きみの名前
エルがエルフだという事実に驚きつつも妙に納得する面々。
もはや彼らの食事の手は完全に止まっていた。
「……とりあえず、自己紹介を。私はエル。この通りエルフで、どうやら異世界からやってきたらしい。残念ながらどうしてこうなったのかさっぱりわからないんだけど」
エルが名乗ると、それにならい次々に自己紹介が始まった。
「はじめまして、エル。わたしはマリア。マリア・キーツよ。弓使いね。このリックと一緒に冒険者しているの。ほかの三人もね」
マリアと名乗ったのは茶髪の美女。続いて名乗り出たのは金髪の青年。
「僕はフランデル・クルックス。フランって呼んで。魔術師やってます」
「俺はバージル・ウェインだ。剣士だ。はじめまして、エル」
ウインクしながら自己紹介したのは鳶色の髪をした壮年の男。そして最後にリック。
「俺は、さっきも言ったけどリックな。リック・ブラン。俺も剣士、といっても大剣振り回すバージルとは違って細い長剣」
* * *
「なるほど、君たちは一緒にパーティを組んで冒険をしているわけか」
「そういうこと。そしてここが俺らの拠点。美味い飯!」
互いの自己紹介諸々でリックたちは四人で冒険をしていることをエルに話した。
どうやらこの世界には「冒険者ギルド」というものがあり、彼らはそこに登録して行動しているという。
また、それぞれ剣士や弓使いといった職業があり、フランデルのような魔術師もいる。この世界ではエルフはおとぎ話のような存在であるわけで、同様に魔法も空想のものなのかと思っていたエルは魔術師に興味を持った。
「フランデル、君は魔術師なんだろう?魔法が使えるの?」
「そりゃあもちろん、魔術師だからね。……ほら」
そう言うとフランデルは指先に小さな炎を灯してみせた。赤い炎が揺らめく。
「もしかしてエルの世界には魔術なかったの?エルフって魔力強いイメージあるけど」
「あるよ。私も魔法、魔術は得意だ。最もあんまり使わないんだけど」
エルはエルフだけあって強大な魔力を有している。しかし「魔法」ではなく治癒・浄化や緑を操るといったエルフ特有の能力の方がよく使う。
「そうなの?戦ったりしなかったんだ」
「そんなに戦う場面はなかったけどな…。争いごとはあまり好まない種族なんだよ私たちは。それに私は基本的にずっと森に一人ですんでいたから」
エルの住む白い森は全てがエルの支配下にあり、彼の許可無くしては誰も勝手に入ることのできない森だった。白い森のあるフィオールの街も戦争なんて関係のない平和な街で、街の近辺に凶暴な生物が棲んでいる、ということもまるでなかったのだ。
「へえ、この街も戦争なんてものはないがちょっと郊外に出ると凶暴な魔物がうじゃうじゃでるからなあ」
バージルがしみじみと言う。
「よかったな、お前が現れたのが草原とかじゃなくて街の中で。危うく食い殺されるとこだぜ」
楽しそうにリックが笑うが、エルもそう簡単に魔物に食い殺される程度のエルフではない。とりあえず反論は忘れなかった。
「そう簡単に食い殺される気はないよ。魔法使えるし。弓も使える」
「弓!貴方も弓使いなの?」
弓と聞いてマリアが食いつくが、そう、エルは弓使いでもある。エルフと言えば弓である。
といっても彼の弓はちょっと変わっているのだが。
「ところで、そのギルドとやらを紹介してくれないかな?この世界で生きていくには資金がいるし、とりあえず冒険者登録でもしようと思うんだけど」
エルは異世界の人間、いやエルフでありこの世界ではなにもない。食い扶持を稼がないといけないと気づいたのである。働くにもこの世界の常識を知らなければ仕事にならないし、彼はエルフだ。伝説の存在が客商売は無理だろう。大騒ぎになりそうだ。だったら彼らのように冒険者として魔物と戦うなりして稼ぐのが手っ取り早いと考えたのだ。幸いエルは強大な魔力を持っている。弓も使える。この世界の魔物がどんなものかわからないがまあ大丈夫だろう。ただ異世界人に冒険者登録ができるのかやや不安があったのだが、
「ああ、異世界人でも登録できるぜ。結構いるんじゃないか?異世界人」
この世界は異世界人がたまにやってきたりする世界だった。ゆえに異世界人の冒険者も少なからずいるらしい。
「それじゃあ明日ギルドに行こうか。俺たちも丁度用事あるんだ」