~ ヒトメボレ ~
書かないと”眠たい病”をといてやらない・・・と脅されたんです。
脳内で自己主張をして、ほかのことを考えさせてくれないんです。
これできっと、別のお話が書けるはず。
ジャンル的にはコメディーの一種だとは思うのですが。
タイトルがタイトルですし。
艶やかな髪は、彼女が歩くたびにサラサラと揺れて。
少し大きめな口元に、笑うたびにできる”えくぼ”がとってもチャーミングで。
彼女を思い出すたび、思い浮かぶのはニコニコと笑っている姿。
自然なボリュームの睫毛に、大きくぱっちりとした二重の瞳。
白く透き通るような肌はまるでスッピンのようで。
”化粧している”とわかるのは、ピンクベージュの口紅とブラウンのアイシャドーくらい。
顔が小さめで、手足は長くバランスがいいからなのか、実際よりも背が高く見える。
声自体はアルトだけど、少し舌足らずなのか、甘く、幼く響く。
お仕事はテキパキと、いつも一生懸命で。
先輩の話しをよく聞き、わからないことは質問し、出来ないことを減らしていく努力。
真面目だけどマイペースで、人より少し遅れてしまった時の困った笑顔。
あぁ、本当に可愛らしい人。
ずっと彼女を見つめて来た。
彼女が初めて、この店にバイトに来た時から、ずっと。
一目見て好きになった。
彼女のことを沢山知り、余計気持ちはつのった。
でも、彼女にはパートナーがいる。
とても長い付き合いらしい。
余程のことがない限り、そのパートナーと別れる気はない・・・らしい。
それでも嫌いになれない。
ずっとずっと好きだ。
きっと、いつまでたっても好きなままだ。
彼女の傍に近づくことは出来ない。
彼女に声をかけることもことも出来ない。
だから、遠くから彼女を見つめて過ごした。
時々彼女から近づいてきて、彼女がそばを通るたびドキドキしていた。
彼女の声が聞こえないと寂しくって。
彼女の姿すら見えないと、悲しくって。
もう、彼女がここに来ないかもしれない。
・・・なんて、想像するたび絶望に打ちひしがれた。
多くを望むことは許されない立場だった。
彼女を見つめられるだけで、幸せだった。
ある日、この店でチーフと呼ばれる人と、彼女がそばにやってきた。
そして、チーフと呼ばれる人が彼女に言った。
「カンザキ。ちょっと”コレ”に、”コイツ”と寝てみてくれないか?」と。
「・・・これは何かの実験ですか?」っと、彼女は答えた。
この店は寝具を取り扱う店だ。
チーフと呼ばれる人が”コレ”と指差したのはベッドだった。
この店だけが取り扱っている特殊なマットレスを使用したベッド。
「そうだ。だからなるべく、多くの人から意見が欲しくってな。」
「別に、いいですけど・・・。」
頭が真っ白になっているうちに。
冒頭の会話の意味を理解しようとしてた間に。
チーフと呼ばれる人と彼女との話し合いは、いつの間にか終わっていた。
彼女と密着するチャンスを得たこと。
彼女と添い寝できるということ。
見ているだけで幸せになれた彼女に、触れられる。
これはかなり幸運なことだ。
今まで以上にドキドキした。
はてしなく、興奮した。
「じゃあ、頼む。率直な意見をくれ。」
「わかりました。」
そういって、彼女はベットに横たわった。
ゆっくりと近づいてくる彼女。
だから、彼女の頭を優しく抱きとめた。
かすかなシトラスの匂いがした。
彼女の綺麗な髪が。
ずっしりと重い形のいい頭が。
彼女の存在をはっきりと意識させた。
あぁ、想像以上に幸せだ。
これまでにないほどの充実感を感じた。
「どんな感じだ?」
「・・・まずいです。とっても寝心地がいいです。」
チーフと呼ばれる人の短い問いに、彼女が答えた。
「何よりもコレ。・・・癖になります。もうこの子じゃないと寝れないかもしれません。」
そして、彼女は興奮気味に僕を抱きしめた。
ぇ?
でも、彼女にはすでにパートナーがいるって。
「そう言ってもらえるのは嬉しいが・・・。”枕”の意見サンプル、もういらねんだけど。」
「この子、私買いたいです。」
さらに興奮気味の彼女は僕を抱きしめる。
「まぁ、社員割引で買えるようにしとくから、取りあえず落ち着け。」
「ほんとですか。ありがとうございます。」
その日、僕は彼女に買われていった。
それからは僕がずっと彼女のパートナーとなった。
恋愛話なんて書けないと思ってました。
といいますか、これ本当にこのジャンルにして良かったのか悩んでます。
枕にこんな意思とかあったらめっさ怖いですね。
一人称を”僕”にするか”俺”にするか悩んでいたので、
最後の最後まで一人称は出しませんでした。
馬鹿なお話を読んでいただき、ありがとうございました。
もしよろしかったら、リアクションをください。
また、前書きにも書きましたが、別のお話を書いてます。
興味がありましたら、よろしくお願いします。