二十三戒:レイ(2)
薬の残量が少ない。勢いに任せての過剰摂取が原因だが、最近はペースが速まってきた。私がここにいられるのも、あと少し……。
予定を早めて貰い、薬を届けさせることにした。私は任務の途中であり、少々のわがままも許される。が、過剰摂取の代償は大きく、それについての責任はとれないとのこと、ここに長くいたいのなら、もっと冷静になれと言われた。
「むりだっての」
性格が語っているのだ。性格が叫んでいるのだ。あいつらもわかってるはずだ。こんな性格に生んだ奴らがいけないんだ。
責任転嫁はよくない。改善するべきだと、自分をどうにか落ち着かせ、丘の上へと上る。名前なんか興味は無い。
「なんだ、珍しいじゃないか、あんたが直々にこっちに来るなんて」
「忠告だ。これで、薬は最後だ……」
「なんだって? でも、まだ私は! 」
「わかっているだろ、お前はおまけなんだ、そのおまけが、糞の役にも立たなければ、どういう命令が下されるのかくらい、バカなお前でもわかるだろ」
「ざけんなよ! わかったよ、その薬飲み終わるまでに、全部ご破算にすればいいんだろ? あぁ、上等だ。やってやろうじゃないか」
無理だとわかっていての、意地だ。
バカだってわかってる。ここにすがる理由なんて、無いはずだった。
任務が終われば、薬が切れさえすれば、こんなしけたところからはおさらばだって、それで全てがご機嫌だって、そう、思っていたのに、私はここにすがり付いている。
私はやつの目が見れなかった。哀れんでいるだろう、悲しんでいるだろう、私のこの醜い姿を見て、蔑んで、嘲り笑っているのだ。
「じゃぁ、これが最後だからな……」
切ないような声に、私は驚いた。
私の今を見ても、こいつだけは、待っててくれている。私の帰りを、でも、私はもしかすると……。
「バカなことは考えるなよ、必ず、必ず帰って来いよ」
「あぁ、私たちは汚泥にまみれた糞野郎だ。それでも仲間である、故に我あり、故に君あり、そうあれかし……」
やつは何も告げずにその場を去った。朝日のまぶしさが、少し優しくなるころに、彼は姿をくらました。
同時に吐き気、吐血。落ち着き払って薬を一錠飲んで、木に背を任せる。
薬が全体に回ると、私はため息を一つついて、呟くような掠れた声で叫ぶ。
「どういうつもりだ? ギン」
木の陰から姿を現したおっさんは、全身から哀れむような気を放ちながらこちらを見る。
目なんて無いのに、見られている気がする。なんだろう、今日はギンの優しさが、妙に痛々しかった。
「心配なんだ。お前は一人で抱え込む。いつまでだ? あと、どれくらいいられるんだ? 」
「もって……二ヶ月かな」
それ以上、互いに超えてはいけない線の上に立ち、互いの顔を見ずに背を預け、存在に依存した。
彼がそこにいるだけで、私がここにいるだけで、今の二人には十分だった。
かみ締めるように、確かめ合うように、私たちは存在した。少ない日数、何が出来るわけでもないもどかしさの中、私たちはいつも通り毎日をやり過ごす。
ただ、それだけ。