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白い森の使者  作者: ゆきおんな
第三章
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冒険者たちの事情

 マリアとヴェロニカの乙女心を撃ち抜いた美貌の吸血鬼公爵、ハルヴェル。

 だがしかし当の彼はあっさりと話を変えエルに向き直った。乙女二人は未だ夢心地である。フランデルがつんつんとつっついているがまるで気にもしていない。



 「それで、エル。私はこの店で厄介になっているがお前はこの世界でどうしている?」

 

 ハルヴェルの疑問にエルは穏やかに微笑んで答える。


 「リックたちの仲間に入れてもらって楽しくやっているよ」


 「仲間?見たところ冒険者集団…のようだが。冒険しているのか、エルが。……あまり想像できないな」


 ハルヴェルの言葉ももっともで。エルは白い森の主といえば聞こえはいいが、つまりは引きこもりのようなものである。あちらの世界では基本白い森の邸宅にこもっていた。森から出ることはほとんどなかった。まさに引きこもり。

 とはいえ。リックたちはご存知のとおり冒険者とは名ばかり。ご飯の美味しい宿屋を離れられないばかりにまともな冒険という冒険はしていないただのグルメ集団である。かろうじて日帰りの旅だ。先日の美味しい魚を巡る冒険は実にひさしぶりの冒険だった。彼らの原動力は「食」にある。「食」のみと言っても過言ではない。美味しいもののためなら戦える。実際彼らはかなり強い。美味しいものが懸かっていると神がかり的な強さを見せる。



 「はは。まあなんというか、そんなに冒険者じゃないからね」


 「?」


 疑問符を浮かべるハルヴェルにリックが説明する。


  

 「世話になってる宿屋の飯があまりにも美味くて離れられねーんだよな。冒険に出るとさ、あれだろ?野宿。つまりあれだ、自炊。無理無理。宿屋の飯が恋しくて恋しくて」


 「ほんとそれ!そりゃ、僕たちだってそれなりに自信あるよ、料理の腕。でもあの宿屋のご飯の美味しさを知ってしまったら無理だよね。あれには勝てない。それに材料とかの食材の問題もあるし。そこまでして冒険する理由が見つからない」


 彼らの様子に唖然とするハルヴェル。食に対する情熱に対し、彼はカルチャーショックのようなものを受けていた。



 「……私には理解しかねるのだが、そんなにその宿屋の料理は美味いのか?」


 ハルヴェルは吸血鬼ゆえに血液には一家言あるがふつうの食事にはそうこだわりはない。人間と同じように食事もするが、血さえあればまったく食事しなくても大丈夫なのだ。



 「美味しいわ!それはそれはもう、美味しいのよ!」


 ハルヴェルにハートを撃ち抜かれて放心状態だったマリアが復活した。その勢いにミントがびくっとした。


 「あ、マリアおかえりー」


 「ただいま。本当にね、美味しいのよ」


 フランデルとゆるいやりとりをしつつ美味しさを力説するマリアは色気よりも食い気である。だから美人なのに恋人がいない。以前街のおじさんにそう言われたことがあるが、彼女は気にしない。男より食い物。曰く「美味しいものは裏切らない」。正直よくわからない。





 「まあそういうわけで俺たちは冒険者を名乗ってはいるがほとんど冒険をしていないんだよ」


 バージルがにっこりとそう言った。フランデルがでも、と続ける。


 「このあいだ久しぶりに遠出したけどね」


 「美味しい魚目指してね」


 「美味しい魚な」


 「あれほんと美味かったなあ!」


 「美味しかったね」


 「ああ、また食べたくなってきた!」


 リックたちはハルヴェルそちのけで美味しい魚で盛り上がってしまった。ちなみにその中にエルもしっかり入っている。


 ハルヴェルはその様子を静かに見つめていた。

 なんかよくわからないけどエルが楽しそうでよかったな、と思いながら。


 


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