……これって、あれですよね……
俺の時間の中では、二回目となる意識の覚醒を感じながら、先程のやり取りを考える。
あいつは、何故薄く笑っていたのだろう……
徐々に覚醒する意識の中で、身体の違和感を感じ、目を身体の方に向けた。
(……はぁ、なんじゃこりゃ……)
どこぞの探偵の最後のセリフを、頭の中で叫びながら、俺の身体を眺める。
黒々としたヒレを、水中でくねらせながら泳ぐ、何処でもいそうな、立派なオタマジャクシになっていた。
(……こういう事かよ……)
あいつが、薄く笑っていた理由が、何となくだが、読めた気がした。
確かにあいつは、転生はさせるとは言ったが、人間にとは言っていなかった。
(……これ、あれですよね……)
頭の中で思い描いたのは、弱肉強食の世界で死に物狂いに、生きる感じのテンプレ。
(……このままではヤバイ、絶対第一捕食者に、必ず遭遇する……)
そう思い、取り合えず身を隠せる様な所を、探しだす。
どうやら、ここは森の中の沼見たいなところだと、水面から見える周りの状況や、水面に浮かぶ落ち葉等で、確認した。
(……思ったより、俺の身体デカイなぁ……)
落ち葉の大きさ等で、大体の大きさが分かったが、どうやら俺は、普通のオタマジャクシよりは大きいみたいだ。
水底に、生えている水草の影にもどうやら入れそうにない。
(……どうするかなぁ……)
隠れ場所に困っていると、なにやら、先の方から、水中の揺らめきを感じて、身を構えた。
(……ヤバイよ、ヤバイよ……)
芸人みたいな事を、言っている場合じゃ無いのは分かってはいるのだが、焦ってばかりで、行動に移せない。
(……隠れなきゃ!)
そう思った時、周りから土が集まってきたと思ったら、俺の身体を包み込み、覆い被さり、土の中に入っていた。
(……おぉ、何とかなったのか?……)
上が、見えるだけの穴をかけていると、ホッと一息つく間もなく、水中の揺らぎが、大きくなったと思ったら、俺に似たようなオタマジャクシ達が、俺の上を一斉に過ぎ去る。
その後に、少しだけ遅れたのか一匹のオタマジャクシが、先を急ぐ様に泳いでいたが。
そのまた、後ろからきたヤゴみたいな虫が、平然と追い付き、オタマジャクシに襲いかかった。
(……マジかよ、グロいな……)
ヤゴは、オタマジャクシを食べ尽くすと、まだ腹が減っているのか、先程の集団目掛けて去っていく。
(……危なかったなぁ……)
危機を回避して、安心したのか、お腹が減ってきた。
取り合えず、何か食べ物食いたいなぁ等と、思ってはみたものの、何を食べられるか分からない。
このままでは、餓死してしまう。
かといって、すぐに動くのも怖い、先程の様に捕食者がいるかもしれない。
(……弱ったなぁ、どうするかなぁ……)
ここに居ても始まらないかと、土の中から、警戒しながら出てみる。
こんな姿だし、水草がある所へ行った方がいいかもと思い、水草の方へと進んでみた。
(……あれ?これ食べられるんじゃない……)
水草の方に行くと、凄く小さい小魚が、泳いでいる。
(……よし、食べてみよう!……)
意を決して、小魚の方へと近づいてみたはいいが、流石に直ぐには小魚を捕らえられない。
頑張ってみたが、離れて行くだけだ。
(……これ、ムリゲーじゃね……)
そんな事を考えながら、小一時間は、頑張ってみたが、無理だった。
そんな時、土の中からいきなり小魚に向かって、何かが、飛び出てくる。
俺と同じ姿をしている、オタマジャクシだった。
(……なるほど、あんな風に捕まえるのか……)
さっきは、夢中で隠れようとしていたので、無意識に出来たが、今度もできるだろうか……
やってみなきゃ、餓死するだけだと自分に言い聞かせて、土を動かす様に意識を集中させてみると、土がイメージ通りに動いた。
イメージに沿って動く土の中に隠れて、小魚を待つ。
すると、安心したのか、さっきまで散っていた小魚達が、寄ってきだした。
(……よし、いける!……)
近づいてきた小魚目掛けて、飛び出すと、拍子抜けするぐらい簡単に捕まえられた。
(……これで、なんとかなるか……)
ひと安心して、腹が減っていたので小魚を貪るように食った。
すると、なんだか、身体の奥の方から力がわいてくる様な感じがして、じっと待っていると、少し身体が大きくなった。