プロローグ
「ねぇ、やっぱり誰か見てきてよ」
耳の奥から聞こえてくるような声で、通信機から少年の恐れに満ちた声が響く。
「ラウ、これで三回目だが、セムは死なねぇよ」
女性の声は荒っぽく伝える。
「それ、より準、備。でき、た? 」
かすれたような、歯切れの悪い声で青年が呟く。
「今は仕事が大切だ……」
小さく低い声が耳の奥から響くと、仕事の始まりを告げる熱線が射出される。
夜という闇を、グールと呼ばれる人外の存在を貫きながら、熱線は正義を訴えながら街を横切る。
熱線が予定されていた地まで光をのばしきると、光は弱く小さくなり、再び光が帰ってきたときだった。女性の妖艶な声が、通信機から聞こえるとともに、戦闘の始まりを告げる。
「さぁ、楽しい楽しいお遊戯会だ」
とある街の北に位置する大きな、大きな協会で、神父は考えていた。
長いすの群れと教壇の間で、両脇の窓まで行ったり来たりを繰り返しながら、右手で長らく蓄えた顎鬚に違和感を感じつつ撫でる。
が、こんなことで悩みが解決できるのであれば、戦争なんてとっくの昔になくなっている。
少しネガティブな思考に入り、遮断する。
歳を推測するに、50を数えているだろうと、皺や白髪などで推測できるが、歩く姿はそこまで年老いていないようにも見える。
いきなりの事だった。そんなほぼ老人神父は教壇の前に立ち、自我が保てなくなったかのようにその場に倒れこむ。そして発狂。
「あーーーーー! ケイちゃんはやっぱり行かせないほうがよかったかなーーー? だって、俺寂しいし、彼女の初陣にグールはやりすぎかなーーー? 」
その場で二転、三転しながら、服を乱し、自我を壊しつつ、神父は悶えた。
が、それも一瞬にして終わりを告げた。同時に、神父としての、人間としての役目を終えたようだ。
誰かが見てる。
神父は寝た状態からゆっくりと真っ直ぐに姿勢を戻し、ため息を混ぜながらひざに手をのせ立ち上がる。全身の埃を払い、遠くに飛んでいったメガネを拾い、髪の毛をかきあげる。
満面の笑みをつくり、怖がらせないように近づいていく。ゆっくり、ゆっくりと。
教会の長いすの群れの前後の分かれ目が、教会の真ん中を示しているので、神父はそこで止まり、冷静に声をかける。
「どうぞ、立ち話でもなんですから」
刹那だった。閃光のようでもあった。ドアは閉められたのだ。
少しだけ怒気が混じった神父は駆ける。ドアに手をかけ、一気に開き、先ほどの少年を探し、捕縛。いや、拉致。
さらに周りを確認するや否や、教会に持っていく。
教壇をどかし机を置き、椅子を用意し強制的に座らせる。
「で、何の用だい? 」
満面の笑みが駄目だったのか、拉致がまずかったのだろうか、青年は明らかに怯えている。