序章 パート1
話は少し遡る。
ここは『田島高校』教室
俺、南田 桂太は欠伸を噛み締めながら積み上がった机を1つ1つ定位置に戻していた。
先程まで学校祭を開催しており、今は後片付けをしているところなのだ。
ここの学校祭は過激が事が有名で、自重と言う言葉は辞書には載っていない。
今年は体育館全てを使ってお化け屋敷を開催していた。
内容も無駄に凝っていて、中から悲鳴が途絶えることは無く、あまりの怖さに気絶者が後をたたなかったらしい。
他には、コスプレ喫茶や水着女子コンテストなどの「アニメではよくあるけど実際にはやらないよね?」というものばかりで、それらを一目見ようと毎年かなりの外部者が来る。
自分達のクラスはごく一般的なカルメヤキ屋(お祭りの屋台か!)で、まずまずの売り上げを出した。
そして、今はクラスの中でハズレクジを引いた何人かで片付けているわけだが、学校祭の余韻が残っているのか皆どことなくそわそわとしていて一向に掃除が進まない。
責任感が強い生徒会長が注意しにいったのだが…ミイラ取りがミイラになってしまい、現在掃除をしているのは俺だけである。
楽しそうに話しているクラスメイトを注意する気にもなれずに一人で黙々と作業を続けていると、クラスメイトの一人が俺に声をかけてきた。
「おい桂太!掃除なんてバックレて飯でも食いにいこーぜ!」
こいつの名前は白井 卓人
内のクラスのイケメン男子で、俺の親友だ。
サッカー部のエースだったのだが、去年交通事故にあってしまい、サッカーが出来なくなってしまった。
しかし彼は諦めておらず、時々無理をしながら走り込んでいる姿が見える。
無理が更なる怪我に繋がらなければいいが…
ちなみに、この学校には『卓人ファンクラブ』なるものがあるらしい。
「すまん、これからバイトなんだ。」
「えー?マジかよ。
まぁ、しゃーねえな。」
卓人は頭をかきながら残念そうな顔をする。
そういえば、最近卓人とつるんでないな。
「へぇー、桂太はバイトでいけないのー」
「あははーマジ受けるんだけど?」
「バイト少年とか今時流行んないっての」
「「「きゃははははは!!!」」」
えーと、このウザ女子三人組は上から…
北島 美沙子
斎藤 ミカ
青島 鈴音
三人とも卓人に惚れていて、『卓人ファンクラブ』のトップ3である。
容姿はどこにでもいるようなモブみたいな感じ。
違いは…身長は小中大の階段だな。
こいつらは、卓人の親友である俺にことあるごとに罵倒してくる暇な奴等なのだ。
まぁ、理由は俺が卓人と親しいというだけでちょっかいを出しているのだろうが、突っかかる相手を間違えてるだろう。
「ちょっと!流石に言い過ぎよ!」
「南田君は家族のために頑張ってるんです!」
女子三人組から俺を助けてくれた二人は卓人の幼馴染み
橘 美咲
水無月 春菜
二人とも水着女子コンテストトップ3に入る美人さんだ。
橘さんは剣道をやってるスポーツ女子で、その凛とした立ち振舞いは、男子だけでなく女子にラブレターを貰うという王道を走っている。
腰まで伸びてる黒髪ポニーテールがトレードマークで、木刀を構えた姿は凛々しく、神々しさすら感じるほどだった。
彼女に好意を向けている奴らの気持ちがよくわかる。
最近では他クラスの人から告白されるようになったらしく、悩みの種が増えたことでため息が増えたとか。
しかし、そんな憂いを帯びた表情に心を撃ち抜かれる人が増え、告白されるという悪循環が出来ていることを彼女はまだ知らない。
水無月さんは一言で表すと、博識美人って感じかな?
誰にでも優しく、困っている人を見ると見逃せないという聖人的な性格から、誰からも好かれる責任感が強い生徒会長って感じで、先生方からも好かれている学校のアイドルという存在だ。
「美咲さんと春菜さんの言う通りだ。
桂太君がどんな事をしてても別に良いじゃないか。
大人の対応で我慢してあげよう。」
さりげなく馬鹿にしてきたこいつは弥生財閥の一人息子
弥生 光太
絵に書いたような我が儘お坊ちゃんで、ことあるごとに俺につっかかってくる嫌な奴だ。
悪口くらいなら別に良いのだが、家族に矛先を向けるのはやめてほしい。
鼻につく物言いと男と女の扱いが違いすぎることから男女共に評判が悪い。
「まぁ、馬鹿にされるのは仕方のない事だよね。
君みたいな泥にまみれながら過ごしている底辺の人間が、何故か僕らと同じ部屋で一緒に勉強できるなんてねぇ。
世の中どうかしてるよ。
いっそのこと僕のパパの力で退学させたいくらいだ。」
「おい光太!桂太は好きでバイトしてんじゃねえよ!
こいつの苦労を知らないくせに!」
「だからなんだと言うんだ?この世の中、普通の学生は両親の稼いだ金で学校に通うのが普通だろ?
ちょいと調べさせてもらったけど、桂太君の家は5人家族だったんだろ?父、母、弟、妹の5人家族だった。
6年前は生活も一般家族と変わりないもので、近所からの評判も良かった。
しかし、桂太君の父は莫大な借金を抱えていて、父は夜逃げ。
途方もない借金を返す手だてもない家族に手をさしのべた会社があり、借金を肩替わりしてやる代わりに、母を住み込みで仕事をすることが条件だったそうじゃないか。
良かったねぇ、母を犠牲に君たち三人は今まで通り過ごせるよ。
その会社の社長は母を寝取りに来た奴だとも知らずにねぇ。」
「何が言いたい?」
「父の罪を母親に押し付け、薄汚い面をぶら下げて我が物顔で学校に来ていることに耐えられないんだよ。」
光太は俺の制服の裾を、正確には裾にある穴を手に取り力一杯引っ張った。
それだけで裾にある穴は大きく広がり、見るも無惨な姿になる。
それじゃ物足りないらしく、乱暴に俺の髪を掴み強引に頭を下げさせる。
「君の家族事情なんてどうでもいい!
貧乏人は貧乏人らしく薄汚れたボロ布を着ろ!
中途半端に僕と同じ制服を着るな!
そして僕の靴を舐めろ!
わかったかこのクズ!」
やっと満足したのか、髪から手を離す光太。
時計を見ると、バイトの時間まであと少ししかない。
早く掃除を終わらせようと机を運ぼうとしたが、周りが険悪な雰囲気であることに気づく。
「おい光太、やり過ぎだ。」
「は?何が?」
「桂太に謝れ。」
「なぜ?僕はただ普通のことを言っただけですよ?」
卓人は怒りを隠そうともせず、光太に詰め寄る。
回りをみたら、橘さんと水無月さん、ウザ女子三人組が光太に批難の視線を送っている。
皆が敵対心に光太は肩をすくめる。
俺は誰に何を言われようが別に良いのだが、皆は怒り心頭のようだった。
どうしようかと悩んでいると、教室のドアが勢いよく開く。
「皆さーん!掃除は終わりましたかぁ?」
入ってきたのは先生だった。
先生が来たことにより、その場の空気が霧散して皆掃除を再開した。
はぁ、良かった。
そのまま掃除が進み、あともう少しで終わるとこにお客さんが現れた。
自然な様子で教卓に立った人物は教卓を両手で叩き、大きな音を出しながら意味わからん事を言い出した。
「はい!ちゅーもく!
君たち8人をこれから異世界へ強制送還しまーす!
拒否権は無いので5秒で覚悟を決めてくださーい!」