エルフ
エルとリックが宿屋の1階、食堂に来たときには既にさきほどの三人が揃っていた。三人---金髪の青年と茶髪の美女、鳶色の髪の壮年の男性は一斉にエルに視線を向けた。
「待ってたわ。もう食べ始めちゃってるけどごめんなさいね」
「お先です」
「リックたちも早く座って、今日も美味いぞ」
エルは席に着いたリックにならって隣に座り食事をとりはじめた。
(食事は私の世界とそんなに変わらないんだな……)
恐る恐る口に運んだ料理は、人参やじゃがいものような野菜を煮込んだあたたかいスープだった。
エルの住む白い森があるフィオールの街にもこれとよく似た料理がある。見た感じそっくりそのままである。
「……美味しい」
「だろ?この宿屋飯がすっげえ美味くて俺たち離れられねえんだよ」
「本当胃袋がっちり掴まれちゃったよねえ。宿代ちょっと高いけど僕はもうよそのご飯食べたくないよ」
一同は宿屋の料理がいかに美味しいか、それはそれは熱心に語り食堂はなごやかな空気に包まれる。
このところ謎の体調不良のせいで食欲がなかったエルだがこの世界にやってきて一度倒れて目が覚めてから、つまりさきほどからは頭痛も眩暈もなくすっきりしていた。
心置きなく美味しい料理に舌鼓を打っていると、リックが思い出したようにエルに顔を向けた。
「おっとそうだったなんかすげえなごやかな雰囲気だったけど途中だったな、エル。フードのことだけどよ」
「ん?ああフードとった方がよかったね。失礼だった」
リックはややためらいがちに切り出したが、エルはリックの言葉にあっさりとフードに手をかける。すると、リックは急に慌て出す。
「え、いいのか?そんなあっさり…。そんなに深くかぶってるのに?」
「別になにも問題ないけど…?」
エルがフードを外した。
パールの髪が光に反射して微かにグリーンがかって見える。淡いブルーグレーの瞳で一同を見渡すと、彼らは一様に驚きの表情を浮かべていた。
「……綺麗」
「……えっと…?」
茶髪の女が一言つぶやいてのち、誰も一言も発しない。とりあえずエルはリックに顔を向けてみた。フィオールの街でも他の街でも、エルの容姿に見惚れる者は多くいたがこの反応はいつものそれらとはなにか違う気がするのだ。
「お前……すげえ綺麗だな。なんていうか…美人?美形?ちょっと表現できない」
「幻想的、といえばいいのかな。キミ、男だったんだね」
「ああ、俺もお前軽かったし運んだとき女だと思った。フードで顔見えねえしな」
「でも貴方みたいな綺麗な男初めてみたわ。それに不思議な髪色をしている…」
「本当だ」
「……!?ちょっとその、耳」
エルの容姿に注目していた一同だったが、鳶色の髪の男がエルの耳に気が付いた。
エルの耳は尖っている。エルフの耳だ。人間とは違う。
彼の声にほかの面々もエルの耳に気付くと騒ぎ出す。
「ちょっとキミ、その耳、え?まさか、妖精!?」
「んなまさか……ねえよ、な?な?」
妖精妖精と言い出す金髪男に目に見えてうろたえるリック。妖精はないと言っているが目が明らかに泳いでいる。
「……妖精ではないよ。私はエルフだし」
エルのその言葉に場は静まり返った。
「……え?なんか変なこと言った?」
静まり返った場に困惑するエルだが、ふとある考えにたどり着いた。
もしかしてこの世界にはエルフはいないのか。目の前の人たちは見る限り全員人間だ。
「もしかして、この世界にはエルフがいない…?」
恐る恐る尋ねてみると、リックが首を縦に振った。どうやらそうらしい。
「ああ。エルフはいない。いや、どこかの森とかにもしかしたらいるかもしれないが俺は会ったことない。おとぎ話とか神話、伝説の中の存在だよ」
「……………」
「まさか、エルフだなんて。…やっぱりお前異世界から来たんだな」
「でも、そう言われたら納得できる気がする。ちょっと同じ人間とは思えない幻想的さにね」
彼女の言葉に一同が頷いた。