ミントの花輪
ところ変わって宿屋。
美味しい魚をめぐる冒険も終わり、いつもどおりのんびり暮らしている冒険者御一行。いや、今は冒険していないのだが。
最近はミントが散歩を覚え、毎度毎度お花を頭やら背中やらにくっつけて帰ってくるのが日常である。先日はなんと首に花輪をつけて帰ってきた。しかもその花々はそこらに生えている野の花ではなく、花屋で売っているような花で。それはそれは綺麗で。なんといっても、なんもいえねえくらいの可愛さで。一行はそれはそれはもうミントの愛くるしさに大騒ぎだったのである。
だったのである、のだが。ミントは昨日も、そして今日も花輪をつけて帰ってきた。昨日は前足にブレスレットのように、今日は頭に冠のようにのせて。さすがにこう連続すると、エルたちも気になるのである。
「これ、絶対誰かが作ったものよね。綺麗に編んである」
「ああ。それにこの花はそこらの野の花じゃないだろうな」
マリアの言葉にバージルが頷いた。
「花屋さんかなあ?すっごい綺麗だよねえ」
フランデルがミントを抱き上げ、頭に乗せられた花冠をしげしげと見つめる。小さなミントの頭にぴったりの大きさに器用に編んである。
「……綺麗だ」
エルが机の上に置かれた花輪をひとつ手に取り呟く。その花輪は凍っていた。綺麗に編まれた花輪を保存したがったマリアとフランデルに請われ、冷凍したのだ。エルによって溶けない凍結魔法をかけられたそれは、まるで氷の彫刻だ。もっとも、エルは植物を凍らせることにあまりいい顔はしなかったのだが。エルは凍らせずとも花輪を綺麗なまま保たせることもできる。……この凍った花輪はマリアの「凍らせたら綺麗そうよね」の一言の結果なのである。
「こんな綺麗な花輪作ってくれるなんて。どんな人だろう、気になるね」
ミントの顔を覗き込みながらフランデルが言う。ミントは尻尾をゆらゆらさせながら目をぱちぱちしている。
「確かに。センスいいわよね。こんなに色んな花が手に入るなんて、花屋とかかしら」
「ここらに花屋なんてあったか…?」
マリアの言葉にリックが考える。このグルメ集団、おいしい店情報に関しては異様なくらい詳しいが残念ながら花屋とはまるっきり縁がない。ずいぶん長くアロンの街を拠点にしているのだが、誰も花屋について知る者はいなかった。
そんな一同に天の声が。
「花屋なら北の端の通りにあるぞ」
宿屋の主人である。
「親父さん!それ本当?」
「ああ、嘘言ってどうする」
思わぬ人物からの情報に一同が歓喜する。といっても長く街にいながら花屋の存在を知らなかった彼らが残念なだけなのだが。
「北の端の通りっていったら、あのお洒落なとこか」
「どうりで誰も知らんわけだな。縁がねえ」
なるほどと頷く一同に、エルは苦笑した。さすがグルメ集団、おしゃれよりたべもの。色気より食い気だ。
「じゃあその店の人かもしれないな。ミントに花輪をプレゼントしているのは」
リックの言葉に一同の視線がミントに向く。
「ミント、花屋さんにもらったのかい?」
「ニイ」
エルの問いかけにミントは首をかしげた。
「…うん。わからないな」
魔物との意思の疎通はむずかしい。
「まあ、いいや。とりあえず行ってみるか?その花屋に」
「そうね、北の方あんまり行かないし行ってみるのもいいかも」
「私、行ったことないなその通り」
「そうなの?なんかお洒落な通りだよ。まあ僕も最近は全く行ってないんだけどね」
「へえ、じゃあちょうどいいじゃないか。行こうぜ」
一行は北の端の通りに行くことになった。花屋と、エルの通り観光を兼ねて。ミントの花輪を作った人物に会いに。
つまり、暇なのである。