4 旅立ち。そして、妹は忍耐力に乏しいです。
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ユウが死んでから一週間とちょっとが経った。
その間にレイたちはユウのお葬式をしたり、旅立ちの準備をしたりしていた。
お葬式には村の人も来た。
肉体は消えてしまうが、弔うという意味でお葬式は行われる。
幽霊としては復活したユウだが、突然みんなの前に現れるのは驚かせてしまうとのことで自宅待機だ。
そして周囲が落ち着いてから、レイとミカはお世話になった人たちに旅立ちの挨拶をして回った。
回る家々で励ましと、応援の言葉を貰った二人はついに今日、旅立つ。
あ、プラスもう一人(幽霊)。
『うーん、自分のお墓に祈りを奉げるっていうのは如何なのかな?』
「そんなことは気にしない、気にしない!」
「お兄ちゃんのお墓……かっこいい」
『……そ、そう? ありがとう、レイ』
三人は今、家の近くに建てたユウのお墓の前にいる。
自分のお墓に祈りを奉げることに疑問をもつユウ。
そんなユウにミカは笑って言葉を返す。
レイは何故かお墓を見て、うっとりとしている。
『じゃあ、行こうか』
ユウが二人に声をかける。
「うん。お兄ちゃん」
「よーしって、待て待てちょっとレイさん!?」
「何?」
「いやいや、旅にその服装はアカンでしょ!」
ミカが待ったを掛けた理由はレイの服装に、冒険者風に言うなら装備に問題があった。
レイの服装は黒と白を基調としたドレスで、スカートはふわっと膨らんでおり、レース、フリル、リボンなどが沢山あしらわれた……いわゆるゴスロリファッションというやつだ。
おまけにその腕に抱えられているのはクマさんの人形ときた。
「なにそのフリフリした服は……舞踏会に行くんじゃないのよ!?」
「かわいいからいいの」
「かわいいとかの問題じゃない! それにそのクマは何!?」
「ユウタン」
このクマの人形はレイが十歳の誕生日の時に、ユウがプレゼントしたものだ。
見た目はかわいいクマかと思いきや、執事服を着せられメガネをかけている。
レイ曰く、オシャレらしい。
いや、明らかにレイの趣味だと思われるが……それに名前(ユウタン)も実に怪しい。
「名前は聞いてないわよ!」
「“僕の名前はユウタン! 仲良くしてね”……ちゃんと名前が言えてえらいぞ、ユウタン」
『うわーすごいっ! 腹話術が上手だね、レイ」
ユウタンの手足を動かし、レイは巧みな腹話術を見せる。
もしかしたら、レイは【腹話術師】の才もあるんではなかろうか。
ユウはそんなレイの隠し芸に大喜び。
「“腹話術なんかじゃないよ! ね? レイお嬢様”……そうよ。お兄ちゃん、ユウタンは喋れる人形なんだよ!」
『そうだったのかい!? これは失礼。よろしく、ユウタン』
「“構わないよ! 僕と君はもう、友達さ!”」
「え? 服の話はどこに行ったの? ねぇ! ……もう、これだからこの兄妹は」
ユウはレイの設定を知り、上手く調子を合わせる。さすがは兄の鏡だ。
もちろんミカは蚊帳の外状態である。なんだか、この感じが定着してきている。
めげずに頑張れ、ミカ。
***
レイお嬢様御一行は只今、村を出発しまして都市へ向かって歩いているようです。
「お兄ちゃん……疲れた」
『うーん、そうだね。休憩にしようか』
「ちょっ、もう休憩にするの!?」
レイは忍耐力に乏しかった。それも、諦めた方が早いと言われてしまう程に。
「まだ、村を出てから一時間も経ってないじゃない」
『許してあげてよ、ミカ。スタシオン村まではそう遠くないしね? 今日中には着くはずさ』
「お兄ちゃんの言う通り」
何故ユウたちは都市を目指しているのかというと、冒険者になるための手続きが都市でしかできないためだ。
簡単に説明をすると、冒険者というのは『ギルド』と呼ばれる組織にまず登録する。しなければ冒険者として名乗ることが許されない。
そしてそこで『依頼』を受け達成すると『報酬』が貰え、その『報酬』で冒険者は生計を立てているのだ。
詳しいことは近いうちにまた話そう。
「もぉう、分かったわよ。十分だけだからね!」
『スタシオン村に着けば馬車に乗れるから、それまでは歩きで頑張ろう』
「“僕、頑張るぞ!”……レイも頑張る」
『うん、いい返事だね。ユウタン、レイ』
ユウはユウタンとレイの頭を同時に撫でる。
幽霊の手なので実際には触れてはいないのだが、そこは気にすることはない。
レイの満足そうな顔から、形あるものだけが全てではないと教えてくれる。
***
「お兄ちゃん……疲れた」
『うーん、そうだね。休憩にしようか』
「ちょっ、もう休憩にするの!?」
ん? これはもしかして……デジャブ?
という冗談はいいとして、如何やらレイお嬢様はまた休憩をご所望のようです。
『まあまあ、ミカ。今回はレイも頑張ったと思うし、許してあげてよ』
「“そうだ、そうだ! レイお嬢様はお励みになられた”……お兄ちゃん、ユウタン、ありがとう」
「ちょっとユウタンにイラつくのは何故かしら? ……はぁ、もういいわよ。確かにレイちゃんは頑張ったしね」
「“話の分かるやつだな! レイお嬢様もお褒めになっていらっしゃるぞ”」
ユウの説得もあり、ミカは渋々といった様子で休憩を受け入れる。
そんなミカにレイは、もといユウタンは上から目線で褒める。
これにはミカも黙っていなかった。
「ん? なに? そんなに私を怒らせたいの? ほらっ、はっきり言ったらどうなのよ! ねぇ!」
「“そんなことで怒っていたら、小ジワが増えるぞ”」
「余計なお世話よ! もういいっ、知らない!」
そう言うとミカは道を逸れ、森の方へスタスタと進んで行ってしまう。
『ちょっと待ってミカ! どこ行くの!?』
「お花摘みに行くのっ、ついて来なくていいから!」
次第にミカの姿はユウたちから見えなくなっていく。
『今のはよくなかったよ、レイ?』
「レイ、悪くないもん」
レイは口を膨らませ、自分は悪くないと意地を張っている。
そんなレイに、ユウは語り掛ける。
『ミカはきっと一人で反省してるよ。何で怒っちゃったんだろうって。本当はね、レイと仲良くしたいってミカはすっごく思ってるんだよ?』
「本当に?」
レイは聞く耳をもたないっといった様子から、ユウの話に反応を示すように変わる。
『うん。出会った頃なんて、何度ミカに「私ってレイちゃんに嫌われてるのかな?」って相談されたことか』
「そうだったんだ……」
ユウは少し冗談めかして話す。
レイにもユウが伝えたかったことが伝わったのか、その顔には反省の色が見えた気がする。
『ね。だからレイも、もう少しだけミカに対して素直になれたらお兄ちゃんは嬉しんだけどなぁ』
「お兄ちゃん……レイ、ミカお姉ちゃんのところに行かなきゃ」
ユウは優しく諭す。
もう心配はいらない。
レイは素直じゃないところもあるが、根はすごく優しくて良い子なのだ。
『きゃーーーーっ!!』
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