クルトの森
新たな仲間、ニコのミントを加えた冒険者御一行。
じゃりじゃりになってきた細い道を進む。
「結構長いな…この道。なかなか先が見えねえ」
「ほんとにねえ。マルクさん言ってなかったけ?マリント平原からすぐだって。全然すぐじゃないしー」
歩けども歩けども細い砂利道。なかなかクルトの森にはたどり着かない。
「でもすごい入り組んだ迷路って言ってた割には全然だな。最初の分かれ道以来ずっと一本道だ」
「確かに……それってもしかして、わたしたち道を間違ったってことじゃないわよね…?」
ひたすら続く一本道に一同はなにやら不安げである。
「大丈夫だよ。この道で正しいはず」
「…その自信はどこから来るのさ」
迷いなく言い放ったエルにフランデルは不安な表情を隠さない。エルをじっと見つめる。
「エルフの力って言ったでしょう?それにこれずっと一本道だけど確かにすごい入り組んでいるよ。上空から見たらすごいくねくねしているんじゃないかな」
「そうなの?」
「確かにさっきからカーブが多いな…」
エルの言葉に首を傾げるフランデルになるほどと頷くバージル。
エルの言うとおりこの細い一本道はかなりくねくねと曲がりくねっていた。
はるか上空では空を飛ぶ魔物が旋回している。
周りの木々からはばさばさとなにやら音がする。魔物だろう。
「さっきからすごい魔物らしき視線を感じる…」
「わたしたちが気になるのね。でもエルがいるから様子を窺っているってかんじ」
マリアはそう言うとエルの横を歩くミントを見た。先ほどからミントはずっとエルにくっついてとことこと歩いている。
「貴方は全然物怖じしないのね、ミント」
「ニイ」
ミントはマリアを見上げ、エルを見た。ニイと一声。可愛い。
「ふふ、かーわいい」
* * *
そうこうしていると道にも終わりが見えてきた。
「あ!道が終わるよ!とうとうクルトの森ー!」
そろそろお腹がすいてきたフランデルのテンションが上がる。
道の先にはいかにもな森が待ち受けていた。
深い新緑の木々が生い茂っている。クルトの森だ。
「やっと着いたなクルトの森!」
「なんていうか、すごい森ってかんじ!」
森に入った一行。美味しい魚を目前にしてテンション高めである。
「これはいい森林浴だな。気持ちいい」
深呼吸するバージルにエルが同意する。
「うん。やっぱり森はいいね、落ち着くよ」
といってもまだクルトの森に入ったばかり。美味しい魚がいるという池はまだ先である。
「早速、池を探すぞ!」
「池は森の奥なんだっけ。急いで早く早急に!森の奥へ!もうお腹ぺこぺこだよ」
そろそろお昼どき。みんないい感じに空腹である。
森の奥を目指し進む一行。
リックがなにやら発見した。
「あ!あれ池じゃねえか?」
一同、急いでリックの指さした方に走るが、
「これは…」
「池っていうより水たまりじゃないかな?」
それはエルの言うとおり池というより水たまりに近い、小さな小さなものだった。
落ち葉が数枚浮いている。
「美味しい魚がいる池って森の奥にあるんでしょ?ここまだそんな奥じゃないよう」
「むむ。そうだな、ちょっと魚が待ち遠しすぎて目がおかしくなってるわ俺」
あぶない。恐るべし美味しい魚。
再び森の奥目指し歩き始める一行。
しばらく歩くと、先には今度こそ本当に池が見えてきた。そこそこ大きい。
「あれだ!」
興奮気味にフランデルが指差す。
「あれだよね?そうだよね?池だよね?魚だよねえ!?」
「落ち着いて、怖いよちょっと。ミントが引いてる…」
フランデルの様子にミントが引いている。エルの後ろにさっと隠れた。
しかしその様子に気づいたのはエルだけである。みんなもう池、いや美味しい魚のことしか頭にないようだ。その目はきっらきらである。なにやら狂気すら感じるほどだ。
「とうとうたどり着いた!伝説の池に!魚!」
別に伝説ではないが、むしろほとんど誰にも知られていないのだが、一同は踊りだしそうな勢いである。
「魚だよ魚!美味しい魚だよ!魚!」
「この時を待っていたのよわたしは!魚!」
「待ってろよ、俺の、魚!」
みんな語尾が魚になっている。
リックたちは待ちきれないとばかりに池に駆け出した。
一同のテンションに呆然としていたエルとミントが、一瞬遅れ慌ててついていく。
「…みんなすごい、こわい」
「ニイ」
美味しい魚はすぐそこ、である。