6 村到着。そして、兄は語る。
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「村が見えたわよ!」
『本当だね』
「お兄ちゃん……(むにゃむにゃ)」
ミカたちがデスペルタル村を朝出てから、今はちょうど日が落ちた頃になっていた。
やっとの事で村に着いたため、ミカは若干はしゃぎ気味である。
ユウも村を見るとにっこりと笑い、その背に背負われているレイはというとぐっすり眠っていた。
『レイ、起きて。スタシオン村に着いたよ』
「……ぅん、着いた?」
『着いたよ』
ユウは極めて優しい声でレイを起こす。
寝惚け眼を擦りながらレイはユウの背中から降りる。
少しふらつくレイをミカが支えてあげているのを見ると、ひとまず仲直りが出来た? のだろう。
「しっかりしなさいっ」
「……わかってる」
『二人とも、行くよっ』
「「はーい」」
ユウは村の門を指差し言う。
レイとミカは返事をするが、偶然にもタイミングが重なる。
実は仲がいいのだろうか?
「真似しないで」
「なっ、そっちこそ真似しないでよ!」
「“レイお嬢様が先に仰ったのだ。非を認めろー!”……よく言った、ユウタン」
「ふっ、危うく安い挑発に乗るところだった……私はお姉ぇえさんなわけだし、ここは引いてあげる」
レイがユウタンで挑発をするが、対するミカは怒るどころか自分から身を引く姿勢を見せる。
そんなミカの態度に余計にレイは苛立ちを表情に出す。
恋人効果によるためか、ミカには余裕なるものが感じられる。
「オバサンの間違いでしょ」
レイは不敵な笑みを浮かべてから捨て台詞のようにそう言い放つと、ステテテテっとユウのもとへ駆けていく。
それでもミカは耐えるのかと思いきや、その顔は鬼そのものだった。
逃げろレイ!
『ひっ! 鬼!? って、ミカか……いつまでもふざけてないで、早く行くよ』
「うん」
(この恨み、覚えていなさい。このチビガキ……ふふ、ふふふ)
***
村の門に着いた三人。
村に入るには門番の検問を受けてからというのが、この地域の基本となる。
特に資格のようなものは必要ない。
「はい、一度止まって下さい」
門番の青年がストップをかける。
そして、青年は記録のようなものを取り始める。
「ご協力ありがとうございます! 女性二人だけで大変でしたでしょう。ゆっくり休んでいって下さいね」
青年は真剣な表情から一変して、気さくな笑顔でレイとミカを気遣う。
二人という言葉に疑問を抱くユウたちだが、ひとまずお礼を述べてから村の中へと進む。
「あのお兄さん間違えてなかった?」
『人数のこと?』
「そうそう」
「レイたち、三人……」
この三人は忘れていた。この中に一人幽霊がいるということを……。
「あ、お兄ちゃんは幽霊だった」
「『そうだった』」
レイの発言により、やっと気が付くユウとミカ。
旅立ちやモンスターなどのせいで、すっかり記憶から抜けていたらしい。
『つまり、僕は他の人から見えない存在ってこと?』
「うーん、そういうことになるわね」
「レイにはお兄ちゃんが見えているから心配しないで」
『う、うん。ありがとう? レイ』
レイとミカにはユウの姿が最初から見えていたため、そもそもユウが他の人には見えないという発想に至ることが出来なかったのだ。
気を遣ってなのか、レイはユウに声を掛けるが、その言葉に込められた想いが隠せ切れていない。
ユウの返答も歯切れの悪いものとなっている。
「これからどうするの?」
『僕については今のところ不都合があるわけではないし、このままで行こうと思う。それと、今日はもう暗い。宿を探して明日、都市に向け出発をしよう』
「そうね」
「レイ、お腹空いた……」
ユウの提案に二人は賛成し、宿を探すことにする。
レイの空腹状態が限界ギリギリのところで何とか宿を見つけたレイお嬢様御一行。
しかも、食堂付きなので直ぐにご飯が食べれる。
宿の中も綺麗にしているため、女性陣もゆっくりと体を休められることだろう。
***
注文した料理を各々味わっているユウたち。
お腹ペコペコだったレイも満足そうだ。
「あ、そう言えば聞きそびれてたけど、ユウのあの力って一体どんなものなの?」
ミカは言う、あの力とは森での戦いで見せたユウの能力のことだ。
このことにはレイも気になるのか、食事の手を止めて聞く姿勢をとる。
『……あの力は僕だけが使える能力みたいなもので、僕は《弱チート》って呼んでいる』
「《弱チート》って何? お兄ちゃん」
ユウは二人に転生者という部分は触れずに、できる限りありのままのことを話す。
内容としてはまず、この能力は死ぬ以前も使えることには使えたのだが、条件などが厳しくあまり使えなかったこと。
能力は複数存在すること。
チート並の力はあるのだが使えるか微妙なものが多く、そのため《弱チート》と呼んでいること。
そして、この《弱チート》の代償で寿命が短くなっていて死んでしまったことなど、様々なことをユウは話した。
『レイ、ミカ。ずっと黙っていてごめん。この力のせいで、二人に余計な心配を掛けたくなかったんだ。本当にごめん』
「うん。ユウの気持ちはちゃんと分かっているから大丈夫よ。でも、もう少しくらい私たちを頼ってくれたっていいのよ? ねっ、レイちゃん」
「ミカお姉ちゃんと同じ気持ちっていうのは納得いかないけど、お兄ちゃん。頼りないレイだけど、お兄ちゃんのためならレイなんでも頑張るよ?」
そんな二人の温かい言葉にユウは思わず涙してしまう。
『ありがとう。ミカ。レイ。』
「うん」
「“泣くではない友よ! レイお嬢様は笑顔を望んでおられるぞ”」
『ふふ、そうだね、ユウタン。泣くのはやめるよ。食事の続きをしよう』
ミカは優しく微笑み、レイはお得意の腹話術でユウを元気づける。
そんな二人の想いはちゃんとユウにも伝わっているようで、その顔は清々しい表情をしていた。