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白い森の使者  作者: ゆきおんな
第三章
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主不在の森

 部屋を出たハルヴェルはベリアスに馬車の手配をさせると足早に外に出た。

 彼の背後には、闇の中に先程まで彼がいた城が静かにそびえ立っていた。ここは日中も深い闇に覆われている森だ。故に「夜の森」と呼ばれあまり人が近づかない静かな森だった。

 ぼんやりと淡く光る花々が幻想的な灯りとなって暗闇をうっすらと照らし視界を助ける。



 この森に住む男、ハルヴェルはフィオールの街を有する王国、フィンドルの正式なる公爵である。

 闇に包まれた森に城を構えるハルヴェルは珍しい闇色の長い髪も相まって、中央の王侯貴族から「夜の公爵」などと呼ばれていた。




 ハルヴェルは音も立てず馬車に乗り込むと夜の森を後に、白い森へ向かった。


















* * *



 「エル…、入るぞ」


 馬車に乗ってしばらく。夜の森は闇に包まれていたが、森を抜ければ時は昼前。明るかった。


 夜の森から割と近くそれほど時間もかからず白い森に着いたハルヴェルは馬車を残し、返事のない森にひとり足を踏み入れた。

 木々はハルヴェルを拒むことなく招き入れる。ひやりとした冷気が彼の肌を撫でた。




 ハルヴェルは躊躇のない足取りで白い森の主の邸宅へと向かう。


 (動物たちの様子がいつもと違う……木々も心なし騒いでいる気がする。最も、私はエルフではないから木々の気持ちなどわからないけれど、けれど確かにいつもと空気が違う…)


 森の動物たちはなにやら落ち着かない様子でうろうろしている。ハルヴェルが入ってきたから、というわけでもなさそうだ。彼らはハルヴェルに見向きもしない。よく森に出入りする彼の存在に慣れているということもあるが、その様子は他の事で頭がいっぱいであるかのようにも見える。





 しばらく歩き、白い森の主の邸宅が目の前に見えてきた。雪が降り続き、あたりは銀世界だ。

 ハルヴェルは寒さにこたえる様子もなく邸宅に近づき、


 「!」


 思わず息をのんだ。



 降りしきる雪の中、邸宅の扉が無造作に開け放されていた。


 

 ハルヴェルは恐る恐る中に入るが、人の気配は全くない。部屋の中には雪が入ってしまい、冷たく静まり返っていた。




 「エル…、エルファレイド、いないのか?」


 名を呼びつつ邸宅の中を一通り探してみるが、誰の姿もなく。




 (いない…出かけているのか?いやでも、エルはこんな無用心ではないはず…)


 一応どこかに出かけていた場合を考え、しばらくここにいることにしたハルヴェルは寝室へ向かい、ベッドに腰をかけた。欠伸をする。


 (本当にどこに行ったんだ…?よりによってこんな昼間に何やっているんだろうね、私は。眠くて仕方がない。帰ってくるまでここで一休みさせてもらおうか。……目を覚ました時には帰ってきていればいいのだけれど)


 この邸宅の主が帰ってくることを期待はしないが望みつつ、ハルヴェルはベッドに身を横たえた。

 天井をじっと見つめた後、静かに瞳を閉じた。


 

 ほどなく深い眠りに落ちると、

 彼の体がふいに鈍く淡い光に包まれ、




 

 忽然と、消えた。







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