序章 パート2
「はい!ちゅーもく!
君たち8人をこれから異世界へ強制送還しまーす!
拒否権は無いので5秒で覚悟を決めてくださーい!」
掃除をしていた俺たちに妙なことを言い放った来客者に教室にいたクラスメイトは唖然としていた。
それもそうだ。
来客者は赤い頭巾を深く被っているので顔は隠れていて、手には竹でできた鞄?のような物を持っている。
背も低く、女の子みたいなので童話の赤ずきんちゃんにそっくりだったのだ。
それだけでも異常なのに、異世界に連れていくと宣言する非現実的な現状にクラスメイト全員頭の処理が追い付いていなかった。
こんな幼い子がなぜ学校にいるのか?
もしかしたら迷子なのか?
誰かの知り合いか?
身内がここにいるのか?
というか異世界ってなんだ?
などの疑問がクラスメイト達の頭を悩ませているものの、誰も行動に移すことは出来なかった。
相手が赤ずきんの格好をしているせいか、お節介焼きで有名の水無月さんまでどうすればいいのか悩んでいた。
っと、そこでクラスメイト全員の視線が全て俺に向けられた。
この現状で唯一慌てていない桂太に関係があると踏んだらしい。
というか、ウザ女子三人組は桂太に責任を押し付ける気満々だった。
しかし、そんな中でも桂太はもっと別のことで焦っていた。
赤ずきんの話はこの中で一番理解しようとしていなかったのだが、この中で一番混乱していたのは桂太だった。
(やべぇ、バイトに遅れる。)
3兄弟を長男にあたる桂太は、子供の面倒見がかなりいい方で、今まで弟と妹の世話をしてきたこともあり、普段なら嫌な顔ひとつもせず赤ずきんの世話を焼こうとしただろう。
しかし、今日この日はそんなことを放り出してでもバイトにいかなきゃいけなかった。
もうすぐ妹の誕生日、プレゼントとケーキを買ってやらねばといつもよりも多くのバイトをこなしていた。
そんなとき、時給3000円の短期バイトを見つけたのだ。
しかも、仕事内容によっては色をつけてくれるという素晴らしい仕事だ。
今日から一週間みっちりとバイトをすれば、妹のプレゼントを豪華にできるし、いつもギリギリの生活費にも潤いが持てる。
正直うさんくさい感じがするものの、金持ちの執事を短期で行うと言うもので、前金5万円貰ってしまっているので断るなどもっての他。
というか、前金だけで既にプレゼントとケーキを最高級のものにできるのだが…
とにかくこんなに美味しいバイトを逃す手は無いので早く行きたい。
しかし、赤ずきんに関わるととてつもなく時間を取られそうな予感がするので
「じゃ、あとは任せた」
いつの間にか身支度を終わらせていた桂太は廊下に身を踊らせた。
そして陸上部顔負けのスタートダッシュを決め、その場から全速力で離れる。
これで貧乏生活から準貧乏生活にランクアップ!
夢の外食だってできるかもしれないぜ!
これから貰えるバイト代に夢を膨らませ、教室で起きた出来事は既に頭の中から消え去っていた。
その時だった。
もう少しで階段に着くというときに、何か肌に突き刺さるような感触が首筋を襲われ、桂太は足を止めた。
いや、止めてしまった。
突如後ろから目も眩むような光がさっきまで自分のいた教室から溢れだし、ワンテンポ遅れて物凄い轟音が響き渡った。
まるで雷が教室に落ちたかのような現象に桂太はシバシ考え、ある決断をする。
「…よし、お仕事お仕事っと。」
「無視しようとしてんじゃないわよ!」
無視しようと踵を返した桂太に、いつの間にか近付いてきていた赤ずきんは縦長の筒のようなものを投げつけた。
桂太は咄嗟にキャッチしてしまったのだが、それを見た瞬間桂太は冷や汗を流しながら赤ずきんに問いかける。
「聞きたいことは山ほど残ってるんだけどな?
これだけは聞かせてくれ?
これって手榴弾じゃ無いで…
最後まで言い切ることはできなかった。
視界の全てを奪うまばゆい光と脳を揺さぶられるほどの轟音のせいで五感どころかバランス感覚も無くなり、立っていることすら危うくなった。
酔っぱらいの様に千鳥足でふらふらしていると、足元の床が無くなったかの様にどこかに落ちてしまった。
目も見えない中でもわかる。
廊下の空いていた窓から落ちてしまったらしい。
どこが上かもわからない中で、桂太は必死に手を伸ばした。
桂太、彼の心配停止を
………………確認