2 世界の法則。そして、妹は大胆です。
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「うん。任せて、お兄ちゃん」
レイは再び杖を取り、構える。心なしか、先ほどよりも様になっているように見える。
だがしかし、レイとユウは重要なことを忘れていた。悪いがミカは論外だ。
この世界の法則を忘れたわけではない。
二人は再び会えたことが嬉しすぎて、感激のあまり頭から抜けていたのだ。
この世界で魂が抜けた肉体、つまり死体が存在できる時間は『15分の猶予』だけだということを……。
ちなみに、この世界は一分が60秒の一時間が60分、一日が24時間という法則になっている。
しかし、一年は360日だというのだから皆さんの知る『地球』という世界とは違うことがよく分かる。
「始めるよ、お兄ちゃん……って、あっ」
『あっ』
「え? 何?」
ミカは相変わらず疎外されているようで、見ていられない……。強く生きて、ミカ。
ひとまず、ミカのことは措いておこう。
レイとユウが何故、開いた口が塞がらない状態になっているのかというと、消えてしまったのだ。
ユウの肉体が七色の淡い光に変わってキラキラと輝き、天に昇るが如く消えていってしまったのだ。
その光景は――死体が消え去ったという――現実に反して、とても幻想的だと、神秘的だと言える。
「『あぁあああーー!』」
レイが杖を落とす。
少し遅れてレイとユウの声が重なって響く。
しょうがないと分かっていても叫び声を止められない。そう、スナック菓子の法則のように……。
「おにい、ちゃん……うぇえええん……ごめん、ヒクっ、な、さいぃ」
レイはあまりにもショックだったのか泣き出してしまう。
確かに、大好きな兄の肉体が消えてしまうということは辛いことだろう。
そんなレイにユウは優しく声をかける。
『泣かないで。レイはなーんにも悪くないよ。ね? だから、お兄ちゃんにレイの笑顔を見せて欲しいな』
「レイ……悪くない? お兄ちゃん、レイのこと嫌いにならない?」
レイはとても不安そうに問いかける。
ユウに嫌われるということは、レイにとって死にも近い意味をもつ。
兄のいない人生など生きる価値がない! っとまで言ってしまいそうなくらい、一人の家族に対して注ぐには異常なほどの愛を兄に抱いているのが、このレイという少女なのだ。
『嫌いになんてならないよ。なるわけがない! だって、レイはお兄ちゃんの自慢の妹だからね』
この兄も兄で相当なシスコンだったりするのだが……。ちなみに本人は無自覚だ。
「お兄ちゃん……だぁーい好き!」
レイは両手を少し持ち上げると、愛しそうな目でその手にある人魂を見つめ、少女らしかぬ色気を醸し出す。
次の瞬間。
少女の小さな唇はまるで果実に口付けするように優しく、そして奥床しさを見るものに与えて人魂に触れた。
『れ、レイ!?』
「ん? あっ……」
レイの顔が急激に赤くなる。まるで、熟したリンゴのように。
瞳をうるうるとさせ、どうしたらいいの? っといった様子で自身の大胆な行動を今更ながらに自覚したのだろう。
その現状を打破したのは【死霊使い】としての力だった。
青紫色のオーラがレイとユウを包み込む。
オーラは次第に収束して二つの輪を形作ると、一つはレイの左人差し指に、もう一つはユウを囲う。
オーラの輪は小さくなり、レイの人差し指に青紫色の楔形の模様となって刻まれる。
ユウにも変化が訪れた。
『こ、これは!?』
「お兄ちゃん!?」
「私、何が何だかわからない!」
ユウは驚き、レイはユウを心配し、ミカは諦めていた。
人魂のユウが突如、白い光を放ち始める。その光量は目を開けていることが困難なくらいである。
レイは眩しさのあまり思わず腕を使い、目を塞ぐ。
ミカも腕を使って光から身を守っているようだ。
光は直ぐに収まり、そこにいたのは人魂から姿の変わったユウだった。
その姿はいわゆる幽霊やお化けと呼ばれるようなシルエットをしていて、メガネや顔つきなどの特徴からユウだということが分かる。
『えーと、二人とも大丈夫?』
「うん……でも、お兄ちゃんが変身した」
「あれ? もう、あの光はなくなったの? てか、さっきから光りすぎじゃない?」
レイは数回目をパチパチさせてから、何とか現状を理解するも驚きは隠せていない。
ミカはというと、やはり少しずれている感が否めない。間違っていないのだが……空気読んで、ミカ。
『みたいだね。でも、さっきと変わった感覚はないし、大丈夫だよ』
「よかった……」
「え!? ユウが幽霊に変わってる!」
ユウは自身の顔やら腕やらを伸ばしたり、叩いたりして変化を確かめている。
そんな兄の平常な(死んでいるので適切ではない)姿を見て、ホッとした顔をするレイ。
ミカは……触れないことにしよう。
『それにしても、どうして変化したんだろう?』
「レイ、わかんない」
「……そういえばキスしてからって、あ! そうよ! レイちゃん。何故あの時、ユウとキスしたの? 説明して!」
驚きから復活したミカは会話に参加するべく意見を述べようとするが、そこで忘れていたことを思い出しレイに詰め寄る。
対するレイは指摘を受けて、先ほど兄にした行為を思い出してしまい身悶えている。
ユウは完全に推理の世界に入り込んでしまっていた。
「ミカさんはキス、キスばかり言って、ハレンチ」
「なっ! ……そういうレイちゃんは身動きの取れないユウにキスしたわけだけど、そこんところ如何なのよ?」
(うぅ……お兄ちゃんにキスしちゃったんだ。どうしよぉー、嬉しいけど嫌われたりしてないかな? 強引な女はやっぱりダメ? えぇーん、レイのこと嫌いにならないでお兄ちゃん)
レイは顔を両手で塞ぎ、うーうー唸っている。よっぽど恥ずかしくて、それと反省しているのだろう。
「ちょっ、いきなり黙り込まないでよ」
『そうか!』
「え!? 何? どうしたの? ユウ」
『推測に過ぎないんだけど、これは一種の《契約》なんじゃないのかな?』
ユウが推理の上で導き出した答えは《契約》というものだった。
『本来、《契約》とは【魔獣使い】などが使う能力の総称なんだけど、今回その力がレイと僕にも何らかの《契約》という形となって発動したんだと思う』
そう、ユウの推測は見事なほどに正しかった。
《契約》の種類は様々であり、話にも出ていた【魔獣使い】の中でも《鳥獣契約》、《竜契約》、《幻獣契約》などが存在する。
そして今回、ユウたちに発動したのが《死霊契約》というものだ。
《死霊契約》はその名の通り死霊と契約を結ぶというものなのだが、実はこの《契約》あまり知られていない。
それもそのはず、この契約ができるのは数少ない【死霊使い】の中でもほんの一握りなのだから。
更に、この《契約》には条件が存在して、その内容は『愛ある口付け』なのだから実例が少ないのも頷ける。
「《契約》って、どんなの?」
『それは僕にも分からない。ただ、一つ言えるのはレイと僕の《契約》が成功したということだ』
「そっか」
このことについては、また先の話でユウたちは知ることになるのだが、今はいいだろう。
『これから如何しようか?』
ユウは自身のことなども含めた意味でレイとミカに問いかける。
すると、先ほどまで悩みに悩んで最後の方は泣きそうになっていたレイがユウの問いに気が付き答える。
「レイ、冒険者になりたい! ゼロ様みたいな可愛くて、かっこいい冒険者になりたいの」