新しい仲間
細い道を選んだ冒険者御一行。
細い砂利道が続いていた。
「ほんとにこの道であってるのかな?なんかどんどん道のクオリティが悪くなっていってる気がする。すごいじゃりじゃりだよ」
続く砂利道にフランデルが不満げに呟く。
「いや、でもこれくらいの方がそれっぽくないか?未開の土地感が出ててさ」
「そうよ。クルトの森って誰も行かないんでしょ?だったらきっとこんなものよ」
フランデルのネガティブな言葉にリックとマリアはポジティブである。
そうこうしているうちに道はだんだん曲がりくねってきた。
魔物らしき気配もする。エルが敏感に感じ取った。
「魔物の気配がする…」
「魔物?俺には全然わからなかった。でかい奴か?」
バージルが大剣を構えようとするがエルが遮る。
「いや、小さい魔物だよ。そんなに凶暴そうではないし武器はたぶん必要ない。こちらを窺っているみたいだ」
エルの言葉にバージルは大剣を下ろす。
すると一同の目の前に小さな影が現れた。魔物だ。
「ニイ」
魔物が鳴く。
三角の耳と細長い尻尾を持った丸い目の小さな魔物。毛皮の色は淡いグリーンだ。こちらをじっと見ている。
「可愛い…」
エルが思わず呟いた。そう、この小さな魔物、可愛い。
「ニコだ。大人しいからペットにしてる人も多い魔物だよ」
フランデルがエルに教える。
「ニコは街とか、街の近くによくいる魔物なんだけど、こんなとこにもいたんだね」
「アロンの街でも時々みかけるぞ」
バージルが言う。その目はニコに釘付けだ。
「やだこの子すっごく可愛い!この色は初めて見たわ、綺麗ね!」
マリアの言葉にエルが首をかしげる。
「色?いろんな色があるの?」
「ええ。ニコはすっごいカラフルよ。同じ色だと思ってもでもよく見ると微妙に色合いが違ってたりするのよね」
「へえ。グリーンだけじゃないんだ」
エルが目の前のニコを見つめる。丸い目がエルを見つめ返した。
「綺麗な色だね」
エルがニコの目線に合わせてしゃがむと、ニコが寄ってきた。
「ニイ」
ちいさく鳴く。
エルが手を伸ばしゆっくり頭を撫でる。ニコが尻尾を揺らし喉を鳴らした。
「わあ、エルにすっごいなついてるー」
エルがニコを抱き上げると腕の中にすっぽり収まった。ニコは喉をゴロゴロならしてご満悦だ。
思わずエルの頬も緩む。
「…なにこれ。なにこれすごい絵になる。いま手にカメラがないことが悔やまれるわ…!」
マリアが何やら地団駄を踏んで悔しがってるが、一方でエルとニコは微笑ましくじゃれている。
「この子持って帰りたい」
「えー確かに可愛いけど、ニコの好物は魚だよ魚。魚食べられちゃうじゃーん」
エルの言葉にフランデルが何やら文句があるようで。
まあまあとバージルが入る。
「こんなに小さいじゃないか、たいして食わんだろう。それになんといっても可愛い。エルにもなついている。癒しにもなる。可愛い」
二回「可愛い」を言った。
「…要するに、お前もニコにメロメロだということだな」
やけにニコを擁護するバージルにリックが言った。
「まあ確かに可愛いけどね」
「ふふ。でも本当に可愛いわ、このニコちゃん。連れて行きましょうよ」
マリアの言葉にエルと、ついでにニコの目が輝く。
その様子にリックが苦笑する。
「…じゃあ、仲間が一匹増えたな」
「ニイ!」
リックの言葉にニコが元気よく答えた。
「名前は?名前。僕らの仲間になったんだから名前付けてあげないと」
フランデルがニコの頭を撫でながら言う。先ほどの態度とは打って変わって、である。
「確かに。名前が欲しいな。エル、何にする?」
リックがエルに尋ねる。未だニコはエルの腕の中だ。可愛い。
「名前か…。うーん、何がいいかな?」
「やっぱり可愛い名前がいいわよね」
「コイツってオス?メス?」
「オスだよ」
「オスか…なんかいい名前いい名前…」
一同が頭をひねるひねる。
エルの腕の中のニコは一同の顔を見渡している。
三十分経過。
「もうグリーンでよくねえか?」
まともな名前が思いつかなかった一同。リックが投げやりに提案する。
「それはいくらなんでもひどいよ。もうちょっとなんか…」
「でも全然思いつかないよねえ。みどりみどり…葉っぱ!葉っぱくん!」
「却下。かわいそうだわそんな名前。もっとお洒落な感じでなんかないかしらねえ」
「葉っぱ葉っぱ…んー、…ミント!ミントいいじゃん!なんかほら爽やかな感じがお洒落!」
「ミント…」
エルが声に出してみると、ニコが反応した。ニイ。
「お!反応した!」
「じゃ、ミントで決定だね!フランデル命名!ミントくん!」
「ニイ!」
「えー…」
「これだけ考えて結局すげえ安易な命名だ…」
「これでいいの?本当に?大丈夫?やっつけ感溢れているけど…」
「ニイ!」
かくして淡いグリーンのニコは本当にこれでいいのかと心配な感じに安易にミントと命名され、新たな仲間に加わった。
彼らの冒険はまだまだ続く…