表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/36

一戒:アイゼンヴォルグ

 “神の声”というものが、迷信のようにこの世を歩き、いつしかそれは世界のバランスを司るものに変わりつつあった。

 不特定少数に“神の声”は聞こえ、“神の声”はそのものに特別な力を与える。

 世界にその噂が流れる前は、あるものは不安にかられ、あるものはそれを信じることにした。信じるものは勿論、病気扱いされた。

 が、人を動かすのはやはり時の流れであった。“神の声”を聞いたものは年々増加したが、人はやはりそれを信じなかった。それにより、“神の声”を聞いたものである種の団体が組織された。世界はそれを“ウィオーゴ”と呼ぶ。

 “ウィオーゴ”は、数少ない“神の声”を聞いた集団で構成されるため、少数になるのは必然なのだが、通常一つの団体は100人前後で構成される。

 唯一、我々を抜いて、だ。

 我々は良いように言えば少数精鋭、メンバーは私を入れて6人。ここに1人、多分、おそらく、我々のメンバーになろうとする人間が、妙に怯えているが、引きずり込むっきゃない。

「神の声聞いてきたんだろ? 」

 だったら無理やりに攻めるしかない。直球あるのみ。

 どうにもさっきの私を払拭しきれていないらしく、話が弾まない。

「……はい」

 どうにか一言を搾り出せたことに喜びは一入である。

「じゃぁ、ここで正解だよ。ようこそ、我がウィオーゴ、アイゼンヴォルグへ」

「あぁ……」

 差し出した手に恐る恐る触れる。

 まだまだ目を見ようとしない。よっぽど私のファーストインプレッションは最低だと物語っている。ん〜皆にばれたらことだ。

 どうにも話が弾まない。受け応えるだけになっているため、こっちから攻めないといけないらしい。

「ん〜、ここの一員になってくれるんだよね? 」

「あの、僕ずっと田舎暮らしで、何も……何もわからないんですけど、いいんですか? 」

「大丈夫、ウィオーゴは全国各地にあるわけじゃない、地方から、辺境からってやつがざらだ。そういうやつのために、ほら、ちゃんと案内書もある」

 私は最近ようやく作り上げた案内書を出す。この国の全部を納めたため、少々辞書っぽい厚さになったが気にしない。

 我々のこと、メンバーのこと、この国のこと、この国がどことどういう条約を交わしているかということ、その他もろもろ。

 少し引き気味なのは否めない。前のやつも、同じような反応を示していた。

「我々の仕事上、土地やら地形やらに詳しくないと、いささかやりにくいこともあってね、それから法律。ギリギリ歩くから要チェックね、それから……」

「全部覚えろって……ことですよね? 」

「そういうこと。それと君、北のなまりがあるね、宿もとってないでしょ、これ、私の所有するアパートの鍵、地図はここに書いてあるからさ」

 私はそのページを開き、鍵に書いてある住所と、案内書に書かれている住所を照らし合わせ、今いる教会とを結んでやる。

 あまりにも急ぎすぎたか、キャパシティオーバーになってなければいいがと、少し不安になる。

 青年は大きな荷物を担ぎ、辞書……あぁ、いや、案内書を小脇に抱え、教会の扉を開ける。

 最後に振り返り、会釈をした。

 私は思い出したように声を投げかける。

「君! 名前は? 」

「ラジェルタ……ラジェルタ・ハイデンツァです」

「私はセム……シェムルランガー・オリカルテ・トラスコットだ。よろしく」

 ラル君はもう一度会釈をし、夕闇へと消えていった。

 頭の固いお役人とばかり喋っていると、どうも話すのが苦手になってくる。

 今回、奇跡的に上手くいったが、はたしてどこまで生きていられるか。ここで死んだものたちを思い出すだけで、確立が弾かれてしまうのが怖い。

 ポジティブに計算しても、お世辞にも高いとはいえない。

 彼がそんなウィオーゴの実態を知っているかどうかなんて、無に等しいだろうが気にしない。

 最後まで責任取れと、じごきぬいてやる。それがここのやりかただ。

 さぁて、そろそろ彼らは任務を遂行しているころだろう。彼らが帰ってくるのと、ラル君が再び訪れるのはどちらが早いか、ラル君が早く来ないと、少々心配な点があるのも、今は気にしないことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ