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マホロバ堂書店でございます  作者: 木下秋
揺れ動く、面々と日々
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マホロバ堂書店の一日

 東京都心から電車で約四十分の場所にあるベッドタウン、晴種はれたね町。その駅前に連なる集合団地の一階部分に、マホロバ堂書店は店を構えていた。


 築五十年になる団地はあちこちにガタがきていて、マホロバ堂書店の店内にもその様子は現れていた。壁には稲妻のようなひび割れが幾つか走っており、床は奥に行くに連れて下るように、傾いている。

 日々ここで働く面々や常連達にとっては慣れっこだったが、始めて来る客であれば皆、奥に向かって歩けば違和感――もとい、危険を感じること間違いない。『……次に大きな地震でも起きようものなら、ここはひとたまりもないだろう……』と。

 そんな、見るからに古臭く、寂れたシャッター商店街の中にポツンとあるマホロバ堂書店であるが、こう見えて実は、店の業績は悪くなかった。

 ローリスク・ローリターンな書店業界において――紙媒体の書籍の未来が危ぶまれる現代にあって――ここ十年で近辺では四軒もの書店が潰れてしまっているというのにである。マホロバ堂書店はこの町のラスト・書店として、生き残っていた。その理由としては、幾つかが挙げられる。

 まず、築五十年の団地の中にあるということ。これがなにより大きかった。団地に住む住民達は、本を買おうと思ったならばマホロバにやってくる。住民達は皆、昔からこの団地に住んでいるという者が多く、高齢者が多い。よって、『わからないことがあればググる』という最近の若者的考えではなく、『わからないことがあれば本を買う』という先人的考えを信じる者が、まだ多く居るのだ。文庫本も時代小説を中心に、多く売れる。相続、遺書の書き方ハウ・トゥー本も売れるので、コーナーを作って販売している。書店員達にとっては、嬉しいやら悲しいやらだが――。

 コンビニには置かないような、マニアックなアダルト本も多く置いている。これは実は、最近の書店には珍しい。さらに、ある一人の書店員の強い働きかけによって、アメコミコーナーなんかも作られている。

 店頭にはメジャーなものからマイナーなものまで、狭い店内を工夫して書籍が詰め込まれ、更には個別の本の注文も受けており、客一人一人に丁寧に対応する書店員達の態度が、周辺住民達にはウケていた。目の前にバスターミナルがあり、そこでバスを待つ人が暇つぶしに寄ったりもするので、その恩恵も受けている。こうして――地域密着型の本屋――マホロバ堂書店は、今日まで生き残り、営業しているのである。

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