十二戒:ポルメルワンの戦い(2)
ポルメルワン海岸、北は海で南はいきなり山という特殊な地域、海岸がスフィードからイスタリアにかけて長い海岸線は、たびたび戦争の地になる。
山間部の奪取が今回の鍵となる、いままでは兵を伏す地として使われていたようだが、イスタリアの南の進攻も含め、だんだんと進攻の地を広げ、全面戦争の足がかりにしようとしているようだ。
今回の仕事はグールの殲滅。
セムさんからいただいた陣布で、意外と簡単に倒すことが出来た。
それのせいだろうか、僕は調子に乗っている。目の前の男を倒せると思っている。
何かの魔法で戦場を整然とさせ、C3を呼んだのだ。僕は退く事が出来なかった。いや、退くと言う選択肢を知らなかった。とでも言えば格好がつくかな。
「さ、愉悦を楽しもう」
男は風を纏ったのだろうか、素早い飛翔で間合いを詰める。
魔法で遠距離から攻めれば確実なのだが、こいつの考えていることがわからない。
レザーグローブの拳に描かれる魔法の陣が怪しく光り、避ける僕の横に、炎の軌跡が描かれる。
ローブを纏いながら、動きが見えない腕の乱打が続く。
勿論ながら、僕は神の力を駆使して拳を避ける。反撃できるタイミングは、自分ではわからなかった。
それでも、たまに訪れる隙を見て、南刀を振り、ハンドガンを放つ。が、それも全て避けられてしまう。
殺さなければいい、ならば、腕や足をつぶす程度ならば許されるのだろう。
残った三つの陣布を触り、固唾を呑む。
炎を纏った拳を避け、わき腹、鳩尾、喉などを南刀で突く。
あたっていない筈の自分の腕に、少しだけ痛みが浮かぶが、慣れていない戦闘のなにかだと、軽く見ている。
見つけた。南刀で腕を払い、その腕に陣布を張り、魔力を放つ。
「ふふっ……」
まただ。獲物を見つけたような肉食獣の猛禽の笑みが、ローブの奥から漏れる。
発動した陣布は何故か光りを保ったまま、衝撃だけが遅れていた。
気づくと胸の辺りに、男の右手が近づく。
何故だろう、無性に殺気を感じる。何故だろう、触られてもいない手に威圧を感じる。
駄目だ。逃げなきゃ、わからない何かに浸食されるような気分だ。時を早め、時を遅め、風を纏い飛翔する。
が、それは遅すぎた判断だった。
「死ねっ! 」
男の右手から、不可視の衝撃が放たれる。
それはそれは何よりも重かった。全てが押し返される気分だ。皮膚の全てが後ろに引っ張られ、骨が軋む。
それは瞬間だった。衝撃が加えられてすぐ、山の壁面に打ち付けられる。
骨が折れる音がした。臓腑が押され、胃液を吐いた。何よりも、息がしづらく、意識は朦朧とした。
男が近づいてきたのがわかった。死ぬのだなと思わされた。
その時、目の前に誰かがやってきた。声がしたんだ。確か、レイの声が。
「バカ野郎が、お前はどこの自殺志願者だ。ロキッ! 」
ギンの剣が男との距離を開け、その隙に退避する。
次に目が開いたのは、やはり教会だった。