シュークロウ
マリント平原を進む冒険者御一行。
歩けども歩けども出会うのはマッドホーンばかりである。
「まただよマッドホーン…ほんっとこいつ美味しくないんだからね!燃えろー!」
美味しくないマッドホーンばかりのご登場にご立腹のフランデル。先ほどからマッドホーンが出てくるたびに炎魔術で丸焼きだ。もはや流れ作業の様相を呈している。
「本当ねえ…美味しかったら昼食になるのに」
「さっきから他の魔物が全然出てこねえ。そろそろ腹減ってきたなあ」
そろそろ昼食の時間だ。
自棄になったフランデルが片っ端から丸焼きにしていくので他のメンバーは暇である。
* * *
それから小一時間ほど。一同はまだ歩き続けていた。
「いい加減他の魔物でてこねえかなあ。そろそろ俺の腹も限界だぜ」
「フランの方もなんか色々と限界みたいよ。狂気を感じる」
相変わらず現れるのはマッドホーンばかり。フランデルの炎魔術もだんだん狂気じみてきた。
「彼は大丈夫なのかい?ちょっと怖いよ………!あ、ちょっと待って!」
「何!何がいたの?肉??」
何かに気づいたエルにフランデルが激しく反応する。その目は若干血走っていた。こわい。
「怖い怖い!落ち着いて、」
エルがフランデルの様子に引きながら後ずさる。するとどこからか鳴き声が聞こえてきた。
「…声だ。上?」
リックたちが揃って空を見上げる。
「うん、群れが来たみたいだよ」
なにやら黒っぽいかたまりがどんどん近づいて来る。上空を見上げているとそれはあっという間にこちらにやってきた。群れだ。
「あれはシュークロウだ!」
バージルが叫ぶ。
「シュークロウ?」
「美味しいやつだよ!」
エルが復唱するとフランデルが満面の笑みで答えた。先程までの狂気じみた表情からは一変、まるで別人である。
「シュークロウはね、お腹が黒いから群れで飛んでいるところを地上から見ると黒いかたまりに見えるけどほかの羽は真っ白なの。シュークロウの肉はすっごく柔らかくて美味しいのよ。それに羽毛もふわふわであったかいから結構使えるし、これはラッキーよ!いっぱい捕まえましょう!」
マリアが解説しながら弓に矢をつがえる。
「おうおう!昼食殿が自らお出ましたあいいじゃねえか」
「リックなにのんきに喋ってんの。さっさと捕まえるよ!水!」
楽しそうなリックの声を遮ってフランデルが魔術を放った。水だ。
「さすがフラン。炎で丸焼きにしたら羽毛が台無しだもんな。いい選択だ」
うんうんと頷くバージルにフランデルはそうだけど、と呟く。
「一気に焼いちゃったら美味しくないじゃん。ゆっくりじっくりがいいでしょう?それに煮込んだり炒めたりいろいろしたいじゃーん。えいっ、みず、でっぽーう!」
言いつつ水鉄砲で撃ち落としていく。見事だ。食のこととなると彼はいつもの数倍の集中力を発揮する。
「だからエル、瞬間凍結お願いね!」
十分ほどでシュークロウの群れはマリアとフランデルによってあらかた撃ち落とされた。
彼らの目の前には白い山。現在はエルがマリアが矢で撃ち殺したシュークロウの浄化作業中である。フランデルが撃ち落としたものは気を失っているだけで綺麗なまままだ生きていたので凍らすだけでもう完了している。新鮮なまま冷凍保存である。
「浄化?すごいのねえ、あっという間に血が綺麗さっぱり!」
エルがシュークロウに刺さった矢を抜くとその傷口はすぐに塞がる。そしてそのまま瞬間で凍らせていく。
「これがエルフの力…なんにもしていないように見えるよねえ」
フランデルがエルの手元を食い入るように見つめる。
「お前肉屋になれるぜ」
リックの言葉にエルが苦笑する。
「肉屋って…」
「だめだめ。エルは僕ら専用の肉屋だからね」
「いやいやいや」
「それにしても今回は俺たちまるで活躍してねえな」
「それは仕方あるまい。なんせ俺たちは剣士だ。空飛ぶもんの相手はマリアたちに任せるさ」
楽しく作業は続けられていくのだった。