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マホロバ堂書店でございます  作者: 木下秋
夏目、書店員になる
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19/33

部屋とゆたんぽとチエリ②

 先月の二十五日、クリスマスの夜。おれは小川さんの部屋で行われた、ささやかなクリスマスパーティーに参加していた。参加者は、延原さんと小川さんと、おれの三人だけ。ただご飯を食べ、飲み、音楽を聴いて、話した。それだけの――でもたのしい、夜だった。



 こんなやりとりがあった。



 お酒を飲み、小川さんのベッドに突っ伏した延原さんが静かになって、おれが小川さんと二人で話していた時のことだ。



「小川さん。コレ、なんですか?」



 おれが指したのは、ベッドに立てかけてあったモノ。大学ノートくらいの大きさがあって、ニット素材のカバーで包まれている。上部には『栓』があり、風邪を引いた時に使う『水枕』のように見えた。



「あぁ、それね」



 梅酒をロックで呑んでいた彼女はコップをテーブルに置くと、手をのばしてそれを取った。


 目の前を過ぎる時、タプンという音がした。



「これ、ゆたんぽ」



 そういうと、彼女はそれを揺らした。チャポチャポと、水が揺れる音がする。


 イメージしていたゆたんぽと、だいぶ違った。おれの中でゆたんぽといえば、銀色の金属製で、楕円形で。



「このゆたんぽはね。シリコン製なの」



 ――たぽたぽ。



「ほらね」



 彼女はそのゆたんぽのお腹を、ぽんぽんと押す。なんとも、柔らかそうだ。



「電気ケトルを買ったの。今年」



 彼女が指差す先には、代名詞的某ブランドの電気ケトルがあった。



「これが意外とベンリでねぇ〜。紅茶とかコーヒー飲む時にも使えるしね。白湯《さゆ》も身体にいいんだよ。朝とか夜とかに飲むとね。わたし、冷え性なの」



 そういって、両手を目の前でこすり合わせる。



「このゆたんぽちゃんもね。役に立ってくれてる」



 ――たぽたぽ



「ストーブつけたら石油もったいないしさぁ。暖房つけたら電気代もったいないし……。でもゆたんぽだったら水じゃん⁉︎」



 赤ら顔でいう。意外と堅実家なのか。



「……それにね」



 顔を伏せ、ゆたんぽのお腹を撫でる。



「なんかさ。夜寝る時にね。電気を消して、『さぁ、寝るぞっ!』って時。急になんか、さみしくなる時、ない?」



「さみしい?」



 ……まぁ確かに。彼女いない歴=年齢であるおれであるから、まぁそうゆうのにあこがれたりなんかして、人肌恋しくなったり……はないといったら、ウソになるか……。



「……まぁ、わかります」



「でしょお?」



 小川さんは続けた。「わたしも前から感じてたんだけどね。ある日、ゆたんぽにお湯入れてさ。寝る前に、ギュウッ、って、抱きしめてみたのよ。なんとなく。そしたらね……」



 彼女は実際に、ゆたんぽを抱きしめてみせた。



「……そしたら、なんか、その『さみしさ』みたいなものがね。ちょっとやわらいだのよ」



 「なんか、安心して寝れたの」そういうと、梅酒をちびりと呑んだ。



「……たぶん、思うにね。頭の中のどこかが、錯覚するんだと思うの」



 小川さんはなんでか必死な様子で、うまく言葉にできないなりにニュアンスを伝えようと、目を瞑り、手を空中に泳がせた。



「こう……なんてーかなー。温度のあるものをね。抱きしめてる、ってことでね……満たされるの。勘違いするのよ。でも、それでホッとするの」



 あまりに滑稽な姿に、おれはわらった。彼女も、愉快そうにわらった。



「オススメだよ。ゆたんぽ」



 そういう彼女に、おれは思い切っていった。



「小川さんて、さみしがりやなんですね」



 彼女はフフンとわらうと、またちびりとやる。



「ヒトは、みんなさみしがりやだよ」



 「キミも」ピッ、とおれを指す。



「アイちゃんもね」



 彼女は、延原さんを指さした。



「延原さんも、ですか?」



 おれはいう。彼女はそうは見えない。一人でも――独りでも、生きていけそうな人なのに。



「わかってないなぁ〜!」



 小川さんは含み笑いをする。彼女にしか、わからないことがあるのだろう。



「いつか、わかるかもね」



 そういうと、彼女はまたちびりと呑んだ。



「……アイちゃんには、ナイショだからね」



 彼女は人差し指を口の前に持っていって、最後に小さく、そういった。

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