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白い森の使者  作者: ゆきおんな
第二章
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エルの魔法

 美味しい魚を求めて冒険中の御一行。いまだ緑の谷である。





 「そういえばさ、エルって肉食べられたの?今更なんだけどさ」


 ふと思い出したようにフランデルが問う。しかしすでに宿屋でエルも食事をしている。そしてその料理には肉がふんだんに使われていた。本当に今更である。


 「大丈夫だよ。宿屋でもなんか肉っぽいの食べたし、美味しかった」


 「よかったよかった。なーんか僕のエルフのイメージってベジタリアンなんだよね。殺生を嫌うっていうか」


 「ああ、確かに無駄な殺生は控えたほうがいいと思うけどね。でも普通に食べるよ。それに私は好き嫌いもあんまりないしね」


 エルは食に大した執着はなく、一食抜きや軽い断食など余裕だが、一方で食べようと思えばなんでも食べられるのだ。好き嫌いはほぼない。旅先で全く苦労しないエルフである。











* * *


 そうこうしていると、緑の谷も終わりが見えてきた。


 「お!緑が途切れたぞ。これで緑の谷終わりだな!」


 「長かったな。無事に今日中に抜けられてよかった」


 視界の先では驚く程急に鮮やかな緑が途切れ、普通の平原が広がっている。マリント平原だ。


 「ここからはマリント平原か…」


 「そうよ。マリント平原も広いのよね」


 「そうそう。そして魔物がいっぱい!結構美味しいのもいるよ」


 「…食べるの前提なんだね」


 フランデルの胃袋発言にエルは苦笑する。


 「冒険の醍醐味って言ったら狩りでしょ!苦労して狩った獲物をみんなで美味しくいただくんだよ」


 「おうよ!じゃああとしばらく歩いたら狩りだな!わくわくするぜ」


 肉への期待に一同のテンションが上がる、上がる。








 マリント平原に入ってしばらく。

 一同が進んでいると前方になにやら動くものが。エルが反応した。


 「あれ…なんか魔物?」


 「え?何?何もいないじゃん」


 エルが気づきフランデルに尋ねるが、フランデルの反応はよくない。というのもその魔物らしきものがいる前方、かなりすごく前方である。人間の視力的にはちょっときついレベルの距離だ。


 「なになに?魔物いたのか?俺には見えねえけど、エルフって視力良かったのか」


 そう、エルは、エルフは視力がいい。人間よりもだいぶ遠くのものまで見える。聴覚も優れている。ちなみに嗅覚と味覚、触覚は普通である。


 

 「うん、あ、だいぶこっち来た。そろそろ見えるんじゃないかな?なんか角があるよ」


 エルの言葉通りそれからまもなくリックたちの目にも魔物の姿が見えてきた。

 頭に大きな角が一本ある中型の魔物だ。茶色い。


 「あ!本当だ!きたきた!マッドホーンだ」


 「マッドホーン…初めて魔物見たよ」


 「あらそうなの?マッドホーンは結構凶暴よ。そんな強敵でもないけど」


 「全然美味しくないんだよねあいつ。なんか獣くさい上にそこはかとなく土っぽいっていうか…」


 「え、お前マッドホーン食ったことあるのか?あれを?!」


 バージルが信じられないというような目でフランデルを見つめる。マッドホーンは確かに土の味がしそうなルックスをしている。獣くさそうでもある。少なくとも食用とはされていない魔物だ。


 「あるよう。前に一回だけね。ちょっとだけ食べてみようと思って。でも本当に美味しくなかった」


 

 彼らが話している間にマッドホーンはすぐ近くに迫ってきていた。鼻息が荒い。一番声の大きいリックに狙いを定めたようだ。リック目掛けて走ってくる。



 「ちょっとちょっと、もうここまで来ているけど!」


 「おおう、はええな!コイツこんなに足速かったか?」

 

 言いつつリックが長剣を構える。マッドホーンは武器を構えたリックにさらに近づいていった。

 と、すると急にマッドホーンはリックではなくエルの方に向かった。


 「え、ちょ、俺じゃねえのかよ!」


 「エル危ない!」


 鼻息荒いマッドホーンはエルに直進。突撃。



 「わ!」




 フランデルが魔法で助けることもなく思わず目をつぶる。ちなみにマッドホーンは主に突進するだけなのでよければ問題ない。ただしもろにぶつかるとダメージは結構大きい。


 この時のフランデル、エルはエルフだから魔法かなんかでなんとかするはず、もしくはひらりと軽く避けちゃうよね。もしぶつかっちゃっても僕が治癒魔法かければ大丈夫。でも痛いの見るのは嫌だから目つぶっちゃう!といった感じである。そして他の三人もだいたい同じ、思いは一つ。エルの、エルフの戦い方が見てみたい…!




 

 一同の期待の中、エルとマッドホーンはというと、

 衝突はしなかった。大変静かである。

 フランデルたち四人がえ?とマッドホーンを見ると、固まっていた。正しく言うと凍っていた。凍り固まっていた。エルは何食わぬ顔で佇んでいる。


 「え、え?なにこれ凍ってるの?」


 「ああ、うん。突然こっち来るから…」


 マッドホーンは見事な氷の彫像と化している。

 フランデルたちが近づき、恐る恐る触れてみる。冷たい。


 「うわ、冷てえ!本当に凍ってるぞこれ」


 「すごいな。瞬間で凍らせたのか」


 「うん。瞬間凍結だからまた瞬間で解凍したら生き返るよ」


 「えええ!嘘ぉ!」


 エルの言葉に一同が驚愕する。エルは寒い寒い白い森の主だけあって、氷系の冷たい魔法が得意、というか大好きなのだ。


 

 「今なんにも詠唱しなかったじゃん!本当に一瞬だった」


 「詠唱?」

 

 「エルフって詠唱必要ないの?なにそれすごい。ずるい」


 「詠唱って何?呪文?」


 「氷よ!とか凍れ!とかなんかそういうの唱えながら魔術使うんだよ僕らは」


 「へえ、私は何もなしだな」


 エルフは魔力が高いのである。エルもまた然り。



 「エルが戦うところ見たかったけど、なんかなんていうか、よくわかんなかったな。あまりにも一瞬過ぎて。俺の目にはエルは何もしていないように見えた」


 リックの言葉に皆が頷く。


 

 「でもさでもさ、さっきの瞬間凍結。あれすっごい便利じゃない?お肉とか魚とかさ、捌いたらすぐに凍らせちゃえば新鮮なまま保存できちゃうわけでしょ?」


 「本当だ!しかもまた一瞬で解凍できるのよね。やだそれすごい便利!」


 「え……」


 「おお!エル、お前すごいな!」


 「クルトの森で美味しい魚捕まえた暁には頼りにしてるぜ!」





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