本屋のお仕事 ④
彼女に促されて、シャッターを開ける。勢い良く開けると音がうるさいから、『シャッター棒』と呼ばれる先端に鉤のついた棒で開けるように指示された。ここが団地の一階部分だからこその、配慮なんだろう。
驚いたことに、外ではお客さんが開店を待っていた。おばあさんが三人、おじいさんが二人。常連さんなのだろうか、みんなが延原さんに「おはよう」と挨拶をしてから店内に入って行く。おれはここで、はじめて彼女の穏やかな営業スマイルを見ることとなった。
外には、週刊誌、テレビ雑誌などの入ったラックを出した。なるほど、店内のスペースには限りがあるし、これには『客寄せパンダ』的な効果もありそうだ。
店内に戻ると、延原さんの講義がはじまった。
「まず、本にはいくつか種類があるの」
おれはボールペンとメモ帳を取り出して、話を聞く姿勢をとる。
落ち着いた声で、彼女は続けた。
「大きく分けて、『書籍』と『雑誌』」
彼女は、近くの本を手に取った。
「こっちは書籍。こっちは雑誌。書籍には一冊一冊にISBNコードっていう識別番号がついてる。雑誌には雑誌コード。その下にあるのは返品期限っていう意味の、リミットのLと日付。裏表紙を見ればわかるわ。……ほら、ここ」
見ると、書籍には十何桁かの番号がつらつら並んでいて、雑誌には七つの番号がついている。
……というか、雑誌には『雑誌』とご丁寧に書かれているので、見分けるのは簡単そうだ。
「次は……『文庫』。これはわかるわね」
店内を少し歩きながら、説明は続く。彼女は文庫コーナーを歩きながら、一冊を手に取った。夏目漱石『坊ちゃん』。……これは……彼女なりのユーモアか……?
「これには、ISBNコードがついてる。だから分類でいうと、書籍ね。でも、夜入ったら『返品』って作業をするんだけど、その時には『文庫』、『書籍』、『雑誌』っていう三種類に分けて、返品票を書かなきゃいけない」
「混ざっちゃいけないの」。強い眼差しをおれに向けながら、いった。
例えは悪いけど、ゴミの分別みたいなものか……? 『燃える』、『燃えない』、『資源』……。
もちろん、口にはしなかった。
歩きながらも、彼女の説明は続く。
「あとは……これ。『ムック』。ムック本、なんて言うわ。これは『Magazine』のMと『Book』のookを掛け合わせた造語なの。ハーフ、ってとこかな」
近くにあった適当な本を取り、説明した。ちなみにその本とは、『THE 仮面ライダー EX Vol.2』。最近テレビのCMなんかでよく見るようになった赤い仮面ライダーが、表紙でポーズをキメている。
「ここ、見て」
「……あっ、これって……」
見ると、なんたらコードも雑誌コードも、両方ついていた。
「見分け方は……週刊誌や月刊誌と違って定期的に決まった時期に出るわけじゃないから、ムック本にはこの……『Vol.』って通し番号が付いてることが多いわ」
本を棚に戻すと、彼女は再び歩き始めた。
「これが『新書』。文庫より、少し大きいでしょう。……『コミック』。コミックには雑誌のものと書籍のものとがあるから気を付けて」
「本の形態についてはそんなとこかしら……」店を大体一周して、レジカウンターのところへと戻ってきた。……うん。今のところは、ちゃんとついていけている。
「じゃあ次は、ジャンルについて。ザッと説明するわ」
……二回戦突入か。




