05.冒険の匂い
「わるおう?」
「悪王な。とりあえず行きながら話そう。どうやら居場所を感知されたな....中々やるな」
ケンはまた意味不明な事を言いながら、右手薬指からもう一つの指輪を外し、俺に渡した。
ケンの指にはたくさんの指輪が着いている。指に限らず首や耳にもネックレスやピアスがいくつかあって不良みたいだ。
学校で会う時は耳に跡も見当たらなかったんだけどね。
「気配が掴めなくなる指輪だ。それもはめとけよ」
青と緑の色が丸く中心へ混じりあった不思議な形をした指輪だった。
「....さっきから思ってたんだが、何なんだこれ?魔法の指輪?」
父さんの鞄を肩にかけ、指輪をはめた。
”姿が見えなくなる”、 ”気配がなくなる” 。これって、よく考えたら俺が存在しなくなるみたいだな。
「んーまぁそんなもんだな?行くぞ」
部屋から誘導され一階に降りた。
どうやらここは二階建ての、古びた木造建築の家みたいだ。
近所かな....こんな所近所にあったっけ。
受け付け付近で「少し待ってろ」とケンに言われ、ただ突っ立ってるのもしんどいし壁にもたれて待っていた。
その時だった。
受け付けにいるケンの横、入り口から黒い人影のようなものが扉をすり抜けて入ってきたのは。
「なっ⁉︎何だあれ⁈」
咄嗟に声が出た。斜め前ら辺のおばちゃんが後ろを振り返った。
不気味な黒い物体は、ユラユラと不規則に揺れ動いている。
ケンはお金を払い終わると、走って俺の所に戻ってきた。
「こ・え・を 出すな!」
小声でケンに耳打ちされた。
「でもケン、あそこに変な....うわっ」
ケンはそう言うと俺の腕を掴み、黒い物体の横を早足で通り過ぎた。
「....!」
近くで見ると、ふつふつと黒泡のようなものも出ている。横を通る時、オーラというかなんというか気味の悪い感じがした。
入り口を出ると、周りは草木が生い茂っていた林の中のようだった。
「ど、どこだここ....え⁉︎」
後ろを振り返ると、さっき居た場所は跡形もなくなっていた。
消え、た?....
「魁斗、指輪を外せ」
「え、いいのか。これ外して」
「ああ。所詮それはただの偽物だからな」
それってつけてる意味ねーんじゃ....
「もちろん役にはたつぞ。必要な時は付けていた方がいい。指に”付けてから”じゃないと効果はないからな」
ケンは言い直したように指輪の説明をした。やっぱり魔法の指輪なのかこれ。
林の中を暫く歩いた。
野生動物っぽい声や鳥が飛んでたりするのを見ると心が落ち着く。
気持ちがいい。今までの事、忘れたい事全部忘れられそう。
ケンが前を歩いて少し離れて俺が歩いた。
暫くしてケンはゆっくり口を開いた。
「魁斗、そろそろ落ち着いたか....さっきの続きから話すな。
”反・王族集団”ってのは王族になれなかった者、神に選ばれずして王族になろうとした連中の事なんだ」
ケンは続ける。
「当時世界中が大混乱に陥っていた時代。
その居心地の良さに、そこへ居つこうとした悪王は本当の王によってその場を引きずり堕ろされた。そいつは今でも王を憎んでいる。
悪王の血を引く子孫達は、王の血を引く子孫達を皆殺しにしようと何千年にも渡って争いが繰り返されている。
だから王の血を引くお前は...お前達は狙われているんだ」
響く野生動物の鳴き声。木々を揺さぶる鳥達の群れ。
心地良かったはずなのに何故か心は沈んでいった。
林を抜けたこの先にある”未来”。
それはまだ未熟な少年の、冒険の始まりなのでした