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二十一戒:新人祭り(1)

 それはある日突然告げられた。

 唐突には慣れていたものの、さすがに心の準備が間に合わないし、そんな度量のある心は持ち合わせていないので、いいえ、と言いたかった。

「新人祭りですか? 」

「そ、先々代の王が三回行ったくらいで、先代はやらなかってけど、なぜだか今年はやるみたいだからさ」

 新人祭り、スフィード全国の、どんな職業でもいいので、新人を集め、競い合う祭りである。

 僕は参加すると、強制的に武技大会という、端的に言うところの喧嘩に参加することになる。

 地方の収穫祭も兼ねているとの事で、美味しいものが食べられることは嬉しいし、民芸品や芸術品の出展と、個人出展の屋台なんかも並んで、お買い得な品々を買いあさるなんてことも出来るのだが、ただ一点において、この新人祭りが嫌いになった。

 課題と言われていた四級までは、後一歩のところまで近づいているが、武技大会ともなると、一級の奴らなんかがゴロゴロいそうで怖い。

 が、いいえ、なんて言える立場じゃないし、言った瞬間どこかに風穴が開きそうで怖い。

「参加するよね? 」

「わかりました。参加します」

「勿論、優勝するよね? 」

「それは保障しかねますよ」

 目が僕を否定している。このおっさんは僕を使って楽しんでやがる。そうとしか思えない。

 ケイちゃんが辛うじて頑張ってと言ってくれた以外、僕に救いは無かった。

「じゃぁ、手続き行って来ますね」

 笑顔で送ってくれた。その奥に何が眠っているか、覗くのは止める。

 陣を敷き、ロキさん専用のルートを教えてもらい、城の近くまで一瞬にして飛ぶ。

 城の門兵は、祭りにつきチェックは甘いものの、数が多いし、一般兵に混じって、バカみたいに強い人もちらほらいる。

 中庭を通って中央階段前の特設会場にて、参加申し込みを行う。

「アイゼンヴォルグのラルです。よろしくお願いします」

「あぁ、C3の例の新人君か、登録しておくよ」

 どこから情報が漏れたのか、アイゼンヴォルグが国に監視されているのかは知らないが、簡単に申し込みが済んだのでよしとする。

「あ、ちょっと待って、これ」

 渡されたのは一枚のチケット。

「出場者には特別に、一人だけ特別シートに案内できるんだよ、それを当日持って来てくれればいいからさ」

 チケットには特殊波数魔筆で書かれた僕の名前、なるほど、偽造をされないためのものかと、少しだけ技術の高さに感心する。

 さてさて、このチケット誰にあげようか、アイゼンヴォルグの人間には絶対にあげないとして、アパートの大家さん? いや、勘違いされても困る。

 そうだ、あの人ならいいかも知れない。


 僕が訪れたのは、豪華な屋敷の前。

 そう、先日依頼をしてきた女性。そういえば名前を聞いていなかった。お近づきになれたらと、雄っぽいことを考えながらドアをノックする。

 少しすると、あのブムルと呼ばれた巨漢の男がドアを開ける。

「あの……」

 と、言葉を発しようとしたときだった。胸に鈍い感覚を覚える。

 ブムルの拳が胸につきたてられ、僕は少しだけ飛ばされる。

 前を見据えると、ブムルは追撃を開始、その場から一歩後退し、無属性の衝撃を司る魔法を手の中に強制展開、体を動かし、お返しに一発叩き込む。

 体ごと吹っ飛んだはずなのに、平気に追撃を開始、相手の時を遅くし、できるだけ拳を避ける。隙を見つけ、腕をとり、投げ飛ばす。

 手に陣を展開、無属性の衝撃を生み出し、射出。背に当たったそれは、そのままブムルを運び、木へと激突。

 間合いをとり、南刀を抜き、陣を展開、迎撃体制をとると、ブムルは姿を消した。

「ごめんなさい、誰か来るとは思ってなくて」

 振り返ると、先日の女性が車椅子に乗って現れる。

 ブムルは何も無かったかのように、女性の車椅子を押している。

「扉を叩いた人には攻撃するように言ってるの、で、何か用だった? 」

 純白というには少し日に当てられているような肌で、足は最近怪我をしたのだと思わせるようなものだった。

 見とれている自分をどうにか殺し、用件を伝える。

「あの、これ、新人祭りがあって、それに出るんで招待券貰ったんですよ、あげる人がいなから、貴方に……と、迷惑でしたか? 」

「あら、いいのかしら? ありがたく受け取るわ」

「それと、お名前聞かせてもらってよかったですか? 」

 これには下心は無い。

 単に、僕の記憶の補完についての質問だ。

「エフィール・カティスよ、貴方は? 」

「ラジェルタ・ハイデンツァです。皆からはラルって呼ばれてます」

 改めて握手を交わす。やはり、僕は彼女を知っている。

 そう、あれは数年前、どこかで、彼女に会い、違う女性に名前を聞いた。

 駄目だ。やはり決定的な証拠となるようなものは無い。記憶はまだ不完全で、不明瞭なままだった。

 最後まで笑顔を保って、その場を去る。




 新人祭り三日前のことだった。

 彼から連絡があったのだ、そう、賢者ゼルからだ。

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