ごちそう
宿屋の食堂
「とびっきり美味い魚料理、出来上がりだ」
待ちに待った「美味しい魚」料理が出来上がった。
冒険者御一行のテンションの上がり具合は言わずもがなである。
食堂のテーブルにずらりと料理が並ぶ。どれもリックたちが捕まえてきた美味しい魚がふんだんに使われている魚料理だ。ついでにシュークロウも。湯気とともに漂ういい香りが一同の鼻腔をくすぐる。
「うわあ…すごい」
「美味そうだな!」
一同の目がキラキラと輝く。フランデルなんかはたれているよだれを隠しもしない。
「こんな上物滅多にお目にかかれんからな。今日はそれはもう腕によりをかけて作らせてもらったよ」
「さすが親父さん!もう見てるだけで美味しいわ!」
「でもでもやっぱり食べないと!うー!いただきます!」
「いただきます!」
魚料理を口に運ぶ一同。
「…やだなにこれ、美味しい!」
「本当…ちょっとこれはびっくりだよ。美味しい」
皆が美味しい美味しいと連呼する。エルも最初の一口で驚いた。…本当に美味しい。
「俺たちで料理して食べても美味かったが、これはもう、格別だな」
「ニイ!」
ミントはミントで、小皿にニコ用に作ってもらった魚料理を美味しく食べている。
「喜んでいただけてなによりだ。…それにしても、こんな魚がクルトの森?だったか?にいたんだな。全然知らなかった」
料理の美味しさに感動する一同を満足げに見守りながら宿屋の主人がしみじみと言う。
「俺たちも話を聞くまで知らなかったさ。でも本当行ってよかった、クルトの森」
「そうだね。私は正直魚のためにクルトの森まで行くなんて面倒くさいと思っていたけど、この味は最高だ。行った甲斐があったよ」
「ちょ、エル!なんてこと思ってたんだよお前」
エルのぶっちゃけた言葉にリックが仰け反る。
「いや、だって、ねえ…?」
「えええ」
「ははは、こいつらの食に対する執着は計り知れんからなあ。エルだっけ?あんたもそのうち慣れるさ」
宿屋の主人が苦笑しながらエルに言う。
「もう慣れました」
「そうかそうか。ならいい。こいつらといると毎日楽しいぞ」
楽しそうに言う宿屋の主人にリックたちは笑顔で頷く。
「そうそう。俺ら楽しいぜ!」
「毎日お気楽だもんね」
「ニイ!」
「お、ミント、そうだろ?楽しいだろう?」
「ニイニイ!」
美味しい魚料理はあっという間に一同の胃の中に収まった。皆そろって満足げである。
「はあ、美味しかったねえ」
「いやあ、本当に美味かった」
満腹になったミントはエルの膝の上でまどろんでいる。
「マルクさんにお土産渡さないといけないね」
「そうだそうだ!お土産だ!」
「ちょっとフラン、貴方すっかり忘れてたでしょ、マルクさんのこと」
「えへ、だってもうすっごい美味しかったんだもん」
「まあ俺らもさっきまで忘れてたけどな」
あはは。一同が乾いた笑いを漏らす。
とにもかくにもマルクさんへのお土産である。
「どうするよ、お土産」
一同は考える。
「とりあえず美味しい魚だよね」
「そりゃね、情報提供者だもんな」
「まだ残ってる?美味しい魚」
「残ってる残ってる」
あれだけ豪勢な料理を作ってもなお残っている美味しい魚。彼らは実におびただしい数の魚を捕まえてきていたのである。
「シュークロウはもう全部食べちまったな」
「さすがにね、うん」
「じゃあとにかく美味しい魚だな」
* * *
翌日
緑の谷 マルクの小屋
緑の谷にやってきた一同。マルクさんへのお土産は、生の(といってもエルが冷凍した)美味しい魚と宿屋の主人に作ってもらった簡単な、しかしとびきり美味しい魚料理である。
「ちょっとフラン、大丈夫?食べちゃだめよ、マルクさんへのお土産なんだから」
すでにフランデルの状態がやばい。いい香りにやられている。
「だ、大丈夫だよ。大丈夫、うん」
大変不安である。ミントに服の裾をかじられている始末だ。
「マルクさん、お土産です」
リックが小屋のドアをノックするとマルクさんが顔を出した。
「おお、君たちか。美味しい魚は見つかったかね?」
「はい、これがその美味しい魚です」
「もう本当にすっごい美味しい魚だよ!」
マルクさんはパチパチ瞬きしながらリックが差し出したお土産を受け取る。
「本当に、いたのか、美味しい魚」
「いましたよ。それはもう大漁でした」
「ほお…」
「情報提供感謝です。おかげでとびきり美味しい魚を食べることができました」
「いやいや、私はちょっとした噂を話して聞かせただけさ。それを本当に見つけ捕まえた君たちがすごい」
マルクさんは一同を見渡し、優しげに微笑む。
一同はお互いの顔を見合い、にっこり微笑んだ。
「お土産ありがとう。美味しく食べさせてもらうよ」
マルクさんへのお土産も無事渡し、彼らの美味しい魚を巡る冒険は幕を閉じた。