美味しい魚
クルトの森、とうとう池を発見した冒険者御一行。
みんな興奮気味に駆け出す。池まで一目散である。
「池だ池!やっと美味しい魚だよ!」
「ううう!長い道のりだった!」
歓喜の声をあげる一同。目の前にはそれなりに大きな池。きれいな青だ。
「ここにいるのよね、美味しい魚が。早く捕まえましょう!早く!」
「おう、任せとけ。釣竿なら用意できている」
バージルが鞄から釣竿を取り出す。実に用意周到である。
「釣竿なんか持ってたの!?日帰り冒険のつもりだったのに?」
初日のリックによる「日帰り冒険」発言を踏まえてエルが疑問を口にする。
「釣竿は冒険に必須だろう?池や川があれば魚を食べるチャンスだ!」
「そうだよ。チャンスは逃せないよ。いつでも美味しいものが食べたいもんね」
フランデルが爽やかにウインクする。
さすがはグルメ集団。食に関してはいつでもどこでも抜かりない。
「ほらほら、エルも釣竿持って。喋っている暇があったら釣りよ釣り」
マリアがエルにも釣竿を渡す。周りを見ると全員釣竿を装備している。どうやらバージルは全員分の釣竿を持ってきていたようだ。ご苦労様です。
エルもマリアたちにならって池に釣竿を垂らす。横ではミントが釣り糸の先をじっと見つめている。
「ミントダメだよ、魚食べちゃ。僕たちのだからね。もちろんいっぱい釣れたら君にも分けてあげるけどさ」
フランデルがミントの行動を注視する。僕たちの美味しい魚を脅かす存在は見逃せまい、とでもいうように。
「大丈夫だよ。ミントは大人しくしているさ、ね?」
「ニイ!」
フランデルの様子に苦笑しながらエルはミントの頭をやさしく撫でた。ミントはニイ、と頷く。ニコは結構賢くて、言葉はほとんど理解しているのである。
しばらく、一同は静かに釣りに集中している。
…と、静かだった池に波紋が。リックの釣竿に魚がかかったようだ。
「!きた!魚がかかったぞ」
「おお!リック頑張れ!逃しちゃダメだよ!」
なかなか大物な気配だ。釣竿が大きく引かれる。
「お!」
「わあ!綺麗!」
リックが魚を釣り上げた。鮮やかな水色だ。実に綺麗な色である。
「すごい!結構大きいわね」
「想像以上に鮮やかだ…」
リックの釣った魚は地面の上でぴちぴちしている。
「あっ」
そうこうしているうちにバージルの釣竿にも獲物がかかった。
「こっちもこっちも!」
「かかった!」
「わたしも!わあ!」
続いてフランデル、エル、マリアと次々魚がかかる。釣ってはかかり、かかっては釣る。大漁だ。
ミントの目は行ったり来たりと忙しい。
瞬く間に水色の山が出来上がった。用意していたバケツに入らなくなった美味しい魚たちである。ちなみにエルによってしっかり冷凍済み。そこらへんの空間だけ冷凍庫のように冷え冷えである。
「いやあ、これは大漁だな」
「水色が目にも鮮やかだね。とても綺麗だ」
水色の山を前にエルが言う。確かに綺麗だ。ちょっとしたアート作品のように見えなくもない。
「やったね!美味しい魚食べ放題だよ。もう僕お腹ぺっこぺこ!早く昼ご飯にしようよ」
気づけばもう昼過ぎである。釣りに集中していた一同はもうお腹ぺこぺこだった。というわけでフランデルの声によって早速昼食の準備がはじまった。ランチのメニューはもちろん、とれたて新鮮な美味しい魚だ。
* * *
「いただきまーす」
一同の目の前には出来たての料理が並んでいる。
生で、焼いて、煮て。美味しい魚の3種盛りである。そしてお馴染みバージルスープ。ミントには生で。辺りにはいい香りが漂っている。
「美味しい!美味しいよ!美味しい魚!」
フランデルが興奮気味に美味しいを連発する。彼が食べているのは焼き魚だ。
「本当!ただ焼いただけなのに驚く程美味しいわ!」
「生もうまいぞ。ほら、これ」
「ニイ!」
「おお!うまい!」
「本当だ、すごい美味しいよ。これはちょっとここまで来た甲斐があるね」
「俺のスープもうまいぞう」
「美味しい美味しい」
エル含め一同はすっかり美味しい魚の虜である。
たくさん作った料理もあっというまに平らげてしまった。
「うう…すごい美味しかったよ」
名残惜しそうなフランデル。水色の山をモノ欲しげに見つめている。エルはそんなフランデルの様子にまたも苦笑い。
「そうだな。でもこんな簡単料理でこんな美味かったんなら宿屋で料理してもらったら…」
リックの言葉に一同が涎を飲む。顔を見合わせ、うん、頷いた。
「早く宿屋に帰って料理してもらおう!」