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『さらしは生乳に巻くものでしょう!』『おめえの趣味は聞いてねぇ!』

 質問。

 家からでると、軒先――というか庭から出てきて後をついてくる他人に話しかけられた時、一体どういう風に話せばいいんだろうか。

「とりあえず119にでも連絡すればいいのかね」

「どうして消防に連絡を? 布令ふりょうさんの家のガス栓は全部閉じてあったし、火の気はなかったけれども」

 それを他人が知っているという時点でまずおかしい。と思うべきではないか? ああ、本人だから分からないか。

 あたしの隣で、不審なセリフを言いやがるメガネの名前は須藤すとうくるま

 先日、どういう訳かあたしに告白してきた男だ。

 どうやらあれは、『果たし状』ではなくて『ラブレター』だったらしい。

 『放課後、校舎裏にきてください』なんて、妙に柔らかい文体からそうそうに気づくべきだったかもしれない。そうすれば、このストーカーがうちにやってきたりは……いや、変わらないか。

「いやあ、しかしビックリだなあ。布令茜ふりょうあかねさんと家が近かったなんて」

「フルネームで呼ぶな気持ちわりい」

「じゃあ茜さんで」

「そこで名前呼びに変更できるお前の度胸にはビックリだよ」

 はあ。とため息。

 ここで強く言い返すべきなんだろうが、どうもうまくできない。

 なんというか、こいつ。やりづらい。

 いやまあ、理由は簡単なんだけどな。

「しかしさすがだね茜さん」

 急に機嫌良さげな口調で言いだす須藤。

 ほらまた始まった。

「もうとっくに遅刻している時間だというのにその余裕。社会と仲良くなる気が更々ない不良らしくてとても良い!」

「遅刻なんだから、どれだけ急ごうがのんびり行こうが変わらねえだろ」

「普通の人なら誠意をみせるためにも、少しでも速く行くものだよ」

「はん、くだらねえ」

「いいなあ。いいなあ。この斜に構えたその態度。世間を舐めきっているとしか思えないその性格。いいなあ。実に不良だ」

「…………」

 やりづれえ……。

 このストーカー。はじめは、どうしてあたしなんかに告白してきたのかてんで検討もつかなかったのだが、話してみるとすぐに分かった。

 こいつ、いわゆる『不良』が好きらしいのだ。

 それで、この学校で一番不良であるあたしに告白してきたらしいのだ。

「誠意がねえなあ」

「不良が誠意を求めますか」

 かわいいから好き。と一緒だよ。こういういのは。つまるところ、性格が好きってやつだね。と須藤は素面で言ってきやがった。

 だから、こいつはあたしが不良的行動をとるとすげえ喜ぶんだ。

 やりづれえこの上ない。

 しかもだ。

 その逆に『不良らしくない』行動をとると、不機嫌そうに文句を言ってきやがる。

 やっぱりフッて正解だったかもしれない。こいつと話していると疲れるこのうえないし、ストーカーと化すようなやつとはさすがに付き合いたくねえ。

 今日だって朝起きたら家の庭にいたんだぞ。気持ち悪い以外に感想がねえよ。

 爽やかな朝が台無しだ。いや、庭にいたのは爽やかな笑みではあったけれども。

「……ねえ」

 ふと、考えてしまったことを口にしてみる。

「あんた、あたしの部屋に入ってきたりしてないよね?」

「部屋?」

 須藤は不思議そうに首を傾げた。

 メガネに黒髪。『地味な優等生』という言葉を擬人化したような風体の彼は、こうしてみると普通なんだがなあ。

 『どうして彼がこんなことをしたのか、今でも分かりません』とか、近所のおばちゃんとかに言われそうだ。

「あはは、なに言ってるんだよ。布令さん」

 須藤は笑った。

 爽やかな笑顔だなあ。

「僕と布令さんは、いまさっき、偶然、たまたま、運命がそうなることを決めつけていたみたいに、同じように遅刻して、出会ったんじゃあないか」

「なるほど。そういう設定か」

 同じように遅刻してって。

 遅刻したあたしの後ろからずっとついてきているんだから、それは当然だろうが。

 運命がそうなることを決めつけたもなにもないだろう。

「運命って自分の手で切り開くものだと思うんだよね」

「うるせえ」

「ああ、いいなあ。急にキレるの。不良らしくて実に良い」

「お前、実はバカにしてるだろう」

「告白する程度には好きだよ。バカにできるはずがない」

「それでだ。話を戻すが、あたしの部屋には入ってきてないよな?」

「もちろん。僕はプライバシーは守るタイプだから」

「プライバシーを守るタイプはそもそもこんな質問されねえよ」

「あ、でも」

 と。須藤は足を止める。

 あたしは振り返る。なんだか否定をする時の批評家みたいな顔をしていた。

「さらしの下にブラをつけるのはどうかなと思うよ」

「覗いてんじゃあねえか!!」

 自分の胸を隠すように両手をクロスさせながらあたしは叫んだ。須藤は不機嫌そうだった。お前のフェチを満たすためにさらしを巻いているわけじゃあねえからな!?

 帰ったらカーテンを閉じておこう。あたしはそう心に決めた。

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