二十五戒:新人祭り(2)
食うもん食って、見るもん見て、楽し〜く収穫祭を楽しもうと思っていたのにもかかわらず、決闘祭なんかに出なきゃいけない羽目になった。
午前のうちに大会登録者は招集をかけられ、王宮の特別待合室にて開始まで待機するのだ。
ってことで、招集がかけられる前の祭りの準備中の中、どうにか作ってくれそうなものを探して、美味しいものを食べておかなきゃと行動を開始。
準備にとりかかっていて、客は来るはずがないと踏んでいる店員は、僕のことなど眼中に無い。
そんな中、一人のおっさんが、あたふたする僕を見つけてくれた。
「おぉ、まだ始まってないぞ」
「すいません、決闘祭出るんで早く何か食べなきゃいけないんです! 」
理由があやふやで、バカみたいな言葉を投げてしまったが、その時は気づいていない。
「ん〜……蜂蜜しか無いけど……ヨークシャー・プディングでいいか? 」
「買わせていただきます! 」
「金はいいって、お〜い、そっちなんか無いか? この兄ちゃん決闘祭に出るから、飯食いたいってさ」
それから、噂が噂を呼んで、店から店へと僕の名前が飛び交う。
三日前、記憶がよみがえり、卒倒した後、病気のような気だるさに襲われ、廃人状態に陥っていたが、今日の朝いきなり蘇っていたのである。
そういえば二日ほどまともに何も食べていなくて、何か食べなきゃと思い、今に至る。
「っしゃぁ、肉ゲットー! 」
次から次に入ってくる、こんなんで本番大丈夫なのだろうかと思いながら、それを気にせず食べに食べる。
お土産として、スコーンと紅茶をいただき、会場へとひた走る。
「セーフ! アイゼンヴォルグのラルです」
「はいはい、右手の方向にお進みさい」
抱えたスコーンを落としそうになって、すんでの所で落ちずに済んだ。
後ろを振り返ると、僕よりも当然に大きくガタイのいい男がいた。
「決闘祭……だっけ? 南の国から来たんだが、今から登録しろ」
「すいません、登録は数日前に……」
「あぁ!? 」
男は兵士の胸倉を掴んで持ち上げた。僕は隅にスコーンと紅茶の紙袋を置いて、歩み寄る。
男の肩を叩き、意識を逸らさせると、兵士は床に尻餅を着いた。
「すいません。登録お願いできますか? 」
「でも……」
「大丈夫、僕が責任もって倒しますから」
不思議と勇気が沸いて来た。
偽善心だとか、余裕とかそんなんじゃなかった。なんだろう、勝てると思ったのだ、この大男に。
兵士は上に連絡し、一名の参加をなんとか許可してもらい、男は何も言わずに待合室に向かう。
僕は兵士さんに一礼し、スコーンと紅茶を両手で抱えて待合室に向かう。
ピリピリした雰囲気の中、甘いスコーンの香りがする。
僕は一騒動起きないうちに、壁沿いをゆっくり歩いて隅に座る。
中央に目が向いていたため、隅に人がいるとは思えなかったが、そこにいたのが男でなかったことにまずびっくりしたのと、静かな雰囲気の中に、目の前の少女の腹の虫が泣き出したことに、少し背に汗が滲む。
「ブレッド・サーゼスです」
少女は僕のスコーンをかじりながら自己紹介を行った。
「ラジェルタ・ハイデンツァです」
僕もスコーンをかじりながら挨拶を交わす。
二人は会話の速度よりも早くスコーンを消化しながら、同じ肩身の狭い境遇の二人ということで、話は膨らむ。
招集終わりまで数分のとき、扉が動いた。
入ってきたのは、部屋の中央や椅子を独占しているがっちりした男の仲間でなく、体つきからしてこちらの仲間であろう男性が入ってきた。どこか、見覚えがある。
「あ、ラグロスさん」
「ラル君だ、久しぶり」
三人隅でスコーンを食べながら、大会の始まりを待ち望む。
ラグロスさんも、ブレッドさんも、上司からの無理やりの押し付けからの参戦で、まるで僕と同じような身の上で、更に親密さが増した。
「一回戦組決めです」
兵士が二人、カードを持ってやってきた。
「一列に並んでください」
私たちは当然ながら、最後尾に並ぶ羽目になった。
先に並んだ奴は、再び控え室の中に帰ってきて、カードの中身をじっくりと見ている。
横目で見ると、そこには数字で“3”と書かれていた。どうやら、何組かに分かれて行うらしい。
「1番だ」
僕は呟く。誰も自分の数字を口にしていないのに、僕だけはそれを口にしてしまい、皆の目が僕に向けられる。
少しだけ嬉しそうにした奴は、きっと1番だ。
ラグロスさんとブレットさんとは、それぞれバラバラの番号、3番までしかなかったが、運良くバラバラになれたので、決勝で会おうと語り合う。
「それでは“1”を引かれた方、私に着いてきてください」
黙秘は無意味であったらしい、唯一番号を言っていた僕は、何の抵抗も無く着いていく。それに続いて、他の連中も着いてくる。
陣に乗って着いた先は、王都の大三街道の一つ、つまりは、他の二つにもそれぞれ選手がいるのだろうと、推測が出来る。
すると、アナウンスが響く。それは魔法の陣から発せられる音声だった。
「それではそれでは、決闘祭第一回戦。選手はまだ内容を知りません。それでは一回戦はビーチフラッグ、街道の一番先の旗が三つ、それをとった九名が、二回戦進出だ〜。
位置について、よ〜い……ドンッ! 」
流れるようなアナウンスにあっけをとられ、スタートダッシュを出遅れてしまったが、それは吉だった。
「だが、スピードだけじゃこの戦いは勝てないぞ〜」
アナウンスが、遅れた説明を始めると共に、街道に敷き詰められた陣が一斉に発動し、魔物が具現化される。
街道の両脇の観客席から家やらには、物理障壁や魔法障壁が張られていて、安全は確立されていた。
僕は一人、魔物を相手に戦っている勇士たちの頭上を飛び越え、神の力を行使しながら、トップを走る。