三十戒:記憶の軌跡(3)
僕が無力を知ってから三日、ロキさんからの音沙汰は無い。
怒りと、怒っている自分に苛立ちを感じているセムさんの顔からは、いつもの笑顔だけが抜け落ちていた。
ケイちゃんは何故だか、いつも以上に上機嫌で、それが心配をかき消そうと、皆の空気を元に戻そうと必死になっているのだと知ると、少しだけ息苦しくなる。
後は、普通なのだろうか、いつも通りなのだろうか、釈然としない顔の二人がいるだけだった。
神の想像以上の再生能力と、痛みさえもろともしない体、一瞬のうちに移動を成し遂げるあの技、そのどれもが二人の不安を誘う。
「セム、いい加減話せよ」
「詮索はしないでほしいな」
「詮索じゃねぇだろ、情報よこせって、どうやったら、神は殺せるんだ? 」
長い長い沈黙、答えは憮然とした態度でどこかへ消えた。いや、はなから何処にもいなかったのだ。
「正しい、神の殺し方なんて、僕も知らないよ……」
その言葉は、誰に向けられたものでもなく、自分自身に対しての独白のように思えた。そして、何よりも自分を蔑んで見えた。
そして、それ以前に、僕は無力だということからは、どう足掻いても逃げられなかった。
だったら、僕は、僕のすることは一つしかないのだ。
静かに教会のドアを開け放ち、僕は僕の目的のため、力を手にするための一歩を歩みだす。それを咎める者も、止めるものも、ここにはいないと知っている。
スフィード女王国首都、軍警察本部第四課、現在員三名との馬鹿げた組織に、僕の第一歩を飾る人物がいる。
ルグル・ハイムヒュート。僕の幼少期の記憶を持っている人間である。
ノックをしようとドアに指を着けるが、先にドアが開け放たれる。ルグルさんだった。
「ラル君だったっけ? 何か用か? 」
「はい、僕が、ルグルさんに助けられた後のお話を、聞きにきました。
「まぁ座れ」
これほどの殺風景がこの首都にあるなんてと、少し呆気にとられるが、ルグルさんが投げたパイプ椅子を受け止め、それに腰を下ろす。
「どうしてもか? 」
意外な言葉だった。少しだけ言葉に詰まる。
聞いてはいけない、話せないことがあるのだろうかと、少し恐怖を覚えながらも、僕は小さく頷く。
「実のところ、私もよく知らないのだ」
「と、言いますと? 」
そしてルグルは更に言葉を紡ぐ。
イスタリアの実験に使われていた村は、用済みとなり、戦争の交戦地ともなれば、策に使うにはもってこいの場所なのだ。
そこでイスタリアは、街の人間にそのことを伝えずに爆発の魔方陣を設置、見事それは成功に終わり、その後、現状を把握するべく、ルグルさんが向かったところ、僕だけが生きていて、名前を聞いたところ、ラジェルタと呟いたそうだ。
その後、既に妻子持ちのルグルは、養子縁組の準備を進めたが、何故か軍の上層部がそれを受理せず、軍の施設に引き取られることになった。
その後、第三権力では手の出せない、第二権力に、更にその後、イスタリアの何者かによってさらわれた実験体がいたという噂だけがあったとのこと。
「記憶が無いのは何故だかはわからない、どこで消えたのかもわからない。こんなんで役に立ったか? 」
瞬間、頭は言葉を、映像を繋ぎ合わせる。
戦争、人間、血、そして、死。斬り、突き、引き裂き、押し潰し、千切る。痛みが、悲しみが、憎しみが、沸々と音を立てている。
「おい、大丈夫か? 」
声がする、かすれていてよく聞こえない、光が、消えて、行く。