部屋とゆたんぽとチエリ②
先月の二十五日、クリスマスの夜。おれは小川さんの部屋で行われた、ささやかなクリスマスパーティーに参加していた。参加者は、延原さんと小川さんと、おれの三人だけ。ただご飯を食べ、飲み、音楽を聴いて、話した。それだけの――でもたのしい、夜だった。
こんなやりとりがあった。
お酒を飲み、小川さんのベッドに突っ伏した延原さんが静かになって、おれが小川さんと二人で話していた時のことだ。
「小川さん。コレ、なんですか?」
おれが指したのは、ベッドに立てかけてあったモノ。大学ノートくらいの大きさがあって、ニット素材のカバーで包まれている。上部には『栓』があり、風邪を引いた時に使う『水枕』のように見えた。
「あぁ、それね」
梅酒をロックで呑んでいた彼女はコップをテーブルに置くと、手をのばしてそれを取った。
目の前を過ぎる時、タプンという音がした。
「これ、ゆたんぽ」
そういうと、彼女はそれを揺らした。チャポチャポと、水が揺れる音がする。
イメージしていたゆたんぽと、だいぶ違った。おれの中でゆたんぽといえば、銀色の金属製で、楕円形で。
「このゆたんぽはね。シリコン製なの」
――たぽたぽ。
「ほらね」
彼女はそのゆたんぽのお腹を、ぽんぽんと押す。なんとも、柔らかそうだ。
「電気ケトルを買ったの。今年」
彼女が指差す先には、代名詞的某ブランドの電気ケトルがあった。
「これが意外とベンリでねぇ〜。紅茶とかコーヒー飲む時にも使えるしね。白湯も身体にいいんだよ。朝とか夜とかに飲むとね。わたし、冷え性なの」
そういって、両手を目の前でこすり合わせる。
「このゆたんぽちゃんもね。役に立ってくれてる」
――たぽたぽ
「ストーブつけたら石油もったいないしさぁ。暖房つけたら電気代もったいないし……。でもゆたんぽだったら水じゃん⁉︎」
赤ら顔でいう。意外と堅実家なのか。
「……それにね」
顔を伏せ、ゆたんぽのお腹を撫でる。
「なんかさ。夜寝る時にね。電気を消して、『さぁ、寝るぞっ!』って時。急になんか、さみしくなる時、ない?」
「さみしい?」
……まぁ確かに。彼女いない歴=年齢であるおれであるから、まぁそうゆうのにあこがれたりなんかして、人肌恋しくなったり……はないといったら、ウソになるか……。
「……まぁ、わかります」
「でしょお?」
小川さんは続けた。「わたしも前から感じてたんだけどね。ある日、ゆたんぽにお湯入れてさ。寝る前に、ギュウッ、って、抱きしめてみたのよ。なんとなく。そしたらね……」
彼女は実際に、ゆたんぽを抱きしめてみせた。
「……そしたら、なんか、その『さみしさ』みたいなものがね。ちょっとやわらいだのよ」
「なんか、安心して寝れたの」そういうと、梅酒をちびりと呑んだ。
「……たぶん、思うにね。頭の中のどこかが、錯覚するんだと思うの」
小川さんはなんでか必死な様子で、うまく言葉にできないなりにニュアンスを伝えようと、目を瞑り、手を空中に泳がせた。
「こう……なんてーかなー。温度のあるものをね。抱きしめてる、ってことでね……満たされるの。勘違いするのよ。でも、それでホッとするの」
あまりに滑稽な姿に、おれはわらった。彼女も、愉快そうにわらった。
「オススメだよ。ゆたんぽ」
そういう彼女に、おれは思い切っていった。
「小川さんて、さみしがりやなんですね」
彼女はフフンとわらうと、またちびりとやる。
「ヒトは、みんなさみしがりやだよ」
「キミも」ピッ、とおれを指す。
「アイちゃんもね」
彼女は、延原さんを指さした。
「延原さんも、ですか?」
おれはいう。彼女はそうは見えない。一人でも――独りでも、生きていけそうな人なのに。
「わかってないなぁ〜!」
小川さんは含み笑いをする。彼女にしか、わからないことがあるのだろう。
「いつか、わかるかもね」
そういうと、彼女はまたちびりと呑んだ。
「……アイちゃんには、ナイショだからね」
彼女は人差し指を口の前に持っていって、最後に小さく、そういった。




