気になる噂
小屋のドアが開き出てきたのは初老の男性だった。暗い灰色の髪と青い瞳をしている。
「いらっしゃい。どちらさんかな?」
「こんにちは。俺たちはアロンの街から来たんだけど、ここに小屋があったから少し気になって」
「あと聞きたいこともあるんです」
「それはそれは。どうぞお入りなさい。狭いが茶くらい出そう」
男性は快く小屋に一同を招いた。
皆を奥のテーブルにつかせるとあたたかい紅茶を入れてくれる。
「こちらが勝手に失礼したのに、わざわざありがとうございます」
「いやいや、わたしもここに一人だからな、こうやってたまには人と触れ合わんと」
「それよりも、なにか聞きたいことがあったんだろう?」
あたたかい紅茶になごやかな空気がただよい始めた頃、男性が切り出した。
「ああ、そうだった。このあたりになにか変わったことってありませんか?」
「変わった、こと…?」
「はい。未開の洞窟があるとか、宝物が隠されているとか」
うわあ…とエルは内心頭を抱えた。リックは直球である。まるで迷いがなかった。
「お宝ね、君たちは冒険者か」
「そうです。冒険をしようと思って」
リックたちがきらきらしながら頷くと男性は苦笑。
「残念ながらそんなロマン溢れる話は聞いたことないなあ」
「…そうですか」
まあそうそうそんな話はあるまい。皆も薄々気づいてはいたらしい。「ですよね」感が漂っている。ですよね。
「そんな壮大な話は知らんが、ちょっと気になる噂は聞いたことがあるぞ」
男性のその言葉にリックの目が光る。
「気になる噂とは…?」
「なんでもこの谷の先にマリント平原があるだろ?その先にあまり人が入らん小さな森があるんだが知っとるか?」
「森?マリント平原は知ってるけど森があるなんて初めて聞いたな…」
バージルのつぶやきに男性がうんうんと頷く。
「無理もない。平原から森まではすぐなんだが、その道のりがすごい複雑でな、まるで迷路なんだ。まあ好き好んで行く者はまずいないな」
「へえ、知らなかった…」
「それでその森はクルトの森と言ってな、奥にある池には魚がいて。その魚がすごい美味いらしい」
「魚…」
「そうだ。以前出会った旅人に聞いたんだがそれはもう美味かったと。…まあ、君らには魚なんて大したことないだろう。すまんな、こんな情報しかなくて」
男性が済まなそうに言うが、リックの目は輝いていた。他の者も同様だ。
(あ、これは行くコースだ…)
エルは諦めた。
「おじさん!素晴らしい情報をありがとう!」
「え、良かったのか…??」
「ええ!とっても興味深い話だったわ。食べるわよ、その魚!」
「おう!本当にありがとう!俺たちはその魚を目指してクルトの森に行くことにします」
「お、おお」
まさかこんなに食いつくとは思ってもいなかった男性は若干引き気味にリックの差し出された手を握った。
「ありがとうございます。お世話になりました。最後にお名前伺ってもいいですか?」
「ああ、私はマルクだ。森への道は迷路らしいからな、気をつけて」
さっそくクルトの森に向かおうと一同は小屋を後にした。
目指すは魚。クルトの森である。