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三戒:C3(2)

 教会の玄関のドアから教壇までの一直線。長いすと長いすとの間に生まれた、人二人分ほどの隙間を疾走するレイと呼ばれた女性を、ただただ恐怖だけで見つめる。

 足がすくむ。腰がぬけそうだ。自分を強くその場に立たせる。

 右下に構えられた剣は、疾走の終着点にたどり着くと、一気に左上に持ち上げられる。一歩退くだけで避けられることから、手加減しているのがわかる。

 そこから繋げる攻撃が無いため、僕は左へと飛翔。が、甘かった。

 恐怖で力が入らないのか、あまり飛翔の力が生まれず、途中で追いつかれ、振りぬかれた武器で壁に打ち付けられる。骨がきしむ音を始めて聞いた。

 立ち直ることすら出来ずに、壁に背を任せてその場にひざから崩れるように倒れる。目に前にレイさんの武器が突き刺さる。どうやらチェックメイトの合図だろうと、心のどこかで気づく。

「セーム! 駄目だ。今度もハズレだろ、強くねぇ」

「力だけが全てじゃないと、信じたいんだよ」

「人手不足解消したいだけだろ」

「わかってるならいいじゃない。それとも、レイが雑務をしてくれるのかい? 」

「勘弁だ」

 苦々しく言葉を吐き、武器を引き抜くと、僕の襟をつかんで投げる。

 到着地点は教壇の前。セムはやはり笑っている。

「いやいや、すまないね。レイ君は新人を見つけると、殴りたくなる戦闘狂なんでね、ケイ! 」

 意識は朦朧としながらも、どうにかセムさんの言葉を頭にとどめていると、また新しい名前が聞こえた。

 トランプタワーを作っている男性かと思いきや、どこかで扉の開く音。一人の少女が僕の前に立つ。

 少女は座り込むと僕の腹部にそっと触れる。折れているのだろうか、少しだけ痛みを感じた後に、どこか優しさのような暖かさを覚える。すると、不思議と痛みは消えていた。意識もはっきりする。

「ありがとケイ。それじゃ、改めて話をしようか」

 考えがまとまらない。どうしようかとたじろぐ。セムはポケットから小型の何かを取り出した。

「これを耳につけてみて、これは受信機で、ある一定の周波数を放つ魔法を感知すると、音を送ることが出来る。緊急の仕事の連絡はそれでするから、それと、皆の自己紹介だ」

 セムは順に手を伸ばし、指で指し示しながら伝える。

 まずはさっきの女性。レイリア・ルビーデ。主に前衛担当。戦争は嫌いだが喧嘩は大好きな戦闘狂で、戦争の仕事は殆ど半殺し。

 そして、教会の奥から出てきた少女を指差す。ケイト・バルハロイ。主に雑務担当で、つい最近仕事に初参戦。魔法の腕は相当なもので、僕の体がそれを物語っている。

 トランプタワーの方向を指差し、ロキ・リベルトウィッチ。主に狙撃、後方支援担当。火器を操るのが得意で、それに関した魔法も相当なものだとか。

「レイ、ギンとラウ君は? 」

「さぁ? 召集がかかるまで来ないんじゃない? 」

「じゃぁしょうがないな、集めますか……『ギン、ラウ、至急教会まで』」

 さっきの発信機から声が漏れる。なんだかなれないとくすぐったい。

 それが聞こえてから一分もしない間に、その二人であろう男性が教会に到着。

 どちらも無表情で歩く。一人は精悍な体つきで、目には何故か鉢巻のようなものが。が、その歩みはしっかりとしていた。

 もう一人の男は、僕と年が近そうだが、どこか子供じみていて、その顔は不安と恐怖で埋め尽くされているかのようだった。

「で、今回の仕事は? 」

 野太い声で鉢巻男が尋ねる。

 セムはあっけらかんと、自己紹介だと言った。

「ラル君でね……」

 いつの間にかあだ名がつけられているが気にせず聞く。

 精悍な体つきをした男のほうは、朝雅吟(あさが ぎん)、極東の生まれとのこと。特殊な戦闘民族で、生まれてすぐに目玉を抉る習慣があり、今は眼は無いとのこと。仕事以外はあまり話さない無口なおっさん。

 もう一人の少年は、ラウリー・トラスコット。孤児だったらしく。セムさんに拾われて、トラスコットの苗字をもらったとか。主にサポートが担当で、神の力で探知能力などに長けているとのこと。仕事でもプライベートでも、殆ど喋ることが無いらしい。

「こんなところかな。それと、ここの決まりだけど、人の過去は詮索しないこと、いいね」

「はい」

 僕は弱く返事をする。

 と、共に、教会の扉が強く開かれ、すこしだけ変な音がした。

 そんなことを気にも留めずに、一人の甲冑に身を包んだ男性が駆け寄り、倒れこむが、報告を述べる。

「ハァー、ハァー、ッッ! ハァ……。あ、アイゼンヴォルグ、セム殿、国境に敵だ。至急応援を」

 そんな必死な姿を見ても、誰一人として揺らがなかった。

 強いて言うなら、ふてぶてしかった。

「で、金は? 」

「そ、相応を払うと……だ、だから、だから、早く! 」

 重たい腰を上げると、セムは笑顔で手をたたく。

 そして、その場にちょうどよくそろった皆に仕事の報告を開始する。

「さて諸君。これより状況を開始する。レイ、ギンはいつものように城門の外で、ロキとケイは兵糧を狙え、ラルとラウと私は篭城し、兵士を統率する。

 ラル君。それともう一つ、ここには重大な約束がある。それは、人は殺さないことだ。

 だから、今回の戦争でも、レイとギンが倒したやつは、全員野放しか、捕縛だ。

 さ、ロキ、移転魔法だ。一気に片付けるぞ! 」

 言葉に反応は無かったが、全員は無口で了承をした。

 僕に否定権など無く。武器一つ持たないまま、戦場に立たされる羽目に。

 ロキさんの発動させた広範囲長距離移転魔法により、全員が戦場である国境の城に一瞬で到着。心の準備が出来ていないまま、全員が持ち場に着く。

 今回僕の役割なんて微々たる物だと、城の中でただただ立ち尽くすのであった。

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