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十八戒:女王という重み(2)

 朝食にはサーモンのムニエルにシーザーサラダ、それにオレンジペコが飲みたい。

 昨日は王女である身でありながら、護衛を拒否し、今日はその護衛にお使いを頼んでいる。端的に言えばわがままなのか、それでも俺は、彼女に依存するだろう。

 まるでクッションのように使っているのはわかっているし、それはいけないことだとわかっていても、必要とされる。それだけで、俺は生きていけるのだ。逆に言えば、それでしか生きていけないのだ。

 と、バカみたいに感傷に浸ってないで、早くお使いに行かなくてはと、足を急がせる。

「第一権力直属護衛、メーリクラウスだ。門を開けよ」

 第三権力七課、交通専門部署で、移転方陣を借りてプローウェルビルム軽食店までの陣を借りる。

 移転方陣は、こちらとあちらを繋ぐだけで自由が少ない。が、それを制御し、管理しているのが七課で、わざわざ朝食を買いに使わさせていただくのだ。


 軍の所有地に移動し、そこからプローウェルビルム軽食店を探す。

 少し南だと思い出し、歩みを速める。

 人だかりを見つけると、そこがプローウェルビルム軽食店だとわかる。大した繁盛だと感心する。

 と、その列の一番前に見知った顔がいた。確かC3の……レイちゃん、だっけ。

 うろ覚えながら近づき挨拶をする。

「レイちゃん、だっけ? 」

「あ、クラウスさんだ」

 注文を終えたのか、こちらに目を走らせ、隣の少年もこちらを見る。見ない顔だ。

 俺は割り込む形で注文を述べる。

「おやじ、ついでに、黒き瞳の池に浮かんだ聖女の微笑みに……」

 この注文を覚えるのに半年ほどかかったし、始めの仕事として覚えさせられた。

 あのフトゥールムとかいう物語は好きではない。説明はできないが、ともかくあれは嫌いだ。虫唾が走る。しかも、まだ完結していない。

「あ、あの……」

「いいよ、俺がおごるよ」

 少しだけ借しを作っておいて、後でセムの鼻にぶら下げてやる魂胆だ。

「それより、その子は? 」

「あ、私の家庭教師先のクレオ君です」

「クレオ・ハイムヒュートです。よろしくお願いします」

「メーリクラウス・クライフォントだ」

 ハイムヒュート、確か第三権力四課にいたやつに似ている気はするが、だからといって何かがあるわけじゃないので、考えるのは止めにする。

 商品を受け取ると、レイちゃんとクレオ君の分を渡して、少しだけ世間話をすることにする。

「家庭教師……って? 」

「魔法の勉強で、特攻魔法免許とるからって」

 レイちゃんは、史上最年少にして、特攻魔法免許を取得したいわば天才だ。

 セムという檻に囲まれたレイちゃんは、それでも笑顔を絶やさずに頑張っている。

 とにかく、俺の中での位置づけをはっきりさせよう。セムは極悪で、他は普通で、才能ある彼女は善である。

「ん、時間か……じゃぁこれで」

「さようなら」

 紙袋を抱えたクラウスさんの背に挨拶を投げると、それに答えるように手をあげて挨拶を返してくれた。

 クレオはどこか不思議な顔をして、そんなクラウスさんを見つめている。

「彼何してる人? 」

「第一権力直属護衛だよ」

「えっ! ……だって、えっ!? 」

 気が動転しているようだ。

 私は子供の頃から神の力を持ち、セムに出会って特攻魔法免許をとり、セムの関係で女王様や第二権力の五賢老院に会ったりと、感動は既にし終わっていて、これが正しい反応かと再確認。微笑ましい。

「じゃ、行こっか」

 私が提案を持ちかけると、すぐにクレオ君は移転方陣を展開し、家に直行する。




「おそーーーい」

 おやおや、女王様はご機嫌斜めのようだ。

 そりゃそうだ。少し寄り道をしてしまったから、遅くないわけがない。

「すいません。お食事の方は冷めておりませんので、どうかお許しを」

「なんだよ、いつもより仰々しいな、気持ち悪い」

 王女の真正面に座るガブリエルが、催促する目をわざわざ変えて、俺へ侮蔑の目を向ける。

 私は気にしないようにして、王女の右隣へと座る。

「わざわざプローウェルビルムじゃなくても、ここのコックに任せればいいものを」

「貴方はお腹に入ればなんでもいいのでしょ? 私たちは繊細なの」

 私の目の前に座っているクヒトは、淑やかに私をけなし、早速紙袋を破る作業に取り掛かる。

 それを見る限り、ここにいる女性は、誰も繊細さなんか持っていない気がする。

 が、それすら気にしない私は気配りさんだと、自己解決をしておく。

「さ、会議、会議」

 食事の準備をせっせとしながら、王女は会議を開くなどと言っている。

 今回の内容は、王女として何か鼓舞になるようなイベントを催すことと、戦線のこれからの方針、更に、最近起こった第二権力五賢老院殺人事件について、だ。

 三人の女性は食事にがっつく。

「っと、お祭りやりたいんだけど……おじいちゃんがやった、新人祭り? ってやつがあるから、それやろうよ」

「賛成」

「私も賛成」

 ここでの多数決は意味を成さない。いや、少し語弊がある。私の意見が通らないだけだ。

「じゃ、それはクラウスと私で、戦線についてはガブリエルで」

「は〜い」

 肉に噛り付きながら、ガブリエルは手を上げる。

 私は皆にわからせるために、上品に食事をしてみるが、誰も気にしていない。だんだん虚しくなってきた。

「ってことで、クヒトちゃんが第三権力と教会に、事件の究明よろしく」

「報酬どうします? 」

「前金百で、成功により上限は千まで出す」

 第二権力五賢老院というのは、この国の政治を司る施設で、最初は王女暗殺に精を出していた。

 今となっては、王女の活躍と人望にあやかろうと、媚び諂っているこの世の縮図のような奴らである。

 何故彼らの事件に、王女が必死なのか、それは至って簡単。

 政治が面倒だから。

「戦線は中央寄り、上部は薄め、陣を広く敷け」

「じゃ、私はお先に〜」

 最初にガブリエルが、マンゴージュースをすすりながら部屋を後にし、クヒトが後を追うように退室した。

 食後のドルチェを堪能しながら、私を見て笑っている。嫌な予感。

「で、私はそのお祭りに関して、何をすればいいんですか? 」

「よくぞ聞いてくれた! 」

 輝く目は漆黒に光り、ドロドロと何かが流れるような、グツグツと策が煮込まれるような音が聞こえる。

「これを国中に配って来い」

「はぁ!? 」

 その紙の束は、手で持てる域を越していたし、国中てどういうことですか。

 そんなささやかな疑問でさえ受けてもらえず、私はなれない雑務をこなすのであった。

 

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