三人の旅人
美味しいお魚目指して冒険中の御一行。ただいまマリント平原。
相変わらずマッドホーンとよく出会う。
「またまたマッドホーンだよ。ほらほらどっかいかないと燃えちゃうよ」
フランデルが一頭また一頭と丸焼きにしていく。
「やけにエンカウント率高いな。フラン、そこそこにしとかないとマリント平原の生態系崩れるぞ」
「えー?そんな僕一人がいっぱいやっつけたところで生態系崩れてたらこんなのもうとっくに滅びてるよ。だいじょうぶだいじょうぶ」
お腹いっぱい食べたフランデルは機嫌がいい。鼻歌交じりの丸焼きである。
彼らの通ったあとにはマッドホーンの丸焼きが転々と転がっていた。
歩き続けることしばらく、前方になにやら人影が見えてきた。
「あら、誰かいるみたいね。旅人かしら」
「三人組だ。そうみたいだね」
「へえ、今まで全然人に会わなかったけど俺たち以外にも魚を求めて旅している人たちがいるのかな」
「え!じゃあ先に行って全部とりつくされちゃったら大変じゃん。ライバルじゃん」
「…それはないんじゃないかな」
「いや、わからないぞ。なんせ美味しい魚だからな!」
「…………」
言っているうちに顔が見える距離まで近づいた。二十代から三十代くらいの男三人だ。旅慣れた感じである。
「やあ、こんにちは。あなたたちも冒険者?」
フランデルが迷わずに話しかける。
人の良さそうな茶髪の一人が頷き挨拶をした。
「こんにちは。そうさ、俺たちは冒険者だ。見たところ君たちもそうみたいだな」
リックが頷く。マリアが三人の旅人を見定めるようにじっくり見つめ、口を開いた。
「貴方たちもクルトの森に向かうのかしら?残念だけどわたしたちが先に行かせてもらうわ」
「え?クルトの森?」
挑発的なマリアの口調に旅人たちが困惑の表情を浮かべ、互いに顔を見合わせている。
「あら?違うの?クルトの森に行くんじゃないの?」
「いや、クルトの森は知らないが俺たちはエリの街に行くところだぜ」
赤毛の一人があっけらかんと言う。
エリの街はこのマリント平原を北に行ったところにある街だ。
「ほら、魚はないって言ったでしょう?そんな魚を求めて旅しているの私たちぐらいだよきっと」
エルが言うと茶髪の一人が反応した。
「魚?」
「いやいやいや。き、気にしないでなんでもないから。ところで今日はいい天気だね!あはは」
フランが明らかに不自然に話をそらす。美味しい魚の存在を知られまいと必死である。
「大丈夫だよ。魚にここまでの興味を示すのはおそらく君たちだけだから」
エルが苦笑しながら旅人三人に説明する。
「この先のクルトの森に美味しい魚がいるって話を聞いたんだ」
「魚…、君たちはその美味しい魚を求めて旅をしているのか」
「そうよ。美味しい魚のために美味しい宿屋のご飯も我慢して冒険中なのよ」
「君たちは聞いたことないのか?魚の話」
リックが尋ねる。
「知らないな。そもそもクルトの森って人の寄り付かないところじゃないのか?道中すごく入り組んでいるって話だぞ」
金髪の一人が答えた。彼の言葉にバージルがマルクさんの言葉を思い出す。
「そういえば、迷路みたいって言っていたような…」
「でもそれって好都合よね。人が寄り付かないなら魚もいっぱいいるでしょう?うふふ。食べ放題」
「そうそう。幻の美味しい魚のいる秘境!僕たち開拓者だね!フロンティア!」
マリアとフランデルのテンションが上がっていく。旅人三人が引いている。
「ええ、と。じゃあ魚?見つかるといいな」
「おう!俺たちは魚求めて進んでいくぜ!」
「そう!魚を求めて!」
「…がんばって。俺たちはこっちだ。じゃあな」
「良い旅を」
若干引き気味の旅人三人に見送られ、冒険者御一行の旅は続く。
時は夕暮れ。もうすぐ夕食の時間だ。
* * *
旅人三人組
「なんかすごい奴らだったな。グルメ的に」
「ああ、魚に対する執着がやばかった。特に金髪の奴」
「一人すごい大魔術師っぽいローブの人いたんだけど」
「あ、俺も気になってた。一人妙に冷静だったよな」
「なんか雰囲気が違ってた」
「そうなんだけど。なんていうか、なんつーか…うーん。なんか違った気がすんだよなあ。感じたことない気、っていうかなんていうか」
「なんだよお前時々変なこと言うよな」
「あーわかんね!でもなんか普通じゃない気がしたんだよホント」
「あれじゃないか?異世界人。そうだよ異世界人!きっとそうだ」
「そうかな……俺異世界人に会ったことあるけど、そうじゃなくて、なんかもっとこう、人間じゃないみたいな…」
「はいはい。なんにせよ微笑ましい一団だったよな。ああいう奴らばっかりだったら世界はもっと平和なんだろうよ」
「だな」
金髪の一人は鋭かった。