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白い森の使者  作者: ゆきおんな
第二章
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ミントの冒険

 美味しい魚をめぐる冒険を終えた冒険者御一行が宿屋でゆっくりしている頃…



 ニコのミントは宿屋を抜け出しアロンの街に繰り出していた。散歩である。


 ミントはクルトの森で生まれ育ったため、アロンの街は初めてだ。もちろん見るもの出会うものも全てが新鮮で、きょろきょろしながらゆっくり街を歩いていた。


 




 しばらく歩くと大きな噴水のある広場に差し掛かった。子供たちがたくさん遊んでいる。その楽しそうな様子をミントが眺めていると、子供たちがミントに気がついた。


 「あ!ニコだー!」


 「緑色だよ。初めて見た!」


 子供たちが笑顔で一斉にミントの前に集まってくる。



 「わあ、可愛い。すっごい綺麗な色だね」


 金髪の女の子がミントの頭を撫でる。ミントはのどをごろごろ鳴らした。


 「ねー可愛いね。うちのペットにしちゃおうかなあ」


 「えー!わたしも」


 「わたしもこの子欲しい!」


 一人の子がペットにしたいと言えば、一緒にいた女の子たちが皆次々に欲しいと続く。

 ミントが女の子たちを見上げているあいだも、彼女たちはどんどんヒートアップ。



 「わたしが先に見つけたんだよ」


 「でもわたしになついてる!」


 「わたしのほうがこのニコちゃんに似合ってるもん!」


 

 「…ニイ」


 女の子たちの様子に一歩後ずさるミント。その様子に気づいた男の子がミントに近づく。


 「あいつらが騒いでいる間に逃げちゃいなよ。ほんとにペットにされちゃうぞ」


 赤毛の彼はミントに顔を近づけ、こっそり囁いた。

 

 「ニイ!」


 聞いたミントをペットにされちゃかなわないと、男の子の顔にありがとうと頬ずりをすると音も立てずにその場を後にした。ミントにはエルと、仲間たちがいる。














 子供たちの元を去ったミントは、またしばらく歩いていた。

 道の脇の花壇にはカラフルな花々が咲いている。甘い香りに誘われて思わず花壇に顔を突っ込んだ。


 「ニイ!」


 たくさんの花の中に顔を突っ込んだり、出したり、突っ込んだり。いい香り。なんだか楽しくなってきたミントはあっちこっちに顔を突っ込む。ぽふっ。すぽっ。ニイ!やめられないとまらない。




 「あれ、何…?」



 ミントが花壇に頭を突っ込むことにすっかり夢中になっていると誰かの声が。どうやら奇怪な行動をするミントが目にとまったらしい。

 声の主の足音が近づいて来る。いつの間にか体全体が花壇に埋まっていたミントが花の中から顔を出す。声の主を見上げた。


 

 「ニイ」


 「……ネコ?」


 声の主、黒髪の綺麗な顔をした青年がミントを見て呟く。


 「いやいやいや、でも緑だよ。緑のネコって……あるか。この世界では」


 なにやらミントを見ながらぶつぶつ言っている。

 ミントは彼を見上げ、首をかしげた。悩殺ポーズである。



 「……可愛い!なんだよこれ可愛すぎる!緑のネコ!」


 黒髪の青年がミントの可愛さに悶えていると、彼の背後にまた誰かが来た。彼に声をかける。


 


 「珍しい色のニコですねえ」



 「……ニコ?え、ジロウさん今ニコって言った?」


 ヘーゼルの瞳をした中年の紳士の言葉に黒髪の青年が聞き返す。


 「そうです、ニコですよ、キリくん。可愛いですね」


 「ニコ……ネコじゃなくて…!」


 キリと呼ばれた黒髪の青年がミントをじっと見つめた。なにやら歯がゆいようなもどかしいような、思うところがあるような表情である。


 「この色は初めて見ましたよ。綺麗な緑色です。毛並みも素晴らしい。どこかのペットですかね」


 「ペットになるんですか?ニコ」


 「ええ、大人しくて、なんといっても可愛いですからね」


 「へえ」


 「それにとっても賢いのですよ。私たちの言葉もだいたい理解できているんじゃないでしょうか」


 ジロウと呼ばれた紳士が、ね?とミントに話しかけると、ミントは彼に答えるように頷き、ニイと一声。


 「おお、ほんとだ。可愛いなあ。おいで」


 キリと呼ばれた青年はミントを呼ぶ。しかしミントは彼ではなく、ジロウと呼ばれた紳士の方に飛びついた。



 「えええ、俺じゃなくてジロウさんー?」


 がっかりした様子のキリにジロウが苦笑する。


 「あはは。魚の匂いにつられたのでしょう。さっき昼ご飯に魚を捌きましたからね」


 ジロウに飛びついたミントは彼の手をくんくん。ぺろり。


 「魚って…」


 「ニコは魚が大好きなんですよ。港町とかでよく見かけます」


 「……まんまネコじゃん」


 「ん?ネコ?」


 「ああ、いや、俺のいた世界にネコっていうのがいたんですよ。このニコにそっくりの。でも色はこんな鮮やかな緑じゃなくて茶色とか黒とか白とかそんなだけど」


 どうやらこのキリという青年、異世界から来たらしい。そしてそれはおそらくエルのいた世界とは別だ。


 「そうですか、ニコはとてもカラフルですよ。黄色やピンク、赤に青。カラーバリエーションは無限じゃないですかねえ」


 「へえ、どう見てもネコだけどやっぱり魔物なんだなあ……このニコはすごい綺麗な色だ」


 彼の言葉にミントは尻尾を振ると、彼の手に頬ずりをした。


 「…!可愛い…!」


 「喜んでいるようですね、キリくん。…ですがそろそろ行かなければ」


 ジロウの言葉にキリがはっとしたように顔を上げた。


 「ああ、そうだ。買い出しに来たんだった」


 「はい。早く行かないと売り切れてしまいます」


 「それは大変だ。名残惜しいけど……うっ…またな、ニコ」


 「さようなら、ニコくん。また会えたらいいですね」


 実に名残惜しそうにミントから手を離すと、青年キリはミントに手を振りジロウと共に去っていった。おそらくは買い出しとやらに。





 青年キリ、紳士ジロウと別れたミント。その後またしばらく花壇に顔を突っ込んで、気づけば日も暮れてきた。そろそろ帰るかと宿屋へゆっくりと向かっていく。











* * *

 


 宿屋


 「ニイ!」


 ただいま!と宿屋に帰ってくると、エルやリックたちがミントを待っていた。



 「ミント!知らないあいだにいなくなっているからどうしたのかと思ったよ。散歩かい?」


 「ニイ」


 エルがミントの頭にのった赤い花びらをつまみ上げ微笑む。どうやら花壇に首を突っ込んだ際に付いたらしい。


 「あら、綺麗な花びら。一体なにしてたの、ミント?」


 マリアに顔を覗き込まれ、ミントは尻尾をゆっくり揺らしながら


 「ニイ!」


 楽しそうに一声鳴いた。


 今日も平和である。





小話。『キリの異世界日記』から出張、キリとジロウさんでした。

ここまででひとまずの区切りです。

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