二十七戒:新人祭り(4)
よくよく考えてみた。
そういえば、一回戦は神の力を使い、実力を少し使ったくらいで勝ち残り、二回戦も神の力を使って相手をバカにしただけで、三回戦に至っては本気で何もしていない。
ブレッドさんは女性ながらにここに立っているだけで、強さがにじみ出ているようにも見えるし、ザムールさんは、あの生存率ワーストワン、第四課のラグロスさんを倒した南の国の猛者。
確実に僕は雑魚であり、二人の相手にすらなるかならないかさえわからない。いや、ならないのほうが確実に思えてきた。
『それでは決勝戦、ルールは至って簡単。最後に立っていた者が勝者である。それでは決勝戦、スタート! 』
会場内が喚声に沸く、二対一が三つ、先に動けば不利は否めないがファーストアタックは大事である。
そんな緊張の中、ブレッドさんの声がする。
三角を描くように立っているため、ザムールさんから目を離さないように返事を返す。
「なんですか? 」
「貴方って、どこの人なの? 所属は? 」
「僕アイゼンヴォルグの新人なんです。C3って言ったほうがわかりやすいですか? 」
「C3か、そりゃまた死亡確率が高いところへ、私は第二権力五賢補佐役の新人です」
少し疑問。第二権力はこの国のトップに、政治的助言を許された部門で、それはまったくの秘密故、誰がメンバーなのかもわからず、第二権力直属の部門があるなんて聞いたこと無い。
だいたい第二権力の仕事は、政治、もしくは内政、たまに第三権力に助言を投げるだけで、戦闘知識の薄いものの層だとばかり踏んでいた。
「えぇい、やる気はあるのかお前ら! 来ぬのなら、こちらから行くまで! 」
筋骨隆々の体が地面を蹴り、ブレッドさんの芳香へ、拳が高く掲げられたとき、僕は時間を遅め、ブレッドさんは楽々にそれを避け、僕はがら空きの背中に魔弾を叩き込む。
感触は最低、気にしないと言わんばかりの顔で振り返る。
「小癪な、魔法などと児戯にすぎん」
その時だった。空に一つの魔方陣、僕は展開をした覚えが無いのでブレッドさんかと思えば、ブレッドさんもこちらを見て戸惑っていた。
ならばザムールさん? いや、魔法をバカにした人間だ、そんなことはないだろうと思っていると陣が完成する。移転魔方陣に似ているが、少しだけ見たことも無い羅列が並ぶ。
次の瞬間、その陣から人が、真っ逆さまにこちらに落ちてくる。
ザムールさんの右、五メートルほどの場所にその人は落下、何事も無かったかのように、砂埃の中から愚痴を零しながら出てきた。
「ったく、あのノーコン変なとこ飛ばしやがって、マジサイテー」
二十代前半、顔中にピアスとおもちゃを見つけた子供の目、黒で身を包んでいるそいつは、徐に近づくとザムールさんの顔に人差し指で触れる。
瞬間、ザムールはその指をへし折ると、痛くも痒くもないという顔で、そいつは会場に高らかと宣言をする。
「オレサマは、イスタリア攻勢軍事機関隊長、ログ・ブランマなるぞ〜」
会場は呆気にとられ、バカを見る顔でログを見つめるが、悲鳴が一つ。
それが感染したかのように、悲鳴が、叫びが、狂気の渦となって会場を埋め尽くす。
ザムールさんが頭を抱え転がりながら、全身から血を吹き上げて声にならない悲鳴を上げているのだ。
主に口や鼻、肛門から出欠が酷く、数秒先に死が訪れた。瞬時に判断をする。僕は、物理障壁を展開し、ログを孤立化させる。
「ブレッドさん、会場内の全員を退避させてください。勿論あなたもです。これは、アイゼンヴォルグの問題です」
「残念だけど、私命令されるの嫌いなの、市民は衛兵達が先導してる。私も戦うわ」
そして、その事実は国を渡る。
新人祭りの会場内のロキに、丘の上のギンとレイに、教会の中のセムとラウにも。
「セムさん……」
「あぁ、神だ。間違いなくね」
セムさんは迷わず陣を展開し、一丁の大口径のハンドガンだけを携え、陣の上に立ったとき、教会のドアが勢いよく開く。
訪問者は、第四課のルグルさんだった。
「セム、ケイちゃんの学校でアシュだ、行くぞ! 」
が、セムは動こうとしなかった。
復讐が、恨みが、彼の心の黒いものが、そこまで肥大していようとは、僕は考えていなかった。
次の瞬間、セムの口から言葉が発せられた。
「関係ないね」
その酷な言葉を残し、彼は一人王都へと向かう。
僕を残したのは、僕に任せたと、そう言いたいのか、だったら言えば良いのに、彼はそこまでして、自分を曲げず、恨みだけを真っ直ぐ通したのだ。