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『好きな人の背中は見たいものでしょう!』『隠れてコソコソしてる時点で犯罪なんだよ!』

 時代遅れとか、時代錯誤とかそういう言葉がある。

 『時代にあっているもの』という概念があって、それを先取りすると一気に人気者になり、逆に乗り遅れると、まあ不人気者とは言わないものの、人気者たちの輪に入ることはできない。

 流行を先取りって。

 あんたらは予知能力者かなにかか?

 そんなグチがでないわけではない。

 あたしは、流行に乗り遅れた側の人間であり、不人気者の人間である。

 太い眉。

 自分で染めた金色の髪。

 特攻服。

 一言でいってしまえば、一昔前のヤンキー?

 どうしてそんな格好をしてるんだ。とよく人に言われるが、そんな格好が好きなのだから仕方ない。きちんと、胸にはさらしを巻いているんだぞ。

 まあ、そんな『いかにも』で『分かりやすい格好』をしているものだから、あたしはよく校舎裏に呼ばれる。そこまで行くのはかなり面倒くさいが、逃げるのも格好悪いので、きちんと赴いて、きちんと蹴散らしている。あたしはケンカは全戦全勝なんだ。

 ある日のことだった。

 その日もあたしは、校舎裏に呼び出されていた。

 靴箱の中に、ご丁寧に封筒に入れられた手紙が入っていたのだ。

 このご時世、手紙というものをみること自体めっきり減ってしまっていて、まずそれが『手紙』だということを理解するのに、少しばかり時間を要したし、それが『果たし状』であることを理解するのにも少しばかり時間を要した。

 へえ、わざわざ手紙かあ。いいじゃん。そういう古臭いのあたし好きだよ。

 ニヤリと笑いながら果たし状の封筒を開ける。

 中に三回折られて入れられていた手紙には、弱そうな、しかし興奮した筆で『放課後、校舎裏に来てほしい』という旨が書かれていた。

 筆跡からして、多分男だろう。

 ご丁寧に名前まで書かれていた。

 須藤すとうくるま

 知らない名前だ。

 朝確認して、その日の放課後。あたしは言われた通りの時間に間に合うように、教室をでた。

 あたしが立ち上がった時、教室の空気が一瞬だけ固まったのを覚えている。

 ったく。

 一応あたしは、クラスメートに手を出すみたいな格好悪いことしたことないんだけど?

 勝手に恐がって。

 バカみたい。

「ねえねえ、いまさあ。古本の臭いしなかった?」

「えーどっちかって言うと古着じゃあない?」

「あー。分かるー」

 ただまあ、あたしが側を横切ろうとするとそんなことをわざと聞こえるように言ってくる奴らよりは数倍マシだ。

 あたしがクラスメートに手を出すのを格好悪いと思ってることをしっかりと理解しているらしい。

 無害ではあるけれど、面倒このうえない。

 一言でいえば、ウザい。

 古本の匂い。いい匂いじゃんか。

 



 そして、今はその手紙に指定されていた時間である。

 教室で自分の席に座っていたアタシは、イスを押しのけるようにしながら立ち上がる。

 周りのクラスメイトの体が一瞬、震えたのがよく見えた。

 アタシのことを恐がっていることがよく分かった。まあ、その反応が妥当だ。

 時間ピッタリに、校舎裏についた。

 そこには何十分もそこで待っていたのが、なんとなく想像できそうな男が立っていた。

 ひょろっとしていて、眼鏡をかけている。

 髪にワックスをつけている様子もない。髪色は正真正銘地毛の黒。

 あたしを呼びだすような奴には見えない。ケンカするような奴にも見えない。どちらかと言えば、カツアゲされている方か?

 でも、あの果たし状に書かれていた時間は間違えていないし、あの男がなにやらそわそわしているのをみるに、あいつで間違いないのだろう。

 あたしはため息をつく。

 こんな奴にさえ、ケンカを売られるぐらいになってしまったのかあたしは。

 それはあまりにも、弱く見積もりしすぎではないか?

 まったく。

 気が乗らないけれど、気乗りしないけれども。

 ここで去ってはいけないのが、あたしなのだ。


「おい」

 できるだけドスのきいた声で話しかける。

 眼鏡の肩がビクリと動いてアタシの方を見た。

 その表情にあたしは違和感を覚えた。

 なんと言えばいいのだろう。

 その表情にはアイドルを見ているようなものが含まれていた。

 ああ、なるほど。

 こいつはあたしに憧れを抱いているタイプか。

 あたしに憧れを抱いている奴というのは、意外とよく会う。たまに女の子に告白されたりすることもある。一体あたしにどんな幻想を抱いているのだろうか。

 意味が分からない。

 一体全体、あたしになにを求めているのだろうか。


「なんのよう? あんた、ケンカするようなタイプには見えないんだけど」

「それはそうだよ。僕はケンカをするためにここに来たわけではないんだから」

 眼鏡は言った。

 ケンカじゃあない?

 じゃあどうして校舎裏になんて呼びだしたんだ?

 すっと、眼鏡は手を伸ばしてきた。

 なんだ。左手で握手をしながら右手で殴り合うつもりか?

 そういうケンカなら、前にも一度やったことあるけど?

 しかし、やはりというかなんというか、眼鏡の顔には好戦的なものはうつりこんでいない。ただひたすら、にこやかな笑みが浮かんでいる。

 そして、頭を下げてきた。

 まるで、なにかをお願いするように。

 そして眼鏡は、そのお願いを口にした。

 その言葉は、あたし史上一度として聞いたことのない、縁のないものを割り切っていたものだった。


「好きです。付き合ってください!!」

「すまねえ、ムリだ!!」


 即座に断った。

 もはや反射的。言い終えたあとに、自分が断ったことに気づいたぐらいだ。

 メガネはあっけにとられている。

 それはあたしもおんなじだった。

 どう言い返したらいいのか分からなくて、咄嗟にあたしは校舎裏から逃げるように走った。


***


 朝からどんよりとした気分だ。

 いや、別に今日は曇りってわけじゃあない。晴れだ。快晴。

 じゃあどうしてどんよりとした気分なのかと言えば。

「…………っ!!」

 あたしは勢いよく首を動かして、背後の電柱の影をみる。

 そこには、本人は隠れているつもりなのだろう男がいた。

 須藤車。

 この前、あたしに告白してきた男だ。

 ……。

 いや。

 いやいや。

 どうしてそこで、ストーカーになってんの!?

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