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十四戒:記憶の軌跡(1)

「詳しく話してもらえるかい? 」

 セムは優しくラウに語り掛ける。大してラウは、小さく頷くだけだった。

 ラウが私たち以外がいる時に喋るなんて、成長したのだなと親心が疼く。

「ラルさんが無茶した相手、多分クルオルデルタのナンバー2フィルグだよ」

 皆黙り込んでしまった。もともと喋る奴が少ないのもあるが、戦争が急速に展開していることに対する戸惑いが、どうしても隠し切れないようだ。

 しかし、何故急にこんなことになってしまったのだろうか、整理してみる。

 クルオルデルタは、こことは違い、大多数のウィオーゴと同じで国には関わってはいなかった。個人団体として動き、布教を続け、信者を集めていた。

 それが今回、どうにも国につくような動きをとっているように思える。

 だから、私は少し口を挟んでみることにした。

「単独行動……って線は? 」

「いい質問だ。無きにしも非ずってとこか、いや、もっと確立は高いな」

「が、考えられる理由で、それが最も確立が高いと見た。至急第一機関で会談を開く。今後の君たちの活動は、それに準じてもらう」

 話がまとまる方向に収束していったのだが、思わぬことに、いや、思わぬスピードで、楽しいものが帰ってきてしまった。

 教会の大きな扉を勢いよく開け、バタンと鈍い音が響くが、その音には怒りが満ちているのは承知の上であったが、一つ、おかしな殺気を感じた。

「ど、どういうことですか、あの人? もう少しでどこか別の世界に飛んでましたよっ! 」

 私が冗談だと、冗談にならない言葉を発しようとしたときだった。ありえない声が発せられたのだ。

「貴様ぁぁ! 何故ここにっ! 」

 やばい、あいつ助からない。

 この国で一番強い男、第一機関直属護衛長メーリクラウス・クライフォントに狙われた以上、配置からして、私も、ギンも追いつかない。

 が、長らく見ていなかったセムの動きに、私たちは安堵を覚えた。死体処理をせずに済むという点で、だ。


 乱された服で教会の扉を開け、見知らぬ人外ながらも、まずは文句をと、大きな声で響かせる。

 次の瞬間、その見知らぬ男は、僕になにか恨みがあるかのように発狂し、そして抜刀。

 僕は動けなかった。僕は見えなかった。いや、見たくなかったのだ。

 その圧倒的な力に、その圧倒的な殺意の前に、その圧倒的な復讐の塊に、僕は目を逸らすことしかできなかった。本当は目の前にいたのに、僕の目は、それを拒否したのだ。

 死ぬ。痛くも無いし、辛くも無い。けれども、心というか思考のどこかに、しっかりとした虚無が鎮座し、それは僕を飲み込もうとしていた。それに僕は、飲まれようとしていたのだ。ただ、静かに死ねたら、と。

 それを蝕むように、一陣の風が吹く。共に、金属のぶつかり合う音が聞こえた。

 セムさんの背中越しに、男の持っているだろう剣と、セムさんの大口径のハンドガンが軋みあっているのが見えた。

 どうやら、助かったようだ。

「どけセム! 俺はそいつに用があるんだ」

「穏やかじゃないね、話を聞かせなよ、それと、彼は記憶障害がある、彼は君を知らない」

「記憶……障害? ……すまない。人違いだ」

 剣を鞘に収め、僕の横を通り過ぎようとした時だった。僕は、やっと彼の存在を確かめることに成功した。

 彼は、ただ静かに僕の横に立っている。

「クラウス、まだ話は終わっていない」

「ここの掟に従えば、詮索はしないんだろ? 聞きたくなったら聞きに来ればいいさ、彼“一人”でな」

 クラウスと呼ばれた男は、どこか切なげな顔をしながら、その場を後にした。

 僕は、神の力で時を少しだけ操れる。

 だが、今回の一件については別だ。死ぬかと思った瞬間は、今までで一番長い一瞬となっただろう。その性か、寿命が縮まった。そんな気がする。

 この一件があってだろうか、セムさんからのお咎めは無かった。

今更ながら読者数の存在に気づきました。

なぜだかロキの物語がずば抜けてるのは、気のせいでしょうか?ww

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