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白い森の使者  作者: ゆきおんな
第三章
34/36

黒髪の麗人

 「エル!」


 長い黒髪の男が現れ、そして、彼はエルの名前を呼んだ。



 

 「ハル、ヴェルっ……?!」


 名を呼ばれたエルは目を丸くしてその男を見つめる。

 あまり感情の起伏が激しくないエルに珍しくひどく驚いたその様子に、リックたちは何事かとエルの名を呼んだ声の持ち主へと視線を遣った。

 彼らの目に映ったのは、波打つ漆黒の長い髪に薄い灰色の瞳。白皙、というよりも蒼白い美貌の男。これまでエルほど美しい男はいないと思っていた彼らだったが、その考えを改めなければならないかもしれない。この黒髪の男はそれほどまでにひどく、美しかった。

 エルにハルヴェルと呼ばれたその男の蒼白い美貌には、驚きと、そしてなにやら喜びのような表情が滲んでいるように見えた。








 「ハルヴェルさん、どうしたんですか。こんな時間に起きているなんて」


 黒髪の男、ハルヴェルに目を奪われていた一同はユウタの声で現実に引き戻された。




 「っあー、思わず見とれちまった。凄絶な美形だな」


 思わず漏れたリックの声にヴェロニカが頷く。


 「本当にね。私も初めて見たときちょっと死ぬかと思った。心臓止まりかけたわよ」


 しみじみと語るヴェロニカにリックはそうだろうなあと深く頷いた。横でバージルもうんうんと頷いている。


 「見事な黒髪、だ。今日一日で二人も黒髪を見るなんてな。それにユウタよりもより黒って感じがする。漆黒だ」


 「ほんとう…珍しいどころじゃないわよね、黒髪なんて。私だって割と黒っぽいけどやっぱり茶髪だし。でも、すごい綺麗。………ん?いや待てよ、さっきエルって言わなかったかしらあの人」


 マリアは呟いた。

 フランデルがぱちくり瞬きをした。

 リックがあ、と声を漏らした。

 バージルが目を細めた。

 ヴェロニカがマリアに目を遣った。

 ニコが鳴いた。

 

 ユウタが再び、問いかけた。




 「どうしたんですか、ハルヴェルさん」


 二回目のユウタの問いに今気づいたとばかりにハルヴェルが目を遣る。


 「エルの気配がした気がしたから降りてきた。そうしたら、本当にエルが、いた」


 そう言うと彼はエルの方に向かって、安堵とも溜息ともつかぬ息を吐いた。


 「エルファレイド、お前どこに消えたのかと思ったら…、まさか異世界とはな」


 エルの名を正式名で呼んだ彼の口からその言葉が発せられた瞬間、漫画にすればおそらくリックたちの頭の上にはびっくりなマークが一斉に浮かんでいたに違いない。「異世界」という言葉に皆にして反応した。







 「ハルヴェル…、君はいったいどうやってここに」


 一同の反応をよそに、先程から動きが止まっていたエルが静かに淡々と言葉を紡ぐ。しかしハルヴェルを見つめるその瞳にはまだ驚きの色が浮かんでいた。


 

 「…よくわからない。だが、おそらくお前と同じようなものだろう」


 「つまり気づいたら、この世界にいた?」


 「ああ。まさしく、気付いたらこの世界にいた、だ」


 静かに言葉を交わす二人に、先程から気になっていたフランデルが我慢できなくなった。


 

 「ねえ、ちょっとちょっと!黒髪のおにいさんは、エルの知り合いなの?」


 ここにいる全員の心の内の代弁者となったフランデルに二人の目が集まる。

 黒髪のおにいさん、ハルヴェルがゆっくり口を開いた。


 

 「ああ、古くからの知り合いだ。”私たちの”世界のな」



 

 「”私たちの”って…」


 「いわゆる異世界というもの、だな」


 フランデルの言葉にハルヴェルが頷いた。そして、ゆっくりと瞬きをすると店内の一同を見渡した。

 そして姿勢を正す。




 「初にお目にかかる、我が名はハルヴェル・ラヴェルレイン。フィンドル王国が公爵、夜の森の主。そしてエルファレイドの古き友人である、吸血鬼だ」


 静かに名乗るとそれはそれは美しく、優雅に礼をしてみせた。








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