」

 長いすに座りながら、前の長いすの背に顎を乗せ、頬を膨らませる最終兵器を使用すると、隣にいたケイがお腹と口を押さえてどこかへ言ってしまった。ツボったようだ。

 また少し謎が残りながらも、勉強を再開すると、セムが暖かいココアを持ってくると同時に、そっと呟く。

「お土産いっぱい持って帰ってくるからさ、楽しみにしてな」

 その一言で全て許せてしまう自分とはなんなのだろう?




 最低限の金だけ貰えればよかった。

 家賃、光熱費、武器の修理代、食費。

 趣味なんてないし、彼女なんていない、娯楽を見つけては、女性を見つめては、自分が卑しい存在なのだと自分を戒めてしまう。

 おいしいものを食べても、自分が楽しいと思ってしまっても、自分の存在が駄目に思えてしまっていた。

 が、レイがそれを無理やり破った。人のせいにして自分の過去を捏造使用とは思わないけれども、少しだけ嬉しかった。

「あぁー、前赤使ったから、今回は黄色か? いや、青か? 」

 強制的に皆と同じ金を貰って、使わない分を服につぎ込み、手伝ってもらっている。

 そう、他人からすれば俺は恋をしているようだ。そう聞くとまた、心が見えない縛鎖に締め付けられる。

 相手は俺と同じように、いつもはファッションなんかに興味なく、仕事命みたいな女性で、俺が通う修理屋の一人娘、名前はエミリア。けど、彼女には好きな人がいるのだ。

 傭兵のリカルド。俺みたいに、口実作ったりと面倒なことはせずに、直球に攻めている。

 まったくうらやましい性格だ。

 そんな二人を見ながら、自分の幸運を望まない俺は、二人に幸運があらんことを祈る。

「お、ロキ、ひっさしぶりだな」

 今仕事から帰ってきましたと言わんばかりの格好で、軽装備にロングコートのいでたち、何を着ても様になるやつだ。

 俺は、客のために置かれた机にスナイパーライフルを無造作に置くと、呼ぼうとしていたエミリアが満面の笑みで奥の工房から出てきた。

「あ、ロキ君久しぶり、一ヶ月くらいぶりだね」

「あぁ、それよりこれを直してくれないか」

「会話を楽しまないと、嫌われるぞ〜」

「うるさい」

「そうよ、修理の依頼一つしないあなたより百倍ましよ」

「俺はものを大切にする性格なんだよ」

 戦争、暗殺、過去、罪と罰。ここではそんなものどこかへ忘れられるから好きだ。

 あの時あの瞬間から、二度と手を取り合うことなどするものかと誓った人間と、再び手を取り合うようになった最初の友達リカルド、あの時以来、人間を信じることも、愛することも止めようとしていた俺に、愛とか、恋を教えてくれたエミリア。痛いほどに優しい。

 時にこの優しさや、暖かさを知るたびに、それは鉄の茨へと変貌する。まだ俺は過去を捨てられないし、あの光景がまぶたの裏にくっきりと残っている。

「で、どこらへんがおかしいの? 」

「スコープと仮想弾装空間に違和感が感じられるんだ」

「わかった。ちょっと待ってて」

 エミリアは奥へ工具を取りに行く。

 リカルドはわざと目を細め、口の両端を吊り上げる。

「なんだそのいやらしい笑い方」

「いやぁ、春だなぁって……」

 確かに最近少し暖かくはなってきたが、それを俺を見て言うのは何かあるのだろうか、その後だいぶ俺を苦しめることになったが、今は気にしない。

 エミリアは工具をとって戻ってくると、俺たちの座る机の向かい側にいつものように座る。

「ん、簡単そうね」

 ライフルを解体しながらエミリアは呟く。

「それでさぁ」

 始まった。リカルドの自慢話。

 今回は東に行ったようだが、あそこは確かだいぶ激戦地になっていたようで、今でも毎日必ず小競り合いは耐えないほどだという。

 俺とエミリアは、いつものように話半分の耳でリカルドの話を聞く。

 奇襲に成功しただの、報酬をはずんでもらっただの、領地を少しだけ広くしただの、相手の将軍の首を打っただの、だんだん妄想が入ってきた気がするが、暗黙の了解で引き続き聞き上手になる。

「で、俺一人で敵の拠点まで行ってさ……」

「はいできたーーー! 」

 耐えられなくなったのか、本当に出来上がったのかは別として、俺は料金を支払う。

 財布なんてもっていなくて、いつものクシャクシャな札を渡す。

「少し色をつけておいた。次も頼むよ」

 俺はそういって帰ろうとすると、エミリアは俺を呼び止める。

「ロキ君、。飲みに行かない? 三人で」

「おいおいもしかして? 」

 リカルドは嬉しそうだが、次のエミリアの言葉を聞き逃すまいと顔を覗き込む。

 これは毎度のパターンだ。

「リカルドのおごりでさ」

「またかよ〜」

「報酬はずんでもらったのでしょ? 」

 そういわれると弱いのか、いつものことに諦めたのか、リカルドは椅子から勢いよく立ち上がりコートを羽織る。

 エミリアは仕事を抜けることを父に伝えるため奥へと消えて行き、俺は飲みに行くことを考え、ライフルをコートの中に隠す。

 リカルドは今までの経験上から、どこの店がいいかを思案。毎回毎回店が違うのもすごいことだと、そこだけはリカルドに感心する。

「ところでさ、お前はどうなの? こっちの方は? 」

 リカルドの小指をここまで折りたくなったのは久しぶりだ。

「前にも言っただろ? 」

「過去にすがるなよ、今を生きろ、この臆病ものめ」

「何とでも言え」

 確かに、確かに俺は過去を引きずっている。

 振り払おうとしても、その腕にまた絡まりつくのだ。

 物思いにふけっていると、なんとか了承を得たのだろう、エミリアが戻ってきた。

 彼女はありのままの自分を恥ずかしがらないところに、俺は尊敬する。つなぎの上に防寒着だけを来て用意が出来たと言うのだ。

 いつもの俺を見ているようで、少しだけ自分が恥ずかしくなる。

「はぁ、それにしても寒いわね」

 僕達は彼女を挟むようにして歩く、小さな谷が出来ているようにも見える。

 そして毎度のこと、リカルドはエミリアの肩に手を回そうとして手をはたかれる。

「あれ? なんだかいい香り……ロキ君? 」

「あ、あぁ、うん。フィムリっていう店のオードトワレ」

「いい香り……冬にぴったりね」

「あぁ、ありがとう」

 レイの選んでくれたオードトワレで彼女が喜んでくれた。

 俺はいつものように、皆にお土産を買っていかなきゃと思案するが、少しだけ引っかかった。

 そういえば新人は何を好むのだろうか、ここは自分の好みでいいだろうと、余計なことは忘れて、今この至福の時を過ごすとする。

 これは日常でなかったと、俺は気づかされてしまうその時まで……。

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