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マホロバ堂書店でございます  作者: 木下秋
夏目、書店員になる
9/33

二日目…‼︎ ①

「うん、レジは大丈夫そうね」



 おれの横で、延原さんがいった。


 出勤二日目。今日は祝日ということで、新刊が入ってこなかった。そのため、昨日のような慌ただしさは全くなく、またメンバーも延原さん、小川さん、おれという、三人しかいない。

 聞くと、今日のような日曜・祭日は、延原さんが開店準備を任されているらしい。九時四十分におれが来たときには準備は全て終わっていたらしく、バックヤードに入ると小川さんと二人でコーヒーを飲みながら、談笑していた。

 例によって開店と同時に常連さんがやってきて(そのうちの何人かは、昨日見た顔だった)、挨拶を交わす。おれはまず昨日の復習ということでまたもやモップを握り、店内を見てまわった。

 延原さんは空気の入れ替えのためなのか、自動ドアをオフにして開け放ち、外に面する壁の上部の窓を、シャッター棒を使って開けていた。

 今日も、くすみ一つない透明な空だった。本棚を背景バックに、窓から射し込む光を受けたエプロン姿の延原さんは、それだけで絵になっていた。少し、見惚れてしまう。


 その後おれは、彼女と一緒にレジカウンターに立った。レジの操作はやはりコンビニでの経験が活かされているのか、造作ない。



「じゃあ次は、こっち側立ってみようか」



 こっち側というのは、本を袋に入れたり、カバーをかけたりする方のことだ。



「袋は七種類。S、M、L。そして、マチ付きのS、M、L。『マチ』っていうのは、『厚み』のことよ。ぶ厚いコミック雑誌とか、本を複数冊買われる時なんかに使うの。あとは、それ以上のサイズね。今の時期だとカレンダーを入れる時に使うわ」



 延原さんはそれがどこにあるのかを指で示しながら、説明する。



「次はカバー。一番小さいのから、文庫サイズ」



 見ると、上下、右端が折られた紙のカバーが、積まれていた。



「次が新書サイズ。少年・少女誌のコミックを入れるときにも使うわ。青年誌サイズ。ヤングジャンプだとか、ああいったサイズのコミックを入れる時に使う。大判サイズ。それ以上」



 『それ以上』といわれ、示されたものは、カバーというよりも『ただの紙』に近かった。下の部分だけが、少しだけ折られている。

 彼女は近くにあった文芸本を一冊、また『それ以上』の紙を一枚とって、本にカバーをかけはじめた。



「下だけ折ってあるのは、どんなサイズの本にも対応できるようになの。その本のサイズに合わせて上を折って、左右が均等になるように右端を折って……本の表紙を差し込む。左端も本に合わせて折って……裏表紙を差し込む」



 慣れた手つきでテキパキと、本とカバーを動かして、ピシッ、ピシッと紙を折る。

 出来上がったそれは、まるで本にカバーがピッタリと吸い付いているかのような、歪みのないものだった。



「チエリ」



 延原さんが呼びかけた。すると、小川さんがコミック棚から顔を出す。



「なーに?」



「私、カレンダー注文したいの。もうすぐあそこも休みはいっちゃうから……」



 「袋とカバーについてはザッと教えたから。細かいところよろしく」。「おっけー!」。そんな会話ののち、小川さんがレジカウンターにやってきた。



「……チエリ、っていうんですね。名前」



「うん、そーだよ。数字の『千』に、映画の『映』。あと郷里きょうりの『里』。それで『千映里』」



 彼女は空中に指で名前を書きながら、いった。



「そういえば夏目くん、シフト表で名前見たんだけどさ。あの彗星みたいな字、なんて読むの?」



 うん、慣れてる質問だ。



「あれは『ケイ』って読むんです。夏目慧ナツメケイ



「おー!」



 小川さんは表情が豊かだ。笑う時はいっぱいに笑うし、驚く時は口をOオーにする。

 照れる時は、わかりやすく照れる。



「いい名前だねぇ!」



 名前を褒められるのは、素直にうれしい。



「なんだか、キラキラしてて!」



 ……。



 それって……。


 表情を読んだのか、彼女は急に慌てだす。



「あっ! ちがうんだよぉ! 『キラキラしてる』ってのはそういう意味じゃなくって……彗星の『彗』の字に似てるから、なんだかお星さま的なイメージで……」



 小川さんがわかりやすくアワアワするので、おれはつい、笑った。

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